Linux 7.1で「蘇生」したNTFS、リーナスが刻む皮肉

Linux 7.1のマージ段階で、旧NTFSドライバを4年かけ刷新した新ドライバが受理された。リーナスは差し戻したあと再提出版をマージし、コミットに「復活祭の奇跡かノスフェラトゥか」と刻んでいる。

Linux 7.1で「蘇生」したNTFS、リーナスが刻む皮肉

Linux 7.1のマージ段階で、旧NTFSドライバを4年かけ刷新した新ドライバが受理された。リーナスは差し戻したあと再提出版をマージし、コミットに「復活祭の奇跡かノスフェラトゥか」と刻んでいる。


差し戻しから受理まで、マージコミットに刻まれた皮肉

Linux 7.1のマージウィンドウは、2026年4月12日のLinux 7.0リリースと同時に開幕した。その最初の数日のうちに送られたプルリクエストの一つが、NTFSファイルシステムドライバの全面刷新だった。

ところが最初のプルはリーナスがいったん取り下げている。Gitツリーの構成に納得がいかなかったためで、提出者のNamjae Jeonが修正版「ntfs-for-7.1-rc1-v2」を送り直してようやく受理に至った。この手順自体は珍しくないが、興味深いのはリーナスが書いたマージコミットの一文にある。

Let's see if this undead filesystem ends up being of the "Easter miracle" kind, or the "Nosferatu of filesystems" kind...(この不死身のファイルシステムが「復活祭の奇跡」に落ち着くのか、それとも「ファイルシステム版ノスフェラトゥ」に終わるのか、様子を見よう)

「undead filesystem」という表現がすべてを物語っている。一度は読み取り専用の旧ドライバとして役目を終えかけ、ParagonのNTFS3に置き換わり、そしてまた旧ドライバをベースにした刷新版として戻ってきた。リーナスは祝福しているわけでも、突き放しているわけでもない。評価を保留しつつ、結末を見てやろうという立ち位置を選んだ。

NTFS3の停滞が招いた「全面書き直し」

事の発端は、2021年11月のLinux 5.15でマージされたParagon Software製のNTFS3だ。読み書き両対応のインカーネルドライバとしてFUSE経由のntfs-3gを置き換える期待を背負って登場したが、メインライン入り後の進化は緩慢だった。The Registerが2025年10月の報道で伝えたところでは、NTFS3は上流入り後にメンテナンスモードへ入ったまま動いていない。

そこに手を挙げたのが韓国のカーネル開発Namjae Jeon(ナムジェ・ジョン)だ。exFATドライバとksmbdカーネル側SMB3サーバ)の作者として知られる人物で、ファイルシステム周りでは実績のある顔ぶれのひとりといっていい。

興味深いのは、Jeonが選んだアプローチだ。NTFS3の上に手を入れるのではなく、4年前の読み取り専用旧ドライバ──2021年時点で置き換えられた方のコードベース──に立ち戻り、そこから全面的に書き直す道を選んだ。

旧ドライバのコードはクリーンでコメントも豊富、NTFSの挙動を理解するのが容易。NTFS3をさらに発展させるより、旧ドライバを土台にiomapfolio、ユーティリティを乗せ直した方が筋が良い。

Jeonがカーネルメーリングリストで示した理屈だ。新しい方が古いものを取り込んで発展するのではなく、古い方に戻って作り直すという選択には、NTFS3のコードベースに対する明確な評価が滲んでいる。

当初は「NTFSPLUS」と呼ばれていたが、2025年12月のv3パッチ提出時に「NTFS」へ改名された。つまり今回マージされたのは、名目上は旧NTFSドライバの置き換えであり、NTFS3は当面並走する形で残る。


xfstests 326件、数字が示す世代交代

性能差はすでに数字で出ている。Jeon自身が提示したベンチマークでは、シングルスレッド書き込みでNTFS3比3〜5%の向上、マルチスレッド書き込みで35〜110%の向上が観測された。特に4TBのNTFSパーティションをマウントする時間は、NTFS3の4秒超から1秒未満まで短縮されている。日常の体感に直結する差だ。

安定性の面では、xfstests(ファイルシステムテストスイート)のスコアが端的に示している。マージコミットに添えられたテストレポートによれば、新NTFS787テスト中326件合格、38件失敗、423件スキップ。NTFS3が合格するテストは273件で、新NTFSが通った326件はその完全な上位集合になる。

