AI企業の書籍スキャン&破壊にFTC調査を要請。18の市民団体が書簡

AI企業が物理的な書籍を大量に購入し、AIモデルの訓練データとしてスキャンした後に原本を破壊している問題で、米国の市民団体18組織が連邦取引委員会(FTC)に調査を求める書簡を送付した。著作権ではなく、反競争的行為としての調査を求めている。

AI企業の書籍スキャン&破壊にFTC調査を要請。18の市民団体が書簡

AI企業が物理的な書籍を大量に購入し、AIモデルの訓練データとしてスキャンした後に原本を破壊している問題で、米国の市民団体18組織が連邦取引委員会(FTC)に調査を求める書簡を送付した。著作権ではなく、反競争的行為としての調査を求めている。


海賊版で15億ドル、だから物理本を壊す

Anthropic(アンソロピック)は2024年初頭、社内で「Project Panama」(プロジェクト・パナマ)と呼ばれる作戦を始動させた。裁判所に提出された内部文書にはこう記されている。

世界中のすべての本を破壊的にスキャンする取り組み

コードネームを使った理由も、文書に残っていた。「この作業をしていることを知られたくない」ためだという。社員全員が閲覧できる文書だが、公の場で話すな、社外には共有するな、と指示されていた。

作業の内容は産業的なものだった。油圧式の裁断機で書籍の背を切り落とし、高速スキャナーでページを読み取り、紙は廃棄する。購入した物理的な書籍は、デジタルデータに変換された時点で存在しなくなる。

海賊版から物理本破壊へ:FTC調査要請までの経緯
2024年初頭
Anthropic「Project Panama」開始
書籍の破壊的スキャンを秘密裏に始動。
内部文書には「世界中のすべての本を破壊的にスキャンする」と記載
2024年8月
作家らがAnthropicを提訴
バーツ氏ら3名が著作権侵害で集団訴訟を提起(Bartz v. Anthropic)
2025年6月
海賊版は違法、物理本スキャンは合法
連邦判事がフェアユース判断。
購入した物理本のスキャン&破壊は合法と認定
2026年1月
「Project Panama」の詳細が公に
裁判文書の開示で内部メモやスキャン作業の実態が報じられる
2026年7月
15億ドル(約2,400億円)の和解が確定
米国著作権訴訟史上最大の和解額。
海賊版利用が対象で、物理本の合法スキャンは別扱い
2026年8月17日
AirTagでAmazonのスキャン施設が判明
ラスベガスの倉庫内にVGT3と呼ばれる書籍スキャン専門チームが存在
2026年8月21日
18団体がFTCに調査要請の書簡
反競争行為としての調査を求める。
破壊された本が最後の現存コピーかどうかの検証も要請
※海賊版利用に対する15億ドルの和解と、合法的に購入した物理本の破壊的スキャンは別の法的扱い

なぜ物理本なのか。Anthropicはそれ以前、海賊版の電子書籍ライブラリであるLibGen(ライブラリ・ジェネシス)などから700万冊以上をダウンロードして訓練に使っていた。2024年8月、作家のアンドレア・バーツ氏らがAnthropicを著作権侵害で提訴。2025年6月、ウィリアム・アルサップ連邦判事は海賊版の利用を違法と認定する一方、合法的に購入した物理本のスキャンについてはフェアユース(公正利用)に該当すると判断した。

2026年7月20日、この訴訟は15億ドルの和解(約2,400億円)で最終決着した。米国著作権訴訟史上最大の和解額となり、対象は約48万2,000作品、91.3%の権利者が申請した。1作品あたりの支払いは約3,000ドル。

この判決の構造を理解すると、物理本の破壊が加速した理由が見える。海賊版のダウンロードは違法で15億ドルを払わされる。だが物理本を買い、スキャンし、原本を壊せば合法になる。AI企業にとって、書籍の破壊はコスト削減と法的リスク回避を同時に満たす手段になった。

18団体がFTCに送った書簡

現地時間8月21日金曜日、Demand Progress Education Fund(デマンド・プログレス教育基金)やConsumer Federation of America(全米消費者連盟)など18の市民団体が、FTCのアンドリュー・ファーガソン委員長とマーク・メドール委員に宛てて書簡を送付した

書簡の論点は著作権ではない。反競争的行為としての調査を求めている。

団体側の主張はこうなる。AI企業が書籍を買い集めてスキャン後に破壊すれば、競合するAI開発者も一般の人々も、その資源にアクセスできなくなる。書簡はこの行為を「hoard-and-destroy」(買い占めて破壊する)と名付け、FTC法第5条に基づく不公正な競争手段に該当するかどうかの調査を求めた。

