元Google CEOシュミット、卒業式でAIを語りブーイングを浴びる

AIと雇用の未来を説いた卒業スピーチに、学生たちは拍手ではなくブーイングで応えた。若い世代のAI不安が、式典の壇上で噴き出している。

元Google CEOシュミット、卒業式でAIを語りブーイングを浴びる

AIと雇用の未来を説いた卒業スピーチに、学生たちは拍手ではなくブーイングで応えた。若い世代のAI不安が、式典の壇上で噴き出している。


卒業式で起きたこと

2026年5月16日、アリゾナ大学の第162回卒業式。約1万人の卒業生を前に、元Google CEOのエリック・シュミット(Eric Schmidt)が壇上に立った。

他の登壇者には拍手と歓声が送られた。 だがシュミットがテクノロジーと社会の関係について話し始めると、空気が変わった。

「私たちは人類が何世紀もかけて築いてきた知の大聖堂に、石を積み足しているのだと思っていた。だが私たちが作った世界は、予想よりずっと複雑だった」

自身がGoogleを率いた時代を振り返るこの言葉のあたりから、客席にはブーイングが混じり始めた。 話題がAIに移ると、声はさらに大きくなった。

シュミットが語ったこと

シュミットはテクノロジーの功罪を率直に認めた。人々をつないだはずのプラットフォームが公共の議論の場を劣化させたこと。民主主義を分極化させる技術を作ろうと決めた人間はいなかったが、結果としてそうなったこと。

そしてAIの話に踏み込んだ。

「君たちの多くが何を感じているか、わかっている。聞こえているよ。恐怖がある」

シュミットは一度言葉を切り、ブーイングの波をやり過ごしてから続けた。

「未来はすでに書かれてしまった、機械が来る、仕事が消えていく、気候は壊れ、政治は分断され、自分たちが作ったわけでもない混乱を引き継ぐことになる――そういう恐怖だ」

こうした恐怖を「合理的なもの」と呼びつつ、シュミットは卒業生に呼びかけた。AIを恐れるのではなく、使い方を決める側に回れ、と。

拍手ではなくブーイングが出た理由

ブーイングの背景は一つではない。

学生団体は式典前から、シュミットの登壇に反対する動きを見せていた。元交際相手から性的暴行の訴訟を起こされている件も抗議の一因だった。シュミット側はこの申し立てを否定しており、2026年3月に裁判所は仲裁手続きに移行する判断を下している。

ただし、式典当日にブーイングが最も激しくなったのは、性的暴行の話題ではなくAIに言及した瞬間だった。

この反応はアリゾナ大学だけの話ではない。数日前にはフロリダ州のセントラルフロリダ大学でも、不動産会社幹部のグロリア・コールフィールド(Gloria Caulfield)がAIを「次の産業革命だ」と述べた途端、会場からブーイングが起きている。

2026年の卒業シーズンでは、ラトガース大学、ユタバレー大学、サウスカロライナ州立大学がスピーカーの選定を撤回する事態も起きている。AIと労働市場を巡る不安が、卒業式という場で繰り返し表面化している。

数字が示す不安の広がり

ピュー・リサーチ・センターが2025年6月に実施した調査によれば、アメリカの成人の 50% が日常生活でのAI利用拡大に対して「興奮より懸念が大きい」と回答した。「興奮が上回る」と答えた人はわずか 10% にとどまる。2021年の同種調査では懸念派は37%だった。4年間で13ポイント上昇している。

雇用への影響も具体的な形で出始めている。KlarnaやIBMはAI導入に伴う人員削減をすでに実施した。新卒採用の縮小をAIの能力向上と結びつける企業も増えている。

卒業式でブーイングをした学生たちは、まさにこの求人市場に足を踏み入れる世代だ。

対照的だったフアンのスピーチ

同じ2026年の卒業シーズン、NVIDIAのCEOジェンスン・フアン(Jensen Huang)はカーネギーメロン大学の卒業式で正反対のメッセージを発した。

「AIが君たちを置き換える可能性は低い。だがAIを使いこなす人が、使わない人を置き換えるだろう」

フアンはAIを恐れるのではなく、新しい産業時代の始まりとして捉えるよう卒業生に呼びかけた。「走れ、歩くな」という言葉で締めくくったスピーチは、カーネギーメロンの聴衆からは拍手で迎えられている。

もっとも、AIチップメーカーのCEOが「AIの時代が来る、それは素晴らしいことだ」と語るのは、ポジショントークでもある。フアンのスピーチが好意的に受け止められた背景には、カーネギーメロンがAI・ロボティクスの発祥地の一つであり、聴衆の多くがAI産業の内側に入る学生だったという事情もある。

テクノロジーの旗振り役が壇上で浴びた冷水

シュミットは壇上でこう述べた。

「AIが世界を変えるかどうかは、もはや問題ではない。変える。問題は、君たちがAIを形作る側に回るかどうかだ」

71歳のテック業界の重鎮が「未来を形作れ」と説く。それを聞く卒業生たちは、KlarnaやIBMが新卒の仕事をAIで置き換え始めた求人市場に出て行く。

「未来を形作れ」という言葉が拍手ではなくブーイングで返ってくる時、壇上と客席の間には、スピーチでは埋まらない距離がある。


参照元: アリゾナ大学 第162回卒業式

他参照: NVIDIA公式ブログ - Jensen Huang CMU Commencement Address

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