ソフトバンク・NEC・ホンダ・ソニーが国産AI新会社、2030年に1兆パラメータ目標

米中のAI開発が加速するなか、日本の産業界が一つの賭けに出た。ソフトバンクを中心に大手9社・団体が出資する新会社が、今月設立された。

ソフトバンク・NEC・ホンダ・ソニーが国産AI新会社、2030年に1兆パラメータ目標

米中のAI開発が加速するなか、日本の産業界が一つの賭けに出た。ソフトバンクを中心に大手9社・団体が出資する新会社が、今月設立された。


「日本AI基盤モデル開発」の全貌

ソフトバンクNEC、ホンダ、ソニーグループの4社を中核株主として、新会社「日本AI基盤モデル開発」が設立された。本社は東京・渋谷。社長にはソフトバンクで国産生成AIの開発を指揮してきた幹部が就く。

4社に加え、日本製鉄、神戸製鋼所、三菱UFJ・三井住友・みずほの3メガバンクも出資に加わった。AI開発企業のプリファードネットワークス(PFN、東京・千代田)もモデル構築で連携する。日本のAI分野でこれだけの顔ぶれが一つの屋根の下に入るのは、これが初めてだ。

社名が「日本AI基盤モデル開発」である点が、この構想の性格を端的に示している。特定企業のブランドを冠さず、国産AIの「共通インフラ」として設計された会社だ。

中核4社の出資比率はそれぞれ十数%と均等に近い構成だ。いずれか一社がAIを独占・囲い込みするのではなく、広く日本企業が利用できる共通基盤として開放する——という設計思想がそこに表れている。

誰が何を担うか

会社内の役割分担は明快だ。

ソフトバンクNECが大規模な基盤モデルの開発を主導し、ホンダとソニーグループは完成したモデルを自社の製品・サービスに実装する側に回る。ホンダは自動運転システムや次世代ロボット、ソニーグループはゲームなどのエンターテインメントや世界トップシェアを持つCMOSイメージセンサーへの実装が想定されている。

インフラ面では、ソフトバンクが2025年にシャープから取得した大阪・堺市の旧液晶工場北海道・苫小牧市の施設を、それぞれAIデータセンターとして整備する予定だ。ソフトバンクは2026年度から6年間でデータセンターに2兆円を投じる計画も明らかにしている。

日本AI基盤モデル開発 出資各社の役割分担
企業・団体 出資比率 役割 担当領域
ソフトバンク 十数% 基盤開発主導 LLM開発・データセンター整備(堺・苫小牧)
NEC 十数% 基盤開発主導 大規模基盤モデル構築
ホンダ 十数% 実装・活用 自動運転・次世代ロボット
ソニーグループ 十数% 実装・活用 ゲーム・CMOSイメージセンサー(エッジAI)
三菱UFJ・三井住友・みずほ銀行 少数 出資 金融領域でのAI活用
日本製鉄・神戸製鋼所 少数 出資 素材・製造領域でのAI活用
プリファードネットワークス(PFN) 技術連携 基盤モデル構築への技術協力
※ 出資比率は日本経済新聞・共同通信の報道に基づく。PFNは出資ではなく技術連携。「十数%」は各社が均等に近い比率で出資することを示す。
約100人規模のAI技術者を国内各所から集約するとされている。日本のAI人材不足が深刻と言われる中、100人という数字は心もとなく聞こえるかもしれない。ただ、フォーカスを絞った精鋭集団で戦うという判断でもある。

目標は「フィジカルAI」、2030年度に1兆パラメータ

新会社が掲げる数値目標は、パラメータ数1兆という国内最大規模の大規模言語モデルLLM)の開発だ。テキストだけでなく、画像・映像・音声などを統合的に扱えるマルチモーダルな設計にする。

さらにその先には「フィジカルAI」の確立を目標に据える。フィジカルAIとは、テキスト生成にとどまらず、周囲の物理環境を理解してロボットや機械を自律的に動かせるAIのことだ。製造現場での設備制御や工場の自動化など、日本の製造業が長年蓄積してきた産業データとの相性が良い。

2030年度までにロボットや機械と連携できる水準を目指す、というのが公表されたタイムラインだ。

「日本AI基盤モデル開発」ロードマップ
2025年
インフラ準備
ソフトバンク、シャープから大阪・堺市の旧液晶工場を取得。AIデータセンターへの転換工事開始。北海道・苫小牧市拠点も整備着手。
2026年4月
新会社設立
「日本AI基盤モデル開発」発足。社長にソフトバンク幹部が就任。約100人規模のAI技術者を集約。NEDO支援公募に応募予定。
2026年度〜
2028年度
集中開発フェーズ
政府・NEDO経由で5年間・1兆円規模の支援を受ける見通し。ソフトバンクは2026年度から6年間でデータセンターに2兆円を投資予定。
2020年代末
1兆パラメータ達成
国内最大規模となる1兆パラメータ級の大規模言語モデル完成を目指す。テキスト・画像・映像・音声に対応するマルチモーダル構成。
2030年度
フィジカルAI実現
製造現場のロボット・機械と連携できるフィジカルAIの実用化が最終目標。ホンダの自動運転・ソニーのエッジAIへの実装も完了させる段階。
※ 日本経済新聞・共同通信・ビジネス+IT各報道に基づく。2026年度〜の政府支援規模は経済産業省の計画値(NEDO採択後に確定)。

国家戦略との連動

新会社は近く、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する国産AI開発支援の公募に応募する見通しだ。経済産業省は2026年度からの5年間で1兆円規模の支援枠を設けており、新会社はその有力採択候補と目されている。

背景には経済安全保障の論点もある。生成AIが工場の稼働状況や企業の機微データを扱う場面が増えた今、学習データの海外流出を嫌う声は産業界で高まっていた。国産AIを持つことは、単なる技術競争の話ではなく、データ主権の問題でもある。

日本はOS、検索エンジン、スマートフォン、クラウドと、デジタル基盤のほぼ全領域で海外企業に市場を奪われてきた。AIで同じ轍を踏まないための「官民総力戦」という構図だ。

現実的な壁をどう越えるか

期待は大きい。ただ、課題を直視しないわけにもいかない。

生成AIの開発競争では、OpenAIGoogleが数千億ドル単位の資金と計算資源を注ぎ込んでいる。新会社の資本金は約100億円規模と報じられており、規模の差は歴然だ。単純な「追いつき競争」では勝ち目はない。

新会社が描いているのは、フィジカルAIロボット制御という特定領域への集中投資という差別化戦略だ。日本の製造業データという他国が容易に複製できない資産を武器にする、という構想には一定の説得力がある。もっとも、その戦略が「本当の差別化」になるか「器用貧乏なガラパゴス化」になるかは、2030年度を待たずして見えてくるだろう。


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