書籍を大量に永久破壊し、代替不能な資源を広範なアクセスから排除することで、AI企業は最も裕福な現職企業だけが高品質AIモデルを構築でき、人類の著作物の唯一の保有者として機能する未来を作り出している。原本を破壊した上で

書簡は3つの具体的な調査を要請している。AI企業とその仲介業者による書籍の取得と破壊的スキャンの調査開始。破壊された書籍が、その作品の唯一の、あるいは最後に近い現存コピーである頻度の特定。そして、この行為が競合企業や研究者、一般大衆のアクセスをどの程度遮断しているかの評価。

Demand Progress Education Fundの特別顧問ケイト・オー(Kate Oh)氏は、AnthropicやAmazonのような大手AI企業の行動には「調査すべき確かな煙がある」と述べている

Bartz訴訟でフェアユースが認められたことについて、書簡は明確に線を引いている。著作権法上のフェアユース判断は、反トラスト法上の免責を意味しない。知的財産権が競争法の適用除外にならないという原則は、2013年の最高裁判決FTC v. Actavisで確認済みだと指摘する。

AnthropicとAmazonはいずれもコメント要請に応じなかった。

Anthropicだけではない

書籍の破壊的スキャンはAnthropicに限った話ではなくなっている。

404 Mediaは8月17日、独自の調査報道でAmazonの関与を明らかにした。古書売買プラットフォームBiblioで売られた約1,000冊の注文にApple AirTagを仕込み、荷物を追跡した結果、ラスベガスにあるAmazonの倉庫LAS8に到着した。施設内には書籍スキャン専門のVGT3というチームがあり、入口には本を持ったティラノサウルスのロゴが描かれていた。

従業員がフォーラムに書き込んだ内容はこうなっている。「VGT3で働いている。やることは本のスキャンだけ。背を切る担当と、受入でバーコードをスキャンする担当に分かれている」

Amazonはコメント要請に対し、「商業チャネルを通じて書籍を購入し、顧客が利用する製品・サービスの開発と改善に役立てている」とだけ回答した。AIという言葉は含まれていなかった。

仲介業者の存在も浮上した。書籍データベースを運営するISBNdbは、AI訓練用の書籍大量調達を案内するページを公開していた。自社サイトには「AI企業が200万冊の本を破壊、というのは共感を得られる見出しではない」と書かれていたという。だが7月末、ISBNdbは該当ページを削除し、「需要を探る段階だったが、その方向からは離れることにした」と表明した。ISBNdb自身は「書籍を購入・スキャン・販売したことは一度もない」と述べ、ページはあくまで構想段階のものだったと説明している。

イーロン・マスク氏もXへの投稿で自社AIチームに書籍スキャンを指示していることを認めた上で、「希少な本は図書館に保存し、背を切らない方法でスキャンするよう求めた」と述べている。

壊された本は戻らない

2022年より前に出版された書籍がAI企業にとって特に価値が高い理由は単純で、AI生成テキストに汚染されていないからだった。最近のウェブ上のテキストにはAIが書いた文章が混ざり始めており、それでAIを訓練すれば品質が劣化する。「モデルの崩壊」と呼ばれる現象を避けるために、人だけが書いた文章が必要になった。

古書市場はこの需要で変貌した。ある古書販売業者は404 Mediaに対し、週に20冊程度だった売上が突然数百冊に跳ね上がったと証言している。注文の特徴は、書籍の選択がランダムで、すべてにISBNが付いていること。利益にはなるが、「珍しい本がパルプ化(紙に戻されること)されている」ことには心を痛めていると語った。

ドイツやスイスの古書店にも、専門書の異常な大量注文が入っているという報告がある。カナダのZoom Booksはドイツの倉庫から1970年代の学術書を大量に米国へ送り、破壊的スキャンに回していた。

FTCへの書簡が突きつけた疑問の核心はここにある。破壊された物理本が、その作品の最後の現存コピーであるケースがどれだけあるのか。外部から検証する手段がない。AI企業は訓練データの中身を公開しない。合法的に購入し、合法的に破壊し、合法的にデータ化した書籍が、その企業のサーバーの中だけに存在する状態になったとき、それは公共の知識ではなくなっている。

図書館は本を誰にでも開放する。書店は本を売ることで知識を循環させる。だがAI企業の専有データベースは、企業の裁量で改変も削除もできる。

書簡は、FTC法第6条(b)の調査権限の行使を含む「迅速な行動」を求めている。契約を元に戻すことはできる。だが壊された本は戻らない。

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