AI採用選考が「若くて肌の白い男性」を優遇する。研究者が実験で確認

CSIROの研究者がGPT-4とCopilotに模擬採用を行わせた結果、両モデルとも男性候補を優遇し、生成画像は若く肌の色が薄い人物に偏った。技術的修正だけでは解決できない構造的な原因を、2つの研究と米国の大型訴訟から読み解く。

AI採用選考が「若くて肌の白い男性」を優遇する。研究者が実験で確認

CSIROの研究者がGPT-4とCopilotに模擬採用を行わせた結果、両モデルとも男性候補を優遇し、生成画像は若く肌の色が薄い人物に偏った。技術的修正だけでは解決できない構造的な原因を、2つの研究と米国の大型訴訟から読み解く。


「理想のエンジニア」を描かせたら

AIに「ソフトウェアエンジニアの採用候補者」を選ばせたら、どんな人物が残るのか。

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)のムニーラ・バノ(Muneera Bano)氏とディダー・ゾーギ(Didar Zowghi)氏が2025年に発表した研究は、この疑問に正面から答えを出した。GPT-4(現在は提供終了)とMicrosoft Copilotの2つのAIモデルに、4つの職種に対して300件の候補者プロフィールを生成させ、推薦と画像生成を行わせる模擬採用だ。

結果は明快だった。両モデルとも男性を優遇した。とりわけ上級職でその傾向は顕著になった。生成された「理想の候補者」の画像は、若く、細身で、肌の色が薄い人物に集中した。

モデルは「差別しろ」と指示されたわけではない。言語、画像、雇用記録、そして「誰がこの職業に属するか」という暗黙の前提をデータから学習し、それを忠実に再現した。

研究室の実験で済む話ならまだいい。だがAIによる推薦はすでに、採用・教育・行政サービスの現場に入り込んでいる。

100件応募して、全部落ちた

デレク・モブリー(Derek Mobley)氏は40代のアフリカ系アメリカ人で、金融の学士号とIT分野の準学士号を持つ。2017年に解雇された後、人事ソフトウェア大手Workday(ワークデイ)の採用プラットフォームを通じて100件以上の求人に応募した。全て不採用だった。

ある日、午前1時前に応募した求人から1時間足らずで不採用通知が届いた。人間が審査する時間帯ではない。モブリー氏は2023年、WorkdayのAI選別ツールが人種・年齢・障害に基づく差別を行っていると主張し、連邦裁判所に提訴した

この訴訟は2026年に入って急展開を見せている。3月、リタ・リン(Rita Lin)判事は、Workdayが主張していた「年齢差別禁止法(ADEA)は求職者には適用されない」という論拠を退けた。6月にはカリフォルニア州の差別禁止法(FEHA)に基づく請求についても、WorkdayのAIツールがカリフォルニア本社から設計・運用されている以上、州外の応募者にも適用されうるとの判断を下している。

Workdayは一貫して主張を否定し、「採用の最終判断を下すのは顧客企業であり、自社のツールは資質だけを見ている」と反論している。だが裁判所は、Workdayが雇用主の「代理人」として法的責任を問われうると判示した。AIツールが候補者の選別を実質的に決定している以上、「ソフトウェアを提供しているだけ」という主張は通らない、という判断だ。

Workday AI採用訴訟の経緯
2023年2月
モブリー氏が提訴
AI選別ツールが人種・年齢・障害で差別と主張し連邦裁に提訴
2024年7月
棄却申し立てを一部却下
Workdayは雇用主の代理人として責任を問われうると判示
2025年5月
年齢差別の集団訴訟を認定
40歳以上の求職者による集団訴訟として条件付きで認定
2026年3月
「求職者に法は適用されない」を退ける
Workdayが主張した年齢差別禁止法の適用除外を裁判所が否定
2026年6月
州外の応募者にも適用と判断
AIツールの設計地がカリフォルニアなら州外にも法が及ぶと判示
※Workdayは一貫して主張を否定。訴訟は係争中

Workdayの採用プラットフォームは世界で1万1,000以上の組織に利用されている。この訴訟の帰結は、AI採用ツールを使う全ての企業に影響を及ぼす。

アルゴリズムを直しても、根は残る

バノ氏とゾーギ氏は別の2025年の研究で、報告済みのAI関連事故を手作業で分析している。その結果約半数が多様性に関わる問題を含んでいた。人種・ジェンダー・年齢による差別が最も多く、原因は多様性のない訓練データ、そして設計・開発・運用の各段階で多様性への配慮が欠落していたことに帰着した。

バイアス(偏り)の検出、データセットの再均衡、出力の調整。こうした技術的な修正は意味がある。だがこれらの手法には共通の限界がある。偏りをモデルの属性として扱い、モデルの内部で解決しようとする点だ。

データはAIに「現実の中立な記録」として入るわけではない。何を収集し、どう分類し、誰の経験を重要とみなすか。その判断は全て人間が下している。歴史、文化、制度、権力の不均衡がそこに入り込む。

リーダーシップと男性。技術力と白い肌。革新と若さ。社会がこれらを結びつけてきた歴史があり、AIモデルはその結びつきを学習し、定式化し、自動で反復する。反復の速度と規模だけが、人間の偏見を超えている。

2026年7月に公開されたプリンストン大学とシカゴ大学の研究は、この問題をさらに深刻に見せた。ChatGPT、Claude、Geminiなどの大規模言語モデルに模擬採用ゲームをさせたところ、AIは人間より速く偏りを固定した。全ての候補者の成功確率が等しく設定されていたにもかかわらず、AIは初期の少ない事例から特定のグループを特定の職種に振り分け始め、その分類を固定化させた。

バノ氏らは、偏りが複数の属性の交差で現れる点も指摘している。性別だけ、人種だけで検証すれば公平に見えるシステムが、性別と人種と年齢が重なる地点で不利益を生む。個別の属性を1つずつテストする方法では、この種の偏りは検出できない。

データを選んだのは誰か

2人の研究者がThe Conversationに寄稿した解説記事の結論は、技術的修正の先を見据えている。AIエンジニアが社会科学の知見を学ぶこと。影響を受ける集団が開発プロセスに実際に参加すること。正確さだけでなく、恩恵と害がどの集団に偏っているかをテストすること。そしてAIを導入する組織が、リスクの監視と問題発生時の対応に責任者を置くこと。

日本でもソフトバンクやウエルシア薬局がAI面接を導入し、採用過程へのAI活用が広がる中、Workday訴訟やCSIROの研究が突きつけている疑問は日本にもそのまま当てはまる。

アルゴリズムは、どのデータが重要か、どの程度のリスクが許容されるかを決めない。その判断を下したのは人間であり、問題が明らかになった後の対応を決めるのも人間だ。偏ったアルゴリズムを修正する技術は必要だが、それは答えの半分にすぎない。もう半分は、その判断に誰がいなかったかにある。

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