Intel CEO、メモリ事業への復帰を示唆。CPUとの積層も視野に
AIが飲み込むメモリ需要の中で、かつてメモリを「捨てた」企業が再び手を伸ばそうとしている。その裏には、元SK Hynix CEOの招聘と、2つの新型メモリ技術がある。
AIが飲み込むメモリ需要の中で、かつてメモリを「捨てた」企業が再び手を伸ばそうとしている。その裏には、元SK Hynix CEOの採用と、2つの新型メモリ技術がある。
「コモディティだから投資しない」から「ペットプロジェクト」へ
IntelのCEO、リップブー・タン(Lip-Bu Tan)氏がメモリ事業への関心を公に語っている。投資家マイケル・マークス(Michael Marks)がホストを務めるポッドキャストTechSurgeの中で、タン氏はメモリを「ペットプロジェクト」と呼んだ。
以前は「コモディティビジネスだからメモリには投資しない」というのが自分の考えだった。でも今は違う。新しい技術がたくさん出てきている。
メモリは長い間、大量生産と価格競争の世界だった。差別化しにくく、利幅が薄い。半導体業界の中では「手を出すと火傷する」領域として知られてきた。
だがAIがその常識を壊した。データセンターに投入されるGPUが爆発的に増え、それを支えるHBM(高帯域幅メモリ)の需要が供給をはるかに超えている。メモリメーカーの利益率は急上昇し、SK Hynix、Samsung、Micronの「ビッグ3」は記録的な利益を叩き出している。タン氏は「メモリ不足は少なくとも 2028年 まで続く」と見ている。
コモディティだったものが、戦略資産に変わった。タン氏の言葉を借りれば、「まだ明かす準備はできていない」が、その方向性を示す布石はすでに打たれている。
元SK Hynix CEO、Intelに「帰還」
タン氏がポッドキャストの中でわざわざ名前を出した人物がいる。イ・ソクヒ(Seok-Hee Lee)氏だ。
私の親友を採用したことは、もうニュースで見たと思う。SK Hynixを率いていたイ・ソクヒだ。何を考えているか、なんとなく分かるだろう。
イ・ソクヒ氏は現地時間6月18日付でIntel FoundryのEVP(エグゼクティブ・バイスプレジデント)に就任した。担当は先端パッケージング、システム統合、バックエンド技術の開発と製造。タン氏の直属だ。
この人事には複数の含意がある。イ・ソクヒ氏は2018年から2022年までSK HynixのCEOを務め、HBMの開発と量産を推進した中心人物の一人だ。その後、SKグループのバッテリー子会社SK OnのCEOを経て、Intelに移った。実は2000年代にはIntelでプロセスエンジニアとして約10年間働いていた経歴がある。文字通りの「帰還」だ。
パッケージングが意味すること
イ・ソクヒ氏の役割が「パッケージング」であることは見落とせない。現代のAIアクセラレータでは、GPUダイとHBMスタックが同一パッケージ上に配置される。両者を高速で接続する技術がボトルネックになっている。TSMCのCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)はこの分野のリーダーだが、生産ラインは2年以上にわたって予約で埋まっている。
Intelが対抗馬として押し出しているのがEMIB-T(Through-Silicon Viaを加えた埋め込みブリッジ技術)とHBI(Hybrid Bonding Interconnect)だ。メモリの専門家をパッケージング部門のトップに据えたのは、ロジックとメモリの結合を本気で武器にする意志表示と読める。
CPUの上にメモリを載せる
タン氏はもう一つ、踏み込んだ発言をしている。
CPUとメモリの積層には、多くの可能性がある。メモリの分野にはイノベーションが足りていない。非常に良い領域だ。
「CPUの上にメモリを積む」。この構想が実現すれば、プロセッサとメモリの間にある物理的な距離という根本的なボトルネックが消える。現在のコンピュータでは、CPUとメモリは別々のチップとして製造され、基板上の配線で接続されている。この距離が帯域幅と遅延の壁を生む。いわゆる「メモリウォール」だ。
ただ、タン氏はこれが「Intelとしての正式なプロジェクト」なのか、個人的な投資先の構想なのかすら明言していない。具体的な時期や方式にも触れていない。口に出したが、中身はまだない。
Intelはメモリを3回「捨てた」企業でもある
ここで歴史を振り返っておく必要がある。Intelとメモリの関係は、半導体業界の教科書そのものだ。
1968年、ゴードン・ムーアとロバート・ノイスがIntelを創業した。最初の事業はメモリだった。1970年に世界初の商業的に成功したDRAM「1103」を発売し、メモリ企業としての地位を確立した。当時のIntelにとって、メモリはアイデンティティそのものだった。
1980年代、日本の半導体メーカーが品質と価格の両面でIntelを追い詰めた。Intelのシェアは1970年代の80%以上から、1984年には 2〜3% にまで落ちた。1985年、社長のアンディ・グローブ(Andy Grove)はCEOのムーアに尋ねた。
もし我々が追い出されて、取締役会が新しいCEOを連れてきたら、そいつは何をすると思う?
