Proton 11.0 Beta 1、EA旧作群が安定版候補へ

ValveがProton 11.0 Beta 1を公開。Experimentalでしか動かなかった古いEAゲームやクラシック作品群が安定版候補へ昇格した。土台はWine 11.0だ。

Proton 11.0 Beta 1、EA旧作群が安定版候補へ
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ValveProton 11.0 Beta 1を公開。Experimentalでしか動かなかった古いEAゲームやクラシック作品群が安定版候補へ昇格した。土台はWine 11.0だ。


Experimentalから正規ルートへ、13本の移籍組

今回の目玉は「互換性ラボの成果が普及フェーズに入った」という事実だ。プレリリースのGitHubノートを見ると、Proton Experimentalでしか動かなかったタイトルが一気に13本、安定版候補のProton 11.0 Beta 1へ移された。

移籍組の顔ぶれに「Resident Evil (1996)」「Resident Evil 2 (1998)」「Dino Crisis」「Dino Crisis 2」「SHOGUN: Total War」「Metal Fatigue」が並んでいる点は、Linux/Steam Deck上でレトロPCゲームを遊びたい層にとって見逃せない。これらは90年代後半から2000年代初頭の古典で、Windowsですら動かすのに一苦労する部類のタイトルだ。それが実験枝から安定枝に正式に上がってくる意味は重い。

Proton Experimental」は、Valveが新機能・新互換性パッチを先行投入している検証ブランチだ。ここで安定性を確認できたものだけが、番号付き安定版に繰り上がる。つまり今回の移籍は「動作することが確認された」というお墨付きであり、将来のリグレッションが起きにくくなる保証でもある。

「Proton Experimentalでは動いていたが、安定版では動かない」という状態は、Steam Deck勢にとって購入判断を難しくする要因だった。今回の昇格で、この悩みが13本分まとめて解消されることになる。

新規に遊べるようになったタイトルも5本挙がっている。「Unknown Faces」「Gothic 1 Classic」「X-Plane 12」「Breath of Fire IV」「Deadly Premonition」という組み合わせで、フライトシム、ドイツ産古典RPG、カプコンのJRPG、そして独特の世界観で知られるカルト作まで、ジャンルの振れ幅が大きい。


EA系の改善が集中、Desktop騒動の後始末

修正リストを読んでいて目につくのは、EA関連の改善が複数並んでいることだ。「最近のEA Desktopアップデート以降、多くのEA製ゲームが遊べなくなっていた問題を修正」「多くのEA製ゲームでSteamオーバーレイが正常に動かなかった問題を修正」という2項目が同じリリースに入っている。

これは単なる個別修正ではなく、EAのランチャーで何かが変わったことでProtonが追従を迫られた、という流れに見える。Linux/Steam Deckでは、プラットフォーム提供元の都合で互換性が一夜にして崩れることがある。復旧までの時間がそのまま、Valveコミュニティ体力の試金石になる。

SteamWorks SDK 1.64への対応追加も、地味だが重要な項目だ。新しいSDKが出るたびに、Protonは後追いで対応する必要がある。ここで遅れが出ると、新作タイトルの発売日にLinuxユーザーだけ蚊帳の外、という事態が起きる。

VRまわりの改善も注目に値する。「Microsoft Flight SimulatorでのVRコントローラー追跡を修正」「No Man's SkyのVRモードが再び遊べるように改善」の2項目が並んだ。VRはLinuxで最も取り残されやすい領域で、そこに手を入れ続けている姿勢は評価していい。

個別タイトルの修正も目を引くものが多い。「HELLDIVERS 2で敵が大量に出るミッション時のクラッシュを修正」「DEATH STRANDING 2: ON THE BEACHのランチャーのレンダリング問題を修正」「Call of Duty 2のマウス挙動を修正」といった具合に、現行の話題作から長寿ゲームまで横断している。

「METAL GEAR SOLID 2: Sons of Liberty」のエンドクレジット後のハング修正も、懐かしさで手を出すプレイヤーには朗報だろう。


土台の差し替え、Wine 11.0とFEX-2604

今回の更新でユーザーの目に触れにくいが、技術的には最も大きな変更は土台のWine 11.0へのリベースだ。

Wine 11.0は2026年1月13日にリリースされた年次安定版で、約6300件の変更と600件以上のバグ修正を含む大型アップデートだ。目玉はNTSYNCサポートと新WoW64アーキテクチャの完成で、いずれもゲーム性能と互換性に直結する基盤の話になる。

