デジタル主権

オープンソースが20年かけて解けない錠前。Office文書の互換性に必要なもの

OOXML

オープンソースが20年かけて解けない錠前。Office文書の互換性に必要なもの

The Document Foundation(TDF)がMicrosoftの文書形式によるロックインを改めて批判した。だがOOXMLエンジンは無数にあるのに、いまだにWordファイルを他のソフトで正確に表示できない。 ブラウザ戦争の記憶 1995年、ビル・ゲイツ(Bill Gates)は社内メモでこう書いた。インターネットがすべてを変える、Microsoftはこれを最優先事項にしなければならない、と。 当時のMicrosoftには、インターネットを支配できるだけの体力があった。Windows 95は爆発的に売れ、ネットに接続しているユーザーよりWindowsユーザーのほうが5倍から10倍多かったとされる。 Internet Explorerをバンドルし、Windows専用のコンテンツとサービスを押し出せば、オンライン空間を丸ごと囲い込める。ゲイツはそう踏んだ。 結果は逆だった。 インターネットは最初からオープンに生まれ、そのプロトコルは企業の都合に縛られず進化した。オープンソースのサーバとネットワーク技術は、収益モデルを必要とせず大規模に展開できた。 オープンソースの

TDF、OOXML形式を「Microsoftのロックイン兵器」と批判

LibreOffice

TDF、OOXML形式を「Microsoftのロックイン兵器」と批判

LibreOfficeの開発母体が、DOCX・XLSX・PPTXに依存する構造の危険性を改めて指摘した。背景にはドイツ政府のODF義務化やEuro-Officeとの対立がある。 7000ページの「標準」 The Document Foundation(TDF)の創設メンバー、イタロ・ヴィニョーリ(Italo Vignoli)氏が7月17日、ブログ記事を公開した。Microsoft Officeの独自ファイル形式がユーザーを同社製品に縛り付けている、という批判だ。 この批判自体は以前から繰り返されてきた。今回ヴィニョーリ氏があらためて焦点を当てたのは、標準化プロセスと実態の乖離だ。 OOXML(Office Open XML)はISO/IEC 29500として国際標準化されている。形式的にはオープンな規格だ。 しかし仕様は約7000ページに及び、Microsoft Officeの既存の動作をXMLの形に落とし込んだもので、レガシー機能や非公開の実装仕様が含まれる。第三者が完全に実装することは事実上不可能とされる。 さらに決定的な問題がある。OOXMLにはStrictとTra

Euro-Office正式リリース後、TDFがトーンを変えた理由

オープンソース

Euro-Office正式リリース後、TDFがトーンを変えた理由

「欧州主権」を掲げるEuro-Officeと、それを批判し続けてきたLibreOfficeの母体The Document Foundation(TDF)。v1.0が公開された直後、TDFが出した声明は、これまでとは明らかに違うものだった。 批判から「歓迎」へ Euro-Officeは6月9日、GitHubでバージョン1.0を正式公開した。Nextcloud Hub 26 Springに統合される形で、ウェブエディタとしての提供が始まっている。 リリース直前の6月8日、TDFのイタロ・ヴィニョーリ(Italo Vignoli)氏は公開状で「事実上のMicrosoft同盟者」と切り捨てた。「欧州初」の看板は事実ではない、OOXMLをデフォルトにする時点で主権の名に値しない。既報の通り、かなり激しい批判だった。 ところが3日後の6月11日、同じヴィニョーリ氏が発表した2度目の声明は、読み比べると驚くほどトーンが違う。 冒頭から「TDFはオープン標準が注目を集めていることを歓迎する」と書き出し、Euro-OfficeのODFサポート改善の約束を「まさに欧州の自由ソフトウェアコミュニ

「欧州主権」を掲げるEuro-Officeに、LibreOfficeが公開状で反論

オープンソース

「欧州主権」を掲げるEuro-Officeに、LibreOfficeが公開状で反論

「欧州初のオープンソースオフィス」として鳴り物入りでリリースされたEuro-Officeに、The Document Foundation(TDF)が真っ向から異議を唱えた。技術仕様への批判ではなく、「デジタル主権」という言葉の中身への問いかけだ。 「欧州初」は事実ではない 6月8日、TDFのイタロ・ヴィニョーリ(Italo Vignoli)氏がオープンレターを公開した。翌日のリリース直前を狙った公開だ。 欧州オープンソースオフィスの系譜 2001年OpenOffice.org 公開StarOfficeのソースコードを基に欧州で開発。欧州初のオープンソースオフィスとしてODFを標準形式に採用した。2006年ODF、ISO/IEC標準にOpenDocument Format(ODF)がISO/IEC 26300として国際標準化。デジタル主権の礎となる形式が確立された。2010年LibreOffice 誕生OpenOffice.orgからフォーク。The Document Foundation(TDF)が設立され、ODFネイティブ対応のオープン

