ホルムズ海峡で暗号資産詐欺、払った船が銃撃される

イラン当局を名乗る偽メッセージが、足止めされた船に暗号資産での「通行料」を要求している。支払った船が本物の銃撃を受けた可能性があり、戦時下のインフラと犯罪が混ざり合う奇妙な光景が海の上で起きている。

ホルムズ海峡で暗号資産詐欺、払った船が銃撃される

イラン当局を名乗る偽メッセージが、足止めされた船に暗号資産での「通行料」を要求している。支払った船が本物の銃撃を受けた可能性があり、戦時下のインフラと犯罪が混ざり合う奇妙な光景が海の上で起きている。


海峡で起きている「払って撃たれる」構図

ホルムズ海峡を抜けたい船に、イラン治安当局を名乗る何者かが暗号資産での通行料を要求している。そして、その指示に従ったとみられる船の少なくとも1隻が、海峡を通過しようとした際にイラン側から銃撃を受けた。

警告を発したのはアテネに拠点を置く海事リスク管理会社MARISKS(マリスクス)だ。海峡の西側で立ち往生している船主の一部に、暗号資産と引き換えに安全な通航を約束する偽メッセージが届いているとして、4月20日に海運会社向けのアラートを出し、翌21日にロイターがその内容を報じた。

ここで引っかかるのは、詐欺と判定されたメッセージの文面が「それらしすぎる」点にある。銀行口座ではなく暗号資産で払えと指定してくる詐欺は、普通なら警戒される類のものだ。だが今回は、その違和感が警戒を解く側に働いた可能性がある。

なぜ「暗号資産払え」が通用してしまうのか

偽メッセージには「書類を提出し、イラン治安当局による適格性審査を経たうえで、BTCまたはUSDTで支払うべき金額を決定する」「その後、事前に合意した時刻に妨げられることなく海峡を通航できる」といった趣旨の文言が書かれていた。MARISKSはこれを船主に提示したうえで、イラン当局が送ったものではないと明言している。

書類を提出し、イラン治安当局による適格性審査を経た後、暗号資産(BTCまたはUSDT)で支払うべき金額を決定する。その後に限り、貴船は事前に合意した時刻に妨げられることなく海峡を通航できる。

問題は、イラン側が本当にそれに近い仕組みを提案していることだ。海峡を掌握するテヘランは、ホルムズ海峡の安全通航と引き換えに船舶へ通行料を課す案を示している。支払い手段として暗号資産が想定されていることも、イラン石油・ガス・石油化学製品輸出業者連合のスポークスパーソンであるハミド・ホセイニ氏の発言として伝えられていた。

つまり詐欺師は、実在する制度の雛形をほぼそのままなぞって書くだけでよかった。制度の存在自体が詐欺の偽装材料として機能しているという、奇妙な入れ子構造がそこにある。

4月18日、通航を試みた船が撃たれた

4月18日、イランが検査付きでホルムズ海峡を一時的に開放した日、複数の船が通航を試みた。このうち少なくとも2隻、タンカー1隻を含む船がイランの船艇から銃撃を受け、進路を反転させて引き返している。

MARISKSは、この銃撃を受けた船のうち少なくとも1隻が、件の暗号資産詐欺の被害者だった可能性があるとみている。料金を払ったつもりの船が実際にはイラン側の承認を得ていなかった、という構図だ。ロイターはこの点を独立に検証できていないと明記している。

英国の海事機関UKMTOは、イラン革命防衛隊(IRGC)の高速艇2隻がホルムズ海峡を離れようとしていたタンカーに発砲したと報告した。乗員と船は無事だったとされる。インド船籍の大型タンカーを含む船舶が、イラン側の射撃を受けて反転を余儀なくされた例もAP通信によって伝えられている。

ホルムズ海峡では、米国がイランの港湾封鎖を続け、一方のイランが海峡の封鎖解除と再封鎖を繰り返している。通航できる時間帯と条件が安定しないまま日単位で状況が揺れ、詐欺師の「安全な通航を確約する」という手口に隙を作っている。

被害船がどの銃撃事案とどの詐欺メッセージに紐付くかは、現時点で完全には結び付けられていない。湾内には数百隻の船と約2万人の船員が足止めされたままで、個々の事案を外から突き合わせるのは容易ではない状況だ。

「払えば通れる」を信じた船に起きたこと

ここから先は推測の領域に入るが、考える価値はある。

払えば通れる、という信号が届いたとき、船主が直面しているのは数日単位の燃料費や用船料の損失ではない。数億ドル規模の貨物と、数十人規模の乗員の身柄が、他国の海軍と武装艇に挟まれた水路の西側で宙吊りになっている状態だ。この状況下で「暗号資産で払えば正規ルートで通してもらえる」という申し出が来たら、いつもより1段か2段、判断の閾値が下がってもおかしくないだろう。

詐欺の巧みさはここにある。内容が不自然なら誰も払わない。だが海峡で実際に運用され始めている通行料制度の雛形をなぞっていれば、書類のやり取りも、暗号資産決済も、怪しさの総量としては現実の制度と大差がない。そして払った結果、相手側の本物の哨戒艇に撃たれて引き返す。支払い分は戻らず、貨物の予定も崩れる。

ただし、この一連の出来事をすべて詐欺の成果として説明できるかは、慎重に考える必要がある。

イランのインフラは米国とイスラエルによる継続的な攻撃を受けており、軍部隊間の通信の信頼性が揺らいでいる。撃たれた船のうちどれが詐欺の被害で、どれが現場指揮の混乱によるものかを外から切り分けるのは難しい

戦場経済と詐欺インフラが重なるとき

ホルムズ海峡は、戦争前まで世界の石油と液化天然ガスのおよそ5分の1が通過していた場所だ。そこが事実上の料金所と化し、支払い手段に暗号資産が入り込み、さらにその上に便乗した詐欺が動いている。戦時下の非常措置が、犯罪の土台ごと用意してしまっている、という言い方もできる。

戦争や地政学リスクの話は、遠くの出来事として受け取られがちだ。だが今回の話は、暗号資産決済がこういう局面でどう使われ、どう悪用されるかを生々しく見せている。制裁迂回のための決済手段が、同じ理由で詐欺にも流用される。このねじれは、海峡が再開されても簡単には消えないだろう。

撃たれた船の甲板で、誰かが送金履歴を呆然と眺めている。その情景を想像すると、今回のニュースが少しだけ変わって見える。


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