Windows 10の葬儀、3億台の墓標がパリに並んだ日
パリ郊外のMicrosoft France本社前に、棺が置かれた。喪服に身を包んだ20人ほどが「3億台のPC」と書かれた花輪を抱え、黙々と進む。Windows 10サポート終了に抗議する象徴的な葬儀デモが、フランスで動き出した。
パリ郊外のMicrosoft France本社前に、棺が置かれた。喪服に身を包んだ20人ほどが「3億台のPC」と書かれた花輪を抱え、黙々と進む。Windows 10サポート終了に抗議する象徴的な葬儀デモが、フランスで動き出した。
サポート終了まであと半年、棺が運び込まれた
2026年4月24日、パリ郊外イシー=レ=ムリノーのMicrosoft France本社前で、6つの市民団体が葬儀の隊列を組んだ。喪服姿の20人ほどが「Microsoft」のロゴ色をまとった棺を担ぎ、本社入口前にそっと横たえる。棺の上には花輪と、こう刻まれていた。「3億台のPC」と。
参加団体はアルテルナティバ(Alternatiba)、ANV-COP21(非暴力COP21行動)、ゼロ・ウェイスト・フランス(Zero Waste France)、ク・ショワジール・アンサンブル(Que Choisir Ensemble、旧UFC-Que Choisir)、オップ(HOP、計画的陳腐化を止める会)、そして自由ソフトウェア推進団体のアプリル(April)。気候運動、消費者保護、フリーソフトウェアという普段は接点のない領域が、一つの棺の前に集まった。
主催者が冷えた声で読み上げる。
私たちは今日、フランスのオーバーシュート・デー(年間使用可能な自然資源を使い切った日)に集まりました。Microsoftが課す互換性のないアップデートによって、3億台超のPCが早すぎる死を宣告されることに、抗議するためです。
葬儀は単なる演出ではない。Windows 10の公式サポートは2025年10月14日に終了している。延命策として用意されたConsumer ESU(拡張セキュリティアップデート)も、2026年10月13日が消費者向けプログラムの正式な終了日に設定されており、そこから先の有料延長オプションは個人ユーザーには提供されない。半年後、Windows 10は本当にフェードアウトしていく。
なぜ「3億台」なのか、何が捨てられるのか
抗議団体が掲げる数字は容赦ない。Windows 11はTPM 2.0と一定世代以降のCPUを要求する。この壁を越えられないPCが、世界に3億台残っているという推計だ。物理的にはまだ動く。バッテリーは生きている。それでもセキュリティ更新が止まれば、ネットに繋ぐこと自体がリスクになる。
団体の試算では、これらのPCを廃棄した場合のCO2排出量は5800万トンに達する。フランス全世帯の暖房1年4か月分に相当する規模だ。さらに、ノートPC1台の製造には約800kgの原材料が必要とされる。3億台分の資源が、機械的にはまだ機能するモノの墓場に積み上がっていく。
ノートPC1台の製造には、およそ800kgの原材料が投入される。動くマシンを廃棄することは、その800kgをすべて無駄にすることと同義だ。
経済的な負担も小さくない。新しいPCの平均的な購入額は約600ユーロ(約10万2000円)。ESUに登録して半年延ばしたとしても、2026年10月以降は同じ判断を迫られる。動くPCに金を払うか、捨てるか、それとも別の道を選ぶか。
抗議団体が掲げた要求はシンプルだ。Microsoftに対し、Windows 10のサポートを2030年まで延長すること。技術的には可能なはずだ、というのが彼らの主張の根拠になっている。実際、Microsoftは法人向けには2028年まで有料ESUを提供しており、コードを更新する能力そのものは存在している。問題は、誰のために、どこまで提供するかという経営判断にある。
「Microsoftの病から治る方法はある」アプリルの呼びかけ
葬儀の場で最も力を込めて語ったのは、フリーソフトウェア推進団体アプリルのスポークスパーソンだった。彼は「Windowsは宿命ではない」と切り出し、感染症の比喩で語り続けた。
Microsoftというウイルスに侵されたPCたちは、決して不治の病に冒されているわけではない。なかには一度も感染していないPCすらある。別のコンピューティングのあり方は、確かに存在する。
代替案として彼が挙げたのが、Linuxとフリーソフトウェアだ。UbuntuやDebian、Fedoraといったディストリビューションは無料で、Windows 11が要求するハードウェア基準を遥かに下回るスペックでも動作する。Windows 10で動いていたPCの大半は、Linuxに乗り換えることでさらに数年延命できる。