英国議会、パランティアのNHS契約破棄を勧告

セキュリティ

英国議会、パランティアのNHS契約破棄を勧告

英国の医療データを、米国の防衛テック企業に任せ続けるべきか。英国議会の委員会がこの問いに、異例の厳しさで答えを出した。 「受け入れがたい弱点」 英国下院の科学・イノベーション・技術委員会は6月3日、公共部門のデジタル化に関する報告書を公表し、パランティア(Palantir)が英国の公共部門で担う役割は「受け入れがたい弱点(unacceptable point of weakness)」であると警告した。 焦点はNHS(国民保健サービス)との3億3000万ポンド(約709億円)の契約だ。NHSが全国の医療データを横断的に統合・分析するために導入した「連合データプラットフォーム」(Federated Data Platform、以下FDP)の基盤ソフトウェアを、パランティアが提供している。 委員会は英国政府に対し、2027年2月の 中途解約条項を行使 してこの契約を打ち切り、英国企業による代替システムの開発、あるいは内製化に移行するよう勧告した。 委員長を務めるデイム・チ・オンウーラ(Dame Chi Onwurah)議員は声明で、「ベンダーロックインは不可避ではない。英国は公

EU議会、Google排除でQwant採用へ

テクノロジー

EU議会、Google排除でQwant採用へ

欧州議会が6月4日から、議会内コンピューターのデフォルト検索エンジンをGoogleからフランスのQwantに切り替える。検索窓ひとつの変更に見えるが、その裏にはEUが本日6月3日に打ち出す「テック主権パッケージ」がある。デジタル製品・サービスの8割以上を域外に頼る欧州が、依存構造そのものを問い直し始めた。 「デジタル主権と個人データ保護のため」 欧州議会の職員に送られた内部メールは端的だった。6月4日木曜日から、FirefoxとEdgeのアドレスバーで実行される検索は自動的にQwant経由になる。議員や職員が手動でGoogleに切り替えることは引き続き可能だが、デフォルトはQwantになる。理由として挙げられたのは「デジタル主権へのコミットメントと、利用者の個人データ保護」だという。 Qwantは2013年にパリで設立された検索エンジンで、ユーザーの追跡を行わず、検索履歴を記録せず、個人データを広告に利用しないことを掲げる。GDPRの適用圏内であるフランスにインフラを置き、Googleのビジネスモデルとは正反対のアプローチで運営されている。フランス政府は2018年にすでに行政機

欧州連合が本気で挑むMicrosoft Office脱却

テクノロジー

欧州連合が本気で挑むMicrosoft Office脱却

欧州のテック企業十数社が結集し、Microsoft 365とGoogle Docsに代わるオープンソースのオフィススイート「Euro-Office」を開発した。6月9日に安定版がGitHubで公開される。「デジタル主権」を掲げる壮大な試みだが、発表直後からフォーク元との法的紛争やフォーマット論争が噴出し、船出は荒波の中だ。 10日後に迫る「脱・米国依存」のオフィススイート Euro-Officeは、ドイツのクラウドホスティング大手IONOSとオープンソースコラボレーション基盤Nextcloudが中核となり、EuroStack、XWiki、OpenProject、Soverin、Abilian、BTactic、Open-Xchange、Office.euなど欧州各国の企業・団体が開発リソースを持ち寄ったプロジェクトだ。 2026年3月27日にベルリンで発表され、テクニカルプレビューが即日公開。6月9日に1.0安定版がGitHubで一般公開される。同日リリースのNextcloud Hub 26 Springにも統合され、IONOSのManaged Nextcloud顧客は発売直後か

KDE、ドイツ政府基金から128万ユーロ獲得

Linux

KDE、ドイツ政府基金から128万ユーロ獲得

ドイツ政府系のSovereign Tech Fundが、KDEに128万5,200ユーロを投じる。Plasmaの再起動からの復帰機構やKDE Linuxの工場出荷状態リセット機能まで、用途は12項目に細かく割り振られている。 公共投資の対象が「デスクトップ環境」になる時代 2026年5月13日、KDEはドイツ政府が出資するSovereign Tech Fund(ソブリン・テック・ファンド、以下STF)から、128万5,200ユーロ(約2億3,800万円、約151万米ドル)の投資を受けると発表した。期間は2026年から2027年の2年間。Plasma、KDE Linux、そしてその両方を支える通信フレームワークの強化に使われる。 KDEがこれまで受けた助成金としては最大級の額となる。だが、注目すべきはむしろ「ドイツ政府が、特定のデスクトップ環境に1億円を超える税金を直接投じた」点のほうだ。 STFは2022年にドイツ連邦経済・気候保護省の予算で設立された組織で、Pythonソフトウェア財団、FreeBSD、Eclipse、OpenStreetMap、Drupalなど、社会基盤と