Cloudflareが過去最高益で1100人をAIレイオフ
Cloudflareが過去最高益と同時に従業員の20%・1100人をレイオフした。創業16年で初の大規模人員削減。
理由は業績悪化ではなく「AIで不要になった」。最高益のさなかに語られたこの説明を、市場は鵜呑みにしなかった。
過去最高益の発表と同時に、20%が消える
Cloudflareは現地時間5月7日、第1四半期決算とともに従業員の約20%・1100人の解雇を発表した。創業16年で初めての大規模レイオフだ。
奇妙なのはタイミングである。同じ日に発表された四半期売上は6億3,980万ドル、前年同期比34%増。同社にとって四半期として過去最高だ。残存履行義務(RPO、契約済みで未実現の売上)も前年同期比34%増と、先行指標も力強い。
業績は悪くない。むしろ申し分ない。それなのに、20%が消える。
| 項目 | Q1 2026 | Q1 2025 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | $639.8M | $479.1M | +34%増収 |
| GAAP 営業損失 |
-$62.0M | -$53.2M | 悪化 |
| GAAP 純損失 |
-$22.9M | -$38.5M | 改善 |
| Non-GAAP 純利益 |
$94.0M | $58.4M | +61%増益 |
| フリー キャッシュフロー |
$84.1M | $52.9M | +59%増加 |
共同創業者でCEOのマシュー・プリンス(Matthew Prince)と、共同創業者でCOOのミシェル・ザトリン(Michelle Zatlyn)は、社内向けメールを公開ブログに転載するかたちで、その理由をこう説明した。
私たちはAIツールやプラットフォームを作って売っているだけではない。私たち自身が最も要求の厳しい顧客なのだ。Cloudflareの社内AI使用量は、直近3か月で600%以上増えた。
決算電話会議では、プリンスがさらに踏み込んだ。「社内の転換点は昨年11月だった。チーム全体で、メンバーが以前の2倍、10倍、ときには100倍生産的になっているのを目の当たりにした」。彼はこの変化を、手動ドライバーから電動ドライバーに切り替えるような感覚だと表現した。
つまり、業績不振を補うためのコスト削減ではない。AIで人間がやっていた仕事の多くが要らなくなったから人を減らす――Cloudflareはそう主張している。
「サポート役は将来の中核ではない」という線引き
プリンスの説明で核心になっているのは、「全員が等しく不要になった」という話ではないことだ。電話会議でCFOのトーマス・サイファート(Thomas Seifert)は、削減対象が営業ノルマを抱える担当者を除くほぼ全部門にまたがると説明した。地理的にも特定地域に偏っていない。
そのうえでプリンスは、こんな表現を残している。
彼らをサポートするバックオフィスの人たち、ああいう役割は、これから会社を駆動する役割ではなくなっていく。
要するに、AIで生産性が跳ね上がったエンジニアやマーケター、財務担当者の「下支え」をしていた層が、まず最初に対象になったということだ。プリンスは、エンジニアリングからHR、財務、マーケティングまで、社員が日々何千ものAIエージェントセッションを走らせていると語った。Cloudflare自身のWorkersプラットフォーム(開発者がCloudflareのグローバルネットワーク上で直接ソフトウェアを構築・実行できる仕組み)を使って、R&Dチームのほぼ全員がコードを書き、製品に投入されるコードのレビューは100%が自律型AIエージェントの手に渡っている、ともプリンスは明かしている。
この描写が事実なら、確かに「人間が要る場所」と「要らない場所」の地図は書き換わっている。AIに食わせる仕事と、AIをチェックする仕事の線引きが、社内で先に進んだ会社が、その線引きに従って組織を作り直す。プリンスとザトリンは、これをエージェンティックAI時代の組織再設計と呼んでいる。
ただ、この説明には、聞いた瞬間にひっかかる点がある。AIで生産性が爆発的に上がったなら、なぜ「採用を絞る」ではなく「20%を切る」になるのか。
「もっと採る」と「20%切る」の同居
プリンス自身、この点には自覚的だった。電話会議では、「私たちは引き続き人を雇うし、引き続きこの人たちに投資する」「2027年には2026年のどの時点よりも従業員数は多くなっているだろう」と発言している。Cloudflareは第1四半期末時点で約5,500人を抱えていた。1,100人を切ると一旦4,400人前後まで減るが、来年にはまた5,500人を超えるという見通しだ。
つまり総数では戻すが、構成を入れ替える。AIを使いこなせる層を増やし、サポート専業の層は減らす。頭数ではなく職種の組み替えが本質、というメッセージである。
この再編に対して、Cloudflareは退職者への手当てもかなり踏み込んだ条件を提示した。
退職するチームメンバーには、2026年末までの基本給フル相当を支払う。米国では、ヘルスケア補償も年末まで継続する。さらに、株式の権利確定(ベスティング)を8月15日まで延長し、入社1年のクリフに到達していないメンバーについてもクリフを免除して、8月までの按分株式を確定させる。
業界水準を上回るパッケージだ、と二人は明言している。「人にワールドクラスを求めるなら、こちらも扱いでワールドクラスを返す相互義務がある」というのが彼らの言い分だ。
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$140〜150M
総計上額
現金支出
$105〜110M
株式報酬関連
$35〜40M
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ここまで手厚くするなら、純粋にコストを切りに来たわけではない、という主張は確かに筋が通る。経費圧縮が目的なら、パッケージはここまで膨らまない。
それでも、市場の反応は冷たかった。一夜明けても冷えたままだった。
