AIは雇用を奪うのか増やすのか。10億件の求人が出した答え

AIは雇用を奪うのか増やすのか。10億件の求人が出した答え

PwCが10億件超の求人広告を分析した2026年版レポートが、AI時代の労働市場に走る亀裂の正体を浮き彫りにした。AIを「人の力の増幅器」として使う企業と、「コスト削減の道具」として使う企業。その差は、もう数字で見えている。


「二つの道」に分かれる労働市場

PwCが6月15日に公開した「2026 Global AI Jobs Barometer」は、6大陸27カ国・地域の10億件超の求人広告を横断的に分析した調査だ。2025年版に続く年次報告で、今年のデータが浮かび上がらせたのは「専門職化(professionalised)」と「民主化(democratised)」という二つの道だった。

専門職化とは、AIがルーティンワークを引き受け、判断力や創造性といった人のスキルがより重要になる方向を指す。放射線科医や採用担当者が典型例だ。一方の民主化は、AIが参入障壁を下げ、専門外の人でもこなせるようになる方向。ITサービスマネージャーや医療事務がここに入る。

数字は明快だ。専門職化された職種は、求人の伸び率が民主化された職種の2倍。賃金の伸びも42%速い。AIに仕事を「助けてもらう」のか「取って代わられる」のかで、キャリアの行き先がまるで違う。

雇用を殺すどころか、増やしている

「AIが仕事を奪う」という恐怖は、もう何年も語られてきた。だが今回のデータは、少なくともマクロでは逆の絵を描く。

AI活用度が最も高い企業群は、2018年比で雇用を52%増やした。最も低い企業群は36%。差は16ポイント。AIに深く踏み込んだ企業ほど、人を雇っている。

生産性も同じだ。AI活用度が高いセクターは2018年比で34%の生産性向上、低いセクターは24%。ここまでなら「AI企業は強い」で終わる話だが、PwCはさらに踏み込んだ。上位20%の「スーパースター企業」は、生産性を163%伸ばしていた。全体平均の約5倍。恩恵は一部の企業に極端に集中している。

AI活用度が高い企業ほど雇用も生産性も伸びる
※ 2018年を基準とした2025年時点の伸び率。「トップ20%」はAI活用度上位20%企業の生産性。PwC 2026 AI Jobs Barometer

PwCのグローバル最高AI責任者、ジョー・アトキンソン(Joe Atkinson)氏は、AIから最大のリターンを得ている企業は人の専門性を増幅し、イノベーションを加速させ、まったく新しい価値の源泉を創り出していると指摘する。自動化でコストを削ることに集中する企業との差は、生産性でも成長でも広がり続けているという認識だ。

AIスキルの「値札」は上がり続ける

AIスキルを要求する求人は、2025年に69%成長した。求人市場全体の伸びが9%だから、約8倍の速度だ。求人数は2024年のほぼ2倍に達し、2015年以降すべての職種カテゴリの伸びを上回る。

賃金プレミアムも拡大が止まらない。AIスキルを持つ人材の賃金は、持たない人材より平均で62%高い。前年の57%からさらに開いた。業種による差も大きく、消費財市場では118%に達する一方、官公庁では16%にとどまる。

業種別で見ると、テクノロジー・メディア・通信がAI関連求人の伸び率11%で首位。プロフェッショナルサービスの6%が続き、ヘルスケアは1%未満と大きく出遅れた。

金融アナリストは、この構造変化を象徴する職種だ。AIに置き換えられるどころか、より複雑な分析を可能にするツールを手に入れた結果、雇用は増え続け、新たな専門領域が生まれ、その多くはより高い報酬を得ている。

新人に「ベテランの力」を求める時代

見過ごせない変化は、エントリーレベルの職で起きている。

PwCは米国の240万件のエントリーレベル求人を分析した。AIの影響を強く受ける職種では、リーダーシップ・創造性・対面コミュニケーションといった「上級職のスキル」を求められる確率が7倍に跳ね上がっていた。こうした「上級職スキルを求めるエントリーレベル職」の求人は2019年以降35%増加し、それ以外のエントリーレベル職は10%減っている。

エントリーレベル職の二極化(2019年以降の求人変動)
※ 米国240万件のエントリーレベル求人分析。「上級スキル要求型」はリーダーシップ・創造性等の上級職スキルを求めるエントリーレベル職。PwC 2026 AI Jobs Barometer

PwCの第29回グローバルCEO調査も、この流れを裏付ける。CEOの49%が「AIの普及により今後3年でジュニア層の採用を減らす」と回答した。シニア層の採用を減らすと答えたのはわずか12%だ。

グローバル・ワークフォース・リーダーのピート・ブラウン(Pete Brown)氏は、かつて下積みの修行場だった定型業務をAIが吸い上げ、判断力やリーダーシップが入社直後から求められるようになっていると指摘。企業は人材育成の方法を根本から考え直す必要があると警鐘を鳴らす。

日本にとっての意味

この調査に日本は27カ国の一つとして含まれているが、国別の詳細は公開されていない。それでも、ここに描かれた構造変化は他人事ではない。

PwC Japanが直近公開した「生成AIに関する実態調査2026 春」は、日本企業の生成AI活用がいまだに「ツール利用の域」にとどまり、効果が「期待を上回る」と答えた企業の割合が他国に比べて著しく低いことを明らかにしている。AIを活かせる企業と活かせない企業の差は広がる一方だ。日本企業にとって、この警告は他国以上に重い。

人手不足が構造的に進む日本では、AIは「仕事を奪う脅威」よりも先に「足りない労働力を補う手段」として期待されている。だが今回の調査が示すのは、使い方次第で結果がまるで違うということだ。コスト削減のためにAIを入れるのか、人の能力を増幅するために入れるのか。その判断が、企業の生産性も、そこで働く人の賃金も、キャリアの未来も分ける。

「AIが仕事を奪うか」という問いは、もう古い。10億件の求人データが語っているのは、AIをどう使う企業で働くかが、これからのキャリアを決めるということだ。

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