ただし「乗り換え」には学習コストが伴う。アプリルは、フランス各地に存在するボランティア組織がインストール・パーティーを開き、移行支援を無償で提供すると訴えた。技術に詳しくない高齢者や、これまでWindowsしか触ったことのない層にとって、誰かが横にいてくれるかどうかは決定的な差を生む。
そしてアプリルは、より構造的な批判も展開した。市販のPCを買うとほぼ必ずWindowsが「不可分の部品」として組み込まれており、ライセンス料が本体価格と分離されていない。これは選択ではなく強制だ、と。価格の分離表示と、フリーソフトウェアを学校教育で扱うこと。アプリルが要求するのは、Microsoftの撤退ではなく、選択肢が見える状態の回復だ。
フランス政府も動いている、葬儀は孤立した抗議ではない
実は、この葬儀デモは独立した出来事ではない。背景には国家規模の地殻変動がある。フランス政府は2026年4月、政府職員の使用するPCの一部をMicrosoft Windowsからオープンソースの Linux に移行する計画を発表した。公共活動・会計担当のダヴィッド・アミエル(David Amiel)大臣は、「我々のデジタル運命の支配権を取り戻す」と表明している。
対象はフランス公務員約250万人分のワークステーション、すべての省庁が2026年秋までに移行計画を提出することが義務付けられた。フランス国家憲兵隊(Gendarmerie nationale)はすでに2008年からUbuntu派生の独自ディストリビューション「GendBuntu」を使い続けており、運用台数は10万台を超える。年間およそ200万ユーロのライセンス費用節減効果が報告されている。
ドイツのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州も、3万台のワークステーションのLinux移行を80%まで進めており、2026年だけで1500万ユーロの節約に成功したという。ヨーロッパ全体が、米国製ソフトウェアへの依存から距離を取り始めている。
葬儀デモは、こうした国家レベルの動きの市民版と言える。政府が動くなら、市民も動く。3億台の運命が、2030年までのサポート延長か、Linuxへの大移動か、それとも単純な廃棄か。分岐点は2026年10月14日に置かれている。
Microsoftは応じない、しかし署名は5万を超えた
抗議団体は10日前、Microsoftに公開書簡を送った。「Windows 10のアップデートを2030年まで継続してほしい」という要求だ。返事は、なかった。
葬儀の最後、ANV-COP21のスポークスパーソンが「死亡通知書」を持って本社に向かう。受付に対応したのは、Microsoftの社員ではなく、ビルを管理する別会社のスタッフだった。Microsoft France社長コリーヌ・ド・ビルバオ(Corine de Bilbao)への面会要請が伝言として置かれただけで、対面の対話は実現していない。
一方、HOPが1年以上前から続けている「Windows税ノー」請願は、UFC-Que Choisirやエマウス・コネクトを含む20以上の団体の連合に支えられ、すでに5万人を超える署名を集めた。要求は3つに整理されている。第一に、Windows 10セキュリティ更新の2030年までの延長。第二に、PC販売後最低15年間のソフトウェア更新提供を義務付ける法律の制定。第三に、ユーザーへの代替OS情報提供の義務化だ。
私たちは支払い済みのサービスが奪われることを拒む。完全に動作するPCを更新することを拒む。このソフトウェアの計画的陳腐化の論理に屈することを拒む。
約半年前の2025年6月、同じ団体連合を含む各国の圧力を受け、MicrosoftはConsumer ESUに無償の登録経路を追加した。Microsoftアカウントで設定をクラウド同期するか、Microsoft Rewardsポイント1000pt、もしくは30ドルの一括購入で、誰でも2026年10月まで無料延長できる仕組みだ。動かないと思われた巨人が、一度は動いた。だからこそ、彼らは今回も諦めていない。
技術の寿命は、誰が決めるべきなのか。動いているマシンに「死」を宣告できる権限が、なぜ一企業に集中しているのか。3億台の棺が突きつけているのは、結局、所有という言葉の意味そのものなのかもしれない。
参照元
- Piratons Microsoft - 公式キャンペーンサイト
- DINUM公式 - Souveraineté numérique : l'État accélère la réduction de ses dépendances extra-européennes
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