Amazonの社員が議会で発言したら、人事から呼び出された

Amazonの社員が議会で発言したら、人事から呼び出された
Amazon

シアトル市議会でデータセンター規制を支持する証言をしたAmazon社員3人が、社内調査の対象になった。解雇を含む懲戒処分がありうるとも告げられたという。3人はシアトル市の公民権局に苦情を申し立て、政治的信条に基づく差別だと訴えている。Amazon側は「社員が会社の代表者として発言したかどうか」を調べているだけだとしている。


「犯罪を犯したかのように感じた」

6月3日、シアトル市議会の委員会で、3人のAmazon社員がデータセンター規制を支持する証言を行った。いずれもAmazon Employees for Climate Justice(AECJ)のメンバーで、勤務時間外に、公開情報をもとに発言した。証言の冒頭で全員が同じ言葉を口にしている。「従業員が雇用主からの報復に対して法的に保護されている都市に住んでいることを誇りに思う」。

1週間後、3人はそれぞれ別のZoom会議に呼び出された。招待には「機密の懸念事項」について話し合うとだけ書かれていた。会議の相手は人事部門のEmployee Relations担当者。公聴会での証言について「懸念が寄せられた」ので調査しているという説明だった。

3人のうちの1人、ダリアス・イラニ(Darius Irani)氏はこう述べている。「同じ質問を何度も繰り返され、何か悪いことをしたと認めさせようとされた。罪を犯したかのような気分だった」。別の1人は、調査の結果として解雇を含む懲戒処分がありうると告げられたという。

苦情申立書によれば、Amazonは3人の政治活動を監視し、同様の活動を行った他の社員の特定も試みていた。

「代表者」か「市民」か

3人が「Amazonの代表者」として発言したのか、「個人の市民」として発言したのか。この問題の核心はそこにある。

苦情申立書の主張はこうだ。3人は勤務時間外に、公開情報に基づいて証言した。雇用主であるAmazonには言及していない。Amazon側の見方は違う。広報担当のマーガレット・キャラハン(Margaret Callahan)氏はこう説明する。証言の内容を確認したところ、「Amazon社員としての立場で発言していた可能性が明らかになった」。「社内ポリシーに違反があったかどうかを調べており、結果に応じて対応するかしないかを判断する」。

3人はAECJのメンバーとして証言した。団体名に「Amazon」が含まれている。Amazonへの言及がなかったという主張と、Amazon社員として発言していたという主張の間には、解釈の余地がある。

解雇をめぐる認識にも食い違いがある。苦情申立書は「解雇を含む懲戒処分がありうると告げられた」としているが、Amazon側は解雇を脅したり解雇のリスクがあると伝えた事実を否定し、「社員からの直接の質問に対する回答が、AECJによって文脈から切り離されて引用された」と反論している。キャラハン氏は「解雇の予定はない」とも述べた。

Amazonは「報復的な行動は容認しない」と声明している。だが社員側は、調査そのものが報復だと訴えている。この溝を埋めるのが、今回の苦情申立だ。

シアトルだから成り立つ法的根拠

3人が申し立てた先は、シアトル市の公民権局だ。根拠はシアトル市条例SMC 14.04、通称「公正雇用慣行条例」。人種、性別、宗教といった一般的な差別禁止事由に加えて、「政治的信条」 (political ideology)を保護対象に含む、全米でも珍しい条例だ。1973年の改正で追加された。

申立側の弁護士アビー・ローラー(Abby Lawlor)氏は、この条例がデータセンター規制の支持という政治的発言を保護すると主張している。公民権局が「合理的な根拠あり」と判断すれば、1週間以内の和解交渉に入る。和解が不成立なら、市の法務部門が行政法判事のもとで手続きを進めることになり、復職、未払い賃金、損害賠償が命じられる可能性がある。