つまり、ntfs3が通るものは全部通る。そのうえでもう50件以上、新たに通る。

この結果は「旧を選んだ判断の正しさ」を数字で裏付けている。folio対応とbuffer_head依存の排除、iomapへの移行──カーネル全体の近代化路線に揃えた改修が、性能と安定性の両方に結実したということだ。

書き込みサポート、iomap変換、buffer_head廃止、安定性改善。xfstestsの完全な上位集合としてのテスト通過率。(マージコミットより要約)

ただし、現時点でフルジャーナリングは未実装だ。ジャーナル再生のみ対応で、それも完全に正しく動くわけではないとJeon自身が認めている。正式なジャーナリング対応は上流入り後に追加する計画で、ドライバは「experimental」扱いのままメインライン入りしている。この点はWindowsとの相互運用における潜在的リスクで、クラッシュ回復の挙動がWindowsの期待と食い違う可能性が残る。

フォーラムの冷笑、「universal fsだが、どこでも動かない」

ここからが面白いところだ。Phoronixのフォーラムでは、このマージを歓迎するより先に、NTFS そのものへの皮肉が飛び交った。

ある参加者が「NTFSはユニバーサルなファイルシステムだ。多くのプラットフォームで動く」と投稿すると、すかさず別の参加者が「いや、どこでもまともには動かない、が正解だろう」と返した。18件のいいねがついている。冗談半分の応酬だが、Linuxユーザーから見たNTFSへの評価が凝縮された一往復だ。

LinuxWindowsの間でUSBメモリのファイルをやり取りするなら、いまだにNTFSが一番マシ」という実利派の意見も出たが、こちらは「LoL、全然違う。exFATだろ」と一蹴された。こちらも11件のいいね。Linuxコミュニティの主流感覚として、NTFSは「歓迎するファイルシステム」ではなく「仕方なく付き合うファイルシステム」だということがよく伝わる。

興味深かったのはThe Solutorというユーザーの長めの投稿だ。

確かにNTFSは、実際に使われている最も信頼でき、安定しており、ユニバーサルなファイルシステムだ。数十億の事例で動いている。ext4やbtrfsはディスクフォーマットの安定性に欠ける。ReFSやbcachefsは信頼するには若すぎる。ZFSは要件が厳しすぎる。FAT16/FAT32/NTFS以外にユニバーサル性のあるものはない。災害復旧ツールも乏しい。

「MSアンチはジョークのうちは良いが、明白な事実を否定する段になると知的誠実さの欠如になる」とまで書いている。皮肉が皮肉を呼ぶスレッドの中で、この指摘は妙に芯を食っている。数十億の事例で動くファイルシステム「どこでも動かない」と切り捨てるのは、Linuxユーザーの願望であってファクトではないという反論だ。

本当に復活するのか、それとも再び墓に戻るのか

NTFSが向こう数年で主流になるかは、まだ読めない。ドライバのメインライン入りが成功した前例としてexFATやksmbdの実績があり、そのどちらも作者は同じJeonだ。経歴だけ見れば期待できる。

一方で不安材料もある。フルジャーナリング未実装、experimentalタグつきでの投入、NTFS3と並走する期間の保守負担。それに、リーナスが「undead」と書いた通り、このドライバは2度の復活を経ている。1度目は2021年にNTFS3へ譲って墓に入り、2度目の今回は自分自身の子孫として戻ってきた。3度目の墓入りが絶対にないとは誰も言えない。

Phoronixフォーラムの投稿に、象徴的な一言があった。「3度目の正直か、それとも4度目か5度目か?」。NTFSドライバの歴史を知る人間にとって、この皮肉は笑い事ではない。旧NTFSドライバ、ntfs-3g(FUSE版)、NTFS3、そして今回のリメイク。LinuxのNTFS対応はこれで4世代目だ。

リーナスが選んだ「復活祭の奇跡かノスフェラトゥか」という二者択一は、たぶん正しい構えだ。ドライバの価値は、マージされた瞬間ではなく、その後の数年で決まる。今回の結末を知るには、Linux 7.1のリリース(6月中旬見込み)の後、実際のユーザー環境で何が起きるかを待つしかない。

答えが出るまでは、このファイルシステムは不死身のままだ。


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