NTSYNCは、Linuxカーネル6.14以降で利用可能な同期プリミティブの仕組みで、Windows NT系の同期処理をカーネル側で効率よく再現できるようになる。ユーザー空間で処理していたものをカーネル空間に落とし込むことで、遅延が減る。特にマルチスレッドで動くゲームで効果が出やすい。

NTSYNCは、Linuxカーネルにとっては「ネイティブLinuxアプリには何の恩恵もない、Wine専用の改善」というかなり珍しい追加機能だ。それがメインラインに入ったこと自体、SteamOSとProtonが主導権を握っているLinuxゲーム領域の重みを物語っている。

WoW64の完成は、32ビットWindowsアプリを64ビット環境で動かす仕組みで、Wine 9.0で実験的に導入されたものが今回安定化した。16ビットアプリのサポートまで入っており、これは現行Windows自身が捨ててしまった機能でもある。皮肉な話で、古いWindowsソフトを動かすにはWineのほうが頼りになる、という状況になりつつある。

そしてもう一つ、ARM64EC向けにFEX-2604が追加された。FEXはARM上でx86バイナリを動かすエミュレータで、2604は2026年4月リリースの最新版。Valveがスポンサーしているプロジェクトで、Phoronixの報道ではValveの新型VRヘッドセット「Steam Frame」に不可欠な位置付けとされている。

Steam FrameはQualcomm Snapdragon 8 Gen 3を載せたARM機で、2025年11月にValveが発表済みだ。ここでx86Windowsゲームを動かすには、ProtonとFEXの連携が前提となる。今回の取り込みは遠い将来の布石ではなく、2026年内にリリース予定のValve自身の新ハードに向けた、目前の実装作業と見るのが自然だ。


グラフィックスとランチャー、こちらも地味に厚い

DXVKVKD3DVKD3D-Proton、DXVK-NVAPIWine Mono、Xalia。これらのコンポーネントもすべて更新されている。名前だけで眩暈がするかもしれないが、要はWindowsゲームの描画・API変換・音声・入力・コントローラ対応を担う各種部品が横並びで最新化された、ということだ。

Xaliaの0.4.8更新では、ゲーム起動時のランチャー画面をコントローラで操作できるようにする対応が大幅に拡充された。Red Faction: Armageddon、Final Fantasy X/X-2 HD Remaster、Batman: Arkham Asylum GOTY、Ys SEVEN、Resident Evil (1996)、Resident Evil 2 (1998)、Dino Crisis、Dino Crisis 2などのランチャーがコントローラ対応となる。

Steam Deckで古典作品を遊ぶとき、キーボードが手元にないせいでランチャー画面で詰まる、という悲劇を経験した人は少なくないはずだ。そうした摩擦が一本ずつ取り除かれている。

・ ・ ・


ベータの意味、そして残る課題

今回はあくまでベータ版である。ivylが公開したリリースノートには、対応ゲーム一覧と修正リストが並ぶ一方、Steamクライアントでの一般公開は段階的に行われる見込みだ。

通常、Protonのベータはコミュニティでの検証を経て、数週間から数か月後に無印の安定版(proton-11.0-1)へ昇格する。それまでの間に新たな不具合が見つかれば、beta2、beta3と積み重なっていく。急いで切り替える必要はない。

注意すべきは、Wine 11.0へのリベースが全タイトルに吉報とは限らないという点だ。Wineのメジャーアップデートでは、これまで動いていたゲームが動かなくなる「リグレッション」が起きることがある。Proton ExperimentalProton 10.0系を手元に残しつつ、壊れたタイトルは古い系統で遊ぶ、という使い分けが当面は現実的だろう。

ただ、古いEAゲームカプコンのクラシックサバイバルホラーが同じ週に公式サポートの俎上に乗ってくる、という事実は素直に喜んでいい。Linuxゲーミングが「最新タイトルを動かす努力」から「古いタイトルも拾い上げる余裕」へと、少しずつ性格を変えてきている証拠にも見えるからだ。


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