株価は約24%下落、市場は「物語」を買わなかった
決算とレイオフ発表の翌日、Cloudflare株は通常取引で急落した。前日終値の256ドル79セントから、5月8日終値の196ドル台へ。下げ幅は1日で約24%、時価総額では数百億ドル規模の蒸発に当たる。Q1業績はアナリスト予想を売上・利益ともに上回り、第1四半期売上は6億3,980万ドル・前年同期比34%増だったにもかかわらず、市場は容赦なく売った。
数字は良かった。にもかかわらず売られた。理由はおおむね二つある。
ひとつは、第2四半期のガイダンスが市場の期待値をわずかに下回ったこと。Cloudflareは第2四半期売上を6億6,400万〜6億6,500万ドル、通期売上を28億500万〜28億1,300万ドル、通期の調整後EPSを1ドル19セント〜20セントと見通した。通期EPSは引き上げ、通期売上もアナリスト予想をわずかに上回ったが、Q2の足元はやや物足りない。
もうひとつは、レイオフに伴う一時費用だ。人員削減に関連する費用として1億4,000万〜1億5,000万ドルを計上する見込みで、その大半は第2四半期に認識され、計画は第3四半期末までにおおむね完了する見通しとされている。
そして、もっと根本的な疑念がある。「AIで生産性が10倍、100倍になった」という説明と、「だから20%切る」という結論のあいだの距離だ。本当にAIがそれだけ効いているなら、なぜQ2の売上加速にもっと派手に反映されないのか。市場が不安定になったのは、AI効率化ストーリーを信じる根拠が、まだ数字の側に出揃っていないからだ。ウォール街はまだ「物語」を買っていない、と言える状況である。
業界スクリプト化する「AIファースト・レイオフ」
Cloudflareの説明にひっかかりを覚えるもう一つの理由は、これが2026年のテック業界で繰り返されている業界共通スクリプトそのものだからだ。
増収と大規模レイオフを同時に発表し、両方をAIに起因させる――この組み合わせは、Meta、Microsoft、Amazon、Oracle、PayPal、Block、Atlassianとすでに見慣れた光景になっている。AIに巨額を投じる一方で、人間を切る。記録的な売上のさなかに、記録的な人員削減を発表する。これがいま、上場テック企業のCEOが市場と従業員に出すメッセージのテンプレートになりつつある。
書き手として気になるのは、「lean(無駄のない)」「efficient(効率的)」が前年までの大型レイオフを正当化する流行語だったとすれば、2026年の流行語は「agentic AI-first」(エージェンティックAIファースト)だ、ということだ。同じ動作に新しいラベルが貼られている可能性は否定できない。
ただし、Cloudflareのケースには、他社にはない情報開示の鋭さがある。社内AI使用量の伸び率を具体的に出し、コードレビューの100%を自律エージェントが行っていると公言し、職種ごとの線引きを言葉にしている。経営者の中で、ここまで内部のAI浸透度を数字で語った例はあまりない。だからこそ「物語」として強度はあるが、強度があるからといって因果が証明されるわけではない。
ここで、TechCrunchの記事末尾に置かれた一文がよく効いている。
プリンスが描いたパターン――強い増収のさなかにAIの成果を人員削減の正当化として展開する――は、テック業界全体で急速に見慣れたスクリプトになりつつある。これが本物の構造転換を映しているのか、それとも単にコスト規律の都合のいいカバーストーリーなのか、投資家と従業員はこれからしばらく、この問いと向き合うことになる。
問いは、こちら側にも残る。生産性が10倍になった世界では、たしかに同じ仕事に同じ人数は要らない。だが、生産性が10倍になったなら、別の仕事を10倍やればいいのではないか。AIで余った時間を新しい価値創出に向けるという選択肢は、「20%切る」と「2027年に頭数を戻す」のあいだのどこかに、本当はあったはずだ。
「健康でも、もっと健康になれる」と言える会社
電話会議の最後に、あるアナリストがプリンスに直球を投げた。これだけ良い四半期の直後に、なぜここまで深く切る必要があるのか、と。
プリンスの答えは短かった。
Just because you're fit doesn't mean you can't get fitter.(健康だからといって、もっと健康になれないわけではない)
このセリフの強さを、しばらく置いてから読み返してみるといい。Cloudflareは病んでいない。倒れかけてもいない。むしろ筋肉質に成長している。それでも「もっと筋肉質にできる」という理由で、20%を切れる立場にある。
退職パッケージは手厚い。プリンスはX上で、退職者のLinkedInプロフィールリンクを集めるオプトイン式の専用ページを用意する案にも「That's the plan.(その通り、計画している)」と返答している。冷たさではなく、丁寧さが、この会社の説明スタイルだ。
それでも残るのは、「健康なときに切れる側」が言える論理は、「切られる側」の論理ではない、という非対称さだ。プリンスとザトリンが繰り返し語っている「世界クラスの扱い」は、退職者にとってどれほど現実的な慰めとして機能するのか。給与や株式の延長は確かに大きいが、AIで仕事のかたちが変わると言われた瞬間に、自分の経験のどの部分が次の市場で値段がつくのかが分からなくなる種類の痛みは、お金では完全には埋まらない。
「AIで不要になった」というラベルを最初に正面から貼った大手のひとつとして、Cloudflareの判断は今後数四半期、Q2のマージンとQ3以降の売上加速によって採点される。生産性向上の数字が利益と成長の側にきちんと出てくれば、プリンスの主張はテック業界全体の標準的な説明モデルに昇格する。出てこなければ、「AIファースト」は2026年の業界用語として、そして同じ年の懐疑語として記憶されるだろう。
良い四半期と良くない決断は、同じ日に並ぶことができる。AI時代の経営者がいま試されているのは、その物語を結果で証明する力だ。
参照元
他参照