ゲーム業界労働者64%が「AIが創造性を損なう」と回答
スタジオはAIに全賭けしているのに、そのAIを使っている当人たちが「創造性を壊す」と答えている。Skillsearchの2026年最新調査が浮き彫りにしたのは、業界の上層と現場の間に広がる深い認識のズレだ。
スタジオはAIに全賭けしているのに、そのAIを使っている当人たちが「創造性を壊す」と答えている。Skillsearchの2026年最新調査が浮き彫りにしたのは、業界の上層と現場の間に広がる深い認識のズレだ。
使う人間が「悪影響」と感じるAI
ゲーム業界の求人サービスSkillsearchが2026年4月15日に公開した「Games & Immersive Salary and Satisfaction Report 2026」は、ある種の奇妙な数字を並べている。回答者の52%が業務でAIツールを使用していながら、64%が「創造性に悪影響」と答えているのだ。
使う人間の過半数が「良くないと思いながら使っている」という状態が、いまゲーム業界の標準になりつつある。
この調査は1,000人の業界プロフェッショナルを対象に、2025年11月12日から2026年2月24日にかけて実施された。対象地域は英国、欧州、北米、APAC、MENA。12年目を迎える継続調査で、Skillsearch自身も業界の空気が慎重さを増していると報告している。
興味深いのは、この「AIへの懐疑」が他の主要調査とも一致していることだ。GDC(Game Developers Conference)が2026年1月に公開した「State of the Game Industry」でも、52%がAIを「悪影響」と回答している。2025年の30%、2024年の18%から右肩上がりで悪化している。
「AIは時間が経てば受け入れられる」という楽観論は、少なくとも現場の数字では裏付けが取れていない。
倫理ガイドラインのないまま進むAI導入
Skillsearchの数字でもう一つ注目すべきは、倫理指針を持つ企業は29%という点だ。半数以上が業務でAIを使っているにもかかわらず、そのうちルールの整備が追いついている企業は3分の1以下しかない。
倫理指針がないまま現場はAIを使い始めている。これは規制が遅れているというより、意思決定の順序が逆転していると見るべきだ。
経営層が「AIを使え」と号令をかけ、現場が慌てて使い、後からガイドラインが追いついてくる。あるいは追いつかないまま既成事実になる。2025年から2026年にかけて各地のスタジオで繰り返されてきたのは、まさにこのパターンだ。
GDC 2026レポートでも、生成AIを「良い影響」と評価する回答は前年13%から7%に半減した。しかも肯定派の多くは経営・ビジネス運営層に偏っており、アートやゲームデザインの現場ほど否定的な傾向が強い。
つまり、AIを推進したい層と、AIを実際に手で動かす人の間に、深い断層が走っている。
雇用の不安定化という土台
AIへの警戒感は、雇用の不安定さという土台の上に乗っている。Skillsearchの調査では、過去12か月のうちに回答者の65%が所属スタジオでレイオフを経験したか、自らレイオフ対象となっている。22%は直接レイオフされた当事者だ。
再就職後の回答者の52%が「退職パッケージに満足していない」と答えた。レイオフされた人のうち再就職できたのは45%。そのなかで「安全」と感じるのは27%しかいない。37%は7か月以上の失業状態を経験している。
「創造性のためにAIを使うな」と主張したい労働者が、同時に「次のレイオフがいつ来るか分からない」という圧力にも晒されている。声を上げにくい環境が整いすぎている。
さらに英国では、回答者の76%が業界離脱を検討していると答えた。離脱を考える理由の筆頭がレイオフだ。Skillsearch全体では44%が業界離脱を一度は考えたとしている。
ゲーム業界がこれまで持っていた「好きで入ってくる人材が無尽蔵にいる業界」という前提は、確実に崩れはじめている。
AI懐疑と移住プレミアムのねじれ
もう一つ興味深いのは、転職市場でのAIに対する距離感と、物理的な移動に対する距離感が噛み合わないことだ。53%が高給と引越し支援があれば移住を検討すると答える一方、38%が「パッケージが不十分」という理由でオファーを断った経験がある。
つまり、条件さえ整えば動く人は多いが、現実に整っているケースは少ない。スタジオはAIによる生産性向上を前提に人件費を抑えたがる。一方で移住プレミアムは十分に出せない。労働者は不安定な環境で、倫理指針のないAIを使わされ、でも引越しするほどの条件提示は受けていない、という板挟みに置かれる。
Skillsearchのレポートの副題が「Trends, AI, and Hiring Insights」であることには、相応の理由がある。AIと雇用と採用戦略は、もう別々には語れないテーマになった。
クリエイティブの定義が問われている
ここまでの数字を並べて見えてくるのは、「AIが仕事を奪うかどうか」という古い問いがすでに論点から外れつつあるということだ。
労働者の52%が業務でAIを使っている時点で、AIはもう「来るか来ないか」の話ではない。問題は、自分の仕事のクリエイティブ性を守れるかという、はるかに個人的で切実なレベルに移っている。
64%が「AIは創造性を損なう」と答えた。しかしその人たちの多くが、実際にAIを日々の業務で使っている。これは矛盾ではなく、ゲーム業界がいま立たされている場所そのものだ。
「社会的受容」という言葉がよく使われる。しかし受け入れるかどうかの判断は、現場のクリエイター自身が最もコストを払いながら下している。スタジオの経営陣がAI導入を宣言するたびに、アーティストとデザイナーが「これは自分の仕事か、機械の仕事か」を問い直す負担を引き受けている。
業界がこの問いに答えを出せないまま、レイオフと倫理指針の不在とAI導入だけが進んでいる。64%という数字は、その沈黙を告発している。
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