Appleが値上げを宣言。退任直前のクックCEOが語った「限界」

Appleが値上げを宣言。退任直前のクックCEOが語った「限界」

ティム・クック(Tim Cook)氏が、Apple製品の値上げを公式に認めた。退任まで残り2ヶ月半。iPhoneの価格帯を守り続けてきたCEOが、最後に残した言葉は「もう持たない」だった。


「避けられない」の重さ

Appleのクック氏は現地時間6月17日、The Wall Street Journalの独占インタビューで製品の値上げを明言した。

「残念ながら、値上げは避けられない。我々に転嫁される巨額のコスト増を抑えようと最善を尽くし、お客様を守ろうとしてきたが、状況は持続不可能になった」

どの製品がいつ、いくら上がるのかは明かさなかった。だが市場はその先を読む。Appleの次の大型発売は9月のiPhone 18シリーズ。調査会社TechInsightsは、現在の利益率を維持するならiPhone 18 Proは約270ドル(約4万3000円)の値上げが必要になると試算している。1,299ドルのiPhone Proが現実になれば、10年以上据え置いてきたProの開始価格が動く。

Apple製品の値上げ実績と試算
製品旧価格新価格差額
Mac mini9万4800円12万4800円+3万円
MacBook Air
13インチ
16万4800円18万4800円+2万円
MacBook Pro
14インチ
31万4800円34万4800円+3万円
iPhone 18 Pro
(推定)
約4万3000円増調査会社
TechInsights
試算
※ Mac miniは最廉価256GBモデル廃止による実質値上げ。MacBook Air・ProはM5世代でストレージ倍増を伴う改定。iPhone 18 Proの試算は現在の利益率を維持した場合の値上げ幅

MacやiPadはもっと早く動く可能性がある。Appleは5月にMac miniの最廉価モデル(9万4800円)を廃止し、エントリー価格を実質12万4800円に引き上げた。3月にはMacBook Air 13インチを16万4800円から18万4800円に、MacBook Pro 14インチを31万4800円から34万4800円にそれぞれ改定している。いずれもストレージ増量を名目にしたが、値上げは値上げだ。

今回のインタビューは、これまでの「静かな」値上げとは質が違う。CEOが自ら、世界最大のメディアの独占取材で「避けられない」と言い切った。

AIがメモリを奪う構造

原因はメモリだ。クック氏はインタビューでDRAM市場に焦点を当て、AIサーバー向けの高帯域メモリ(HBM)に生産能力が振り向けられていることを指摘した。

「消費者がデバイスを求めているのに供給が足りない。メモリメーカーは巨額の値上げを転嫁してきている。消費者向け製品のメモリ価格と供給が妥当な水準に戻ることが絶対に必要だ」

Appleほどの交渉力を持つ企業でさえ、状況を制御できなくなっている。Samsung、SK Hynix、Micronの3社がDRAM市場の9割以上を握り、AIサーバーという高利益率の市場に生産を優先する。スマートフォンやPC向けの供給は後回しだ。

数字がそれを裏付ける。2025年初頭に約30ドルだったiPhone用12GBメモリモジュールの価格は、2025年末に約70ドルへ跳ね上がり、その後も上昇を続けている。TrendForceの推計では2026年第1四半期の汎用DRAM契約価格は前四半期比55〜60%上昇した。メモリ3社の株価は2026年に入って軒並み100%以上上昇し、MicronとSK Hynixは時価総額1兆ドルクラブに加わった。空前の好況だが、それを支えているのは消費者の財布だ。

クック氏はAppleが自社でメモリを製造する考えを否定している。「すべてを自分たちでやることはできない。我々の得意なことに集中する」。チップ設計では内製化を進めてきたAppleだが、メモリ製造は供給元に依存し続ける。交渉力はあっても、市場構造そのものは変えられない。

「40年のキャリアでこんな変動は初めて」

印象的なのは、クック氏の言葉の温度だ。

IBMからコンパック、そしてApple。サプライチェーンの最前線で40年以上。そのプロが「こんなコモディティ価格の変動は見たことがない」「100年に一度の洪水だ」と語った。状況の異常さを、自ら認めざるを得なかった。

同時にAppleのバランスシートを使って供給確保に動く姿勢も示した。「キャッシュがある。解決策の一部になるために使う用意がある」。ただ具体策は明かしていない。AIハイパースケーラーが3〜5年契約と巨額の前払いで供給を囲い込むなか、Appleがその条件に合わせるかどうかは疑問だ。クック氏自身が「規律ある支出の長い歴史を考えると、そうした条件にAppleが同意する可能性は低い」と認めている。

退任するCEOの最後の仕事

このインタビューのタイミングは偶然ではない。クック氏は9月1日にCEOを退任し、ハードウェアエンジニアリング担当上級副社長のジョン・ターナス(John Ternus)氏にバトンを渡す。

値上げという不人気な決断を、退任するCEOが引き受けた。ターナス氏が就任初日から値上げのイメージを背負わずに済むようにする配慮だろう。だが裏を返せば、「Appleは価格を守る」という14年分の信頼を、クック氏が最後に自ら手放すことになる。

問題は値上げそのものではない。PCメーカーはすでに大幅な値上げに踏み切っている。Appleだけが聖域であり続ける理由はない。問題は、消費者がいつまでこの構造を受け入れるかだ。

AIサーバーを建てる企業がメモリを買い占め、スマートフォンやPCの部品が足りなくなり、消費者の製品が高くなる。AI企業の投資合戦のコストが、AIを使う側ではなく、iPhoneやMacを買うだけの一般消費者に回されている。HP、Dell、任天堂を含むメーカーが軒並み値上げに踏み切り、業界団体は米財務長官と商務長官に書簡を送った。AI向けメモリの過剰配分を是正してほしい、と。業界全体がこの構造を持続不可能だと認めている。

クック氏は「すべての選択肢を検討する必要がある」とも述べた。メモリ問題がいつ収束するかは不透明で、Morgan Stanleyはメモリ生産能力が2027年まで成長を続ける一方、AIを優先する限りコンシューマー向けウェーハは最大15%不足し続けると予測している。

iPhone 18の9月発表まで3ヶ月。Appleが示す価格が、この問題の深刻さを数字で物語ることになる。

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