6年間、繰り返されてきたこと

AECJとAmazonの対立は今回が初めてではない。

2020年4月、AECJの共同創設者であるエミリー・カニンガム(Emily Cunningham)氏とマレン・コスタ(Maren Costa)氏が解雇された。2人はパンデミック下の倉庫従業員の安全問題を訴え、企業社員と倉庫従業員をつなぐオンライン集会を企画していた。Amazonは「社内ポリシーの繰り返し違反」を理由に挙げたが、全米労働関係委員会(NLRB)は2021年に「違法な報復」と認定。Amazonは和解に応じ、全国の技術系・倉庫系従業員に「組織化と権利行使を理由に解雇しない」旨の通知を掲示する義務を負った。

AECJとAmazonの対立経緯
2018年
AECJ設立
Amazon社員が気候問題を訴える社内団体を結成
2019年9月
全世界ストライキ
1500人以上が参加し気候対策を要求
2020年4月
共同創設者2人をAmazonが解雇
「社内ポリシーの繰り返し違反」が理由
2021年
NLRBが「違法な報復」と認定
Amazonが和解。全国に通知掲示の義務
2025年11月
CEO宛て公開書簡
1200人超が署名。AI展開の減速を要求
2026年6月
市議会証言→HR面談→苦情申立
3人が証言後に社内調査の対象に。公民権局に申立

今回の3人も、同じパターンの中にいる。社員が社外で声を上げる。Amazonが「社内ポリシー違反」として調査する。社員が法的手段に訴える。ただし今回は解雇されていない分、2020年より抑制的にも見える。だが「解雇はしない」と言いながら調査を続けること自体が萎縮効果を生むと、苦情申立書は指摘している。

データセンター反対運動の急拡大という背景

この出来事は、全米に広がるデータセンター反対運動と切り離せない。

シアトル市議会は6月9日、20メガボルトアンペア超の大規模データセンターの新設を1年間凍結する緊急条例を全会一致で可決した。AWSとMicrosoft Azureの本拠地で、クラウドコンピューティングを世界に送り出した都市が、そのインフラの拡張にブレーキをかけた。公聴会では52人が賛成の証言を行い、反対はゼロだった。デンバー、ボルチモア、アトランタ、ミネアポリスなどに続く動きで、シアトルはモラトリアムを導入した米国最大の都市になった。

全米では2026年第1四半期だけで、75件・約1300億ドル相当のデータセンター計画が住民の反対で阻止または遅延に追い込まれている。反対団体は49州で833団体へ倍増した。この数字は2025年の年間総数とほぼ同じだ。電気料金の高騰、水の大量消費、騒音。住民の怒りは党派を問わず広がり、14州でモラトリアム法案が提出されている。

その渦中で、データセンターで利益を得る企業の社員が声を上げ、その企業が調査に動いた。AECJの5人のメンバーが複数の公聴会で証言したが、HR面談の通知を受けたのは苦情を申し立てた3人だけだ。後日に証言した2人には通知がなかったと報じられている。

発言する権利を、誰が守るのか

シアトル最大の民間雇用主がAmazonだ。この事実が、問題を個別の労使紛争の外へ押し出している。

企業城下町で、その企業の事業を規制すべきだと公に述べることは、どれほどの勇気がいるか。「私たちはまだ民主主義の中に生きている。企業国家の中ではない」とイラニ氏は言った。

公聴会は民主主義の基本的な機能だ。市民が声を上げ、議会がそれを聞く。だが声を上げた市民が雇用主から調査を受けるなら、次に証言しようとする社員は二度考える。Amazonが「ポリシーの一貫した適用」と呼ぶものを、社員は「発言への報復」と呼ぶ。その溝は、シアトルの公民権局が埋めることになる。

データセンターを巡る議論は、電力と水と騒音の問題だと思われてきた。だが今起きていることは、もう少し根の深い話だ。声を上げる権利は、雇い主に不都合な声であっても保護されるのか。公民権局がどう判断するかは、データセンター論争の行方だけでなく、テック企業の従業員が市民として振る舞える範囲を決めることになる。


参照元

他参照

関連記事

この記事を共有する