ムーアは答えた。「メモリから撤退するだろう」。その年、Intelはメモリ事業を畳んだ。
以来、Intelはメモリへの再参入を3度試みている。NANDフラッシュ事業(2020年にSK Hynixへ約90億ドルで売却)、3D XPoint技術を使ったOptane(2022年に事業終了)、そしてRDRAM(2000年代初頭に失敗)。いずれも撤退で終わった。
3回メモリを手放した企業が、4回目を語っている。
この文脈を抜きにタン氏の発言を聞くことはできない。
1968年 Intel創業 最初の事業はメモリ。DRAMで急成長 1985年 DRAM撤退 日本企業に敗北。シェアは80%超から2〜3%に 2000年代初頭 RDRAM失敗 独自規格のメモリで再参入を図るも普及せず 2020年 NAND事業をSK Hynixへ売却 約90億ドルで売却。Solidigmとして分離 2022年 Optane事業終了 3D XPoint技術によるメモリ事業を断念 2026年2月 SoftBankとZAM共同開発を発表 HBM代替の次世代メモリ。商用化は2029年度目標 2026年6月 イ・ソクヒ氏をEVPに招聘 元SK Hynix CEO。先端パッケージング担当 2026年7月 XBM特許公開 HBMのシリコンインターポーザを不要にする設計 2026年8月 タン氏「ペットプロジェクト」発言 メモリを戦略的関心事と公言。CPUとの積層にも言及 |
XBMとZAM。2つの次世代メモリ技術
タン氏の発言は空手形ではない。Intelは現在、2つの新型メモリ関連プロジェクトを進めている。
XBM(Cross-Batch Memory)
2024年12月出願、2026年7月2日公開の特許に記載された新アーキテクチャだ。HBMが抱える2つのコスト要因(シリコンインターポーザと超広幅パラレルインターフェース、1スタックあたり約1,024本の配線)を排除し、UCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)によるシリアル接続に置き換える設計になっている。
さらに、従来のDRAMがシリコン基板のフロントエンドにトランジスタを形成するのに対し、XBMはバックエンド(配線層)に薄膜トランジスタを形成する。これにより、TSV(シリコン貫通ビア)のためのスペースが広がり、メモリ密度と帯域幅の向上が見込まれる。商用化は 2030年以降 と見られている。
ZAM(Z-Angle Memory)
SoftBankの子会社SAIMEMORYとの共同プロジェクトだ。2026年2月に協業が発表された。米エネルギー省とサンディア国立研究所の次世代DRAMボンディング(NGDB)研究がベースになっている。ZAMはHBMの 2〜3倍 の容量を目指し、消費電力は半分、製造コストは60%削減をうたう。プロトタイプは2027年度、商用化は2029年度が目標で、日本のNEDOから補助金も獲得している。
1968年 Intel創業 最初の事業はメモリ。DRAMで急成長 1985年 DRAM撤退 日本企業に敗北。シェアは80%超から2〜3%に 2000年代初頭 RDRAM失敗 独自規格のメモリで再参入を図るも普及せず 2020年 NAND事業をSK Hynixへ売却 約90億ドルで売却。Solidigmとして分離 2022年 Optane事業終了 3D XPoint技術によるメモリ事業を断念 2026年2月 SoftBankとZAM共同開発を発表 HBM代替の次世代メモリ。商用化は2029年度目標 2026年6月 イ・ソクヒ氏をEVPに招聘 元SK Hynix CEO。先端パッケージング担当 2026年7月 XBM特許公開 HBMのシリコンインターポーザを不要にする設計 2026年8月 タン氏「ペットプロジェクト」発言 メモリを戦略的関心事と公言。CPUとの積層にも言及 |
| XBM | ZAM | |
|---|---|---|
| 正式名 | Cross-Batch Memory | Z-Angle Memory |
| 方式 | シリアル接続(UCIe) | 垂直積層(NGDB) |
| 接続 | インターポーザ不要 | EMIB直結 |
| DRAM | 配線層に薄膜形成 | 従来型DRAM積層 |
| 容量 | 未公開 | HBMの2〜3倍 |
| 省電力 | 未公開 | 消費電力を半減 |
| 提携先 | Intel単独(特許) | SAIMEMORY |
| 商用化 | 2030年以降 | 2029年度 |
2つの経路を同時に走らせている。どちらか一つに賭けるのではなく、両方を保険として持つ構えだ。
復帰か、布石か
問題は、タン氏が語る「メモリ復帰」がどの水準の話かだ。
DRAM製造に自前で参入するには、工場建設だけで数十億ドル単位の投資が必要になる。プロセス技術の開発に数年、量産までの歩留まり改善にさらに数年。現在のIntelはファウンドリー事業の建て直しに全力を注いでおり、そこに資本を投じる余裕があるかは疑わしい。
もう一つの道は、技術のライセンスやパートナーシップだ。ZAMがまさにこのモデルで、SAIMEMORYが商用化を担い、Intelは技術と製造能力を提供する。XBMも特許段階の構想であり、Intel自身が量産する前提で語られたわけじゃない。
タン氏はベンチャーキャピタリストとして500社以上に投資してきた人物だ。メモリを「ペットプロジェクト」と呼ぶとき、それがIntelの事業計画なのか、投資家としての関心なのか、意図的にぼかしている可能性がある。
ただ、確かなことが一つある。元SK Hynix CEOをパッケージング部門のトップに据え、シリコンインターポーザを不要にする特許を出願し、SoftBankとメモリ共同開発を進めている企業が、メモリに無関心でいられるはずがない。
1985年にアンディ・グローブが下した「メモリから撤退する」という決断は、Intelの歴史上最良のビジネス判断と呼ばれてきた。40年後のIntelが、かつて去ったメモリの世界にもう一度手を伸ばそうとしている。今度は「コモディティ」としてじゃない。AI時代の戦略資産として。