VLCの起動に33秒。原因はMicrosoftか、VLC自身か

MP3を1曲再生するのに、33秒待たされる。著名ゲーム開発者の告発から始まったVLCとMicrosoftの泥仕合は、どちらの言い分も完全には正しくない。

VLCの起動に33秒。原因はMicrosoftか、VLC自身か

MP3を1曲再生するのに、33秒待たされる。著名ゲーム開発者の告発から始まったVLCとMicrosoftの泥仕合は、どちらの言い分も完全には正しくない。


MP3再生に33秒という異常

VLCがWindows上でMP3の再生を開始するまでに33秒かかる。Ryzen 9 9800X3Dと32GBのDDR5を積んだマシンでもだ。

きっかけはゲームデザイナーのジョナサン・ブロウ(Jonathan Blow)氏の投稿だった。パズルゲームBraidやThe Witnessの開発者として知られるブロウ氏は、VLCからMicrosoftのメディアプレーヤーに乗り換えたと明かした。そしてこう続けた。

オープンソースソフトウェアの大部分が、本当に恥ずかしい状態にある。

この一言が火種になった。


VideoLANの反論と「犯人」の名指し

VLCの開発元であるVideoLANは即座に反論した

原因はVLCのバグではなく、Windows 11のMicrosoft Defenderのアップデートが、VLCのプラグインキャッシュを「隔離」してしまうバグだという。VLCを再インストールするか、vlc-cache-gen.exeでキャッシュを再生成すれば直ると説明した。

オープンソースソフトウェアを恥ずかしいと呼ぶのは、Windowsのアップデートが壊したのだとすれば、かなり失礼な話だ。

VideoLANの言い分には技術的な裏付けがある。VLCはほぼすべての機能をプラグインとして構成している。コーデック、デマルチプレクサ、入出力モジュール。これらの情報はplugins.datというファイルにキャッシュされ、起動のたびにプラグインフォルダを全スキャンしなくて済むようになっている。

合理的な設計だが、このキャッシュファイルが何らかの理由で壊れたり消えたりすると、起動が数十秒止まる。Microsoft Defenderがこのファイルを誤って隔離したのだとすれば、筋は通る。


バグトラッカーが語る、もっと複雑な現実

1年以上前から報告されている問題

ただし、VideoLANの説明は話の半分でしかない。

VLCの起動が遅い問題は、今に始まったことじゃない。1年以上前からRedditやフォーラムに報告が上がっている。Windows 10で24秒の遅延を経験したユーザーもいた。一度起動すると2回目以降は瞬時に立ち上がるが、PCをしばらく放置すると再び遅くなる。

VLCのバグトラッカーでは、この問題をめぐって開発者とユーザーのやり取りが続いている。あるユーザーはキャッシュの再生成で解消したと報告し、別のユーザーはキャッシュファイルが存在するのに遅延が発生していたと反論した。正常なキャッシュファイルに差し替えると遅延が消えたという。これは「キャッシュが存在しないから遅い」のではなく、「キャッシュの中身が壊れている」という別の故障モードを示している。

Defenderの関与は「事実」だが「全容」じゃない

VLCの開発者の一人は、キャッシュの状態に関係なくMicrosoft Defenderが原因に見えるという結論に達した。別の開発者はキャッシュの再生成で「修正済み」としていた。どちらも、それぞれのユーザー環境では正しかった。

VLCフォルダ全体をDefenderの除外リストに加えないと直らないケースも報告されている。vlc.exeだけを除外しても効果がなかったという。Defenderがどこかで干渉しているのは確かだが、そのメカニズムはまだ特定されていない。

つまり、VideoLANの「Microsoftのせいだ」は言い過ぎだが、まったくの嘘でもない。Defenderの関与は実在するが、VLCのキャッシュ設計自体にも脆弱な点がある。

ブロウ氏の批判はどこまで妥当か

ブロウ氏の指摘には核がある。2026年のハードウェアでMP3を1曲再生するのに30秒以上待たされるのは、弁解の余地がない。

だがブロウ氏は、1つのバグを「オープンソース全体の恥」に拡大した。VLCが抱えている問題は、プラグインキャッシュという特定の設計とMicrosoft Defenderの挙動が噛み合わなかった結果だ。オープンソースの開発モデルそのものの欠陥じゃない。

乗り換え先の皮肉

もうひとつ見逃せないのは、ブロウ氏がVLCの代わりに選んだMicrosoftのメディアプレーヤーの実態だ。Windows 11の新しいメディアプレーヤーは、6月時点の測定でアイドル状態のRAM消費が約377MBに達する。レガシー版のWindows Media Playerは約103MBだった。動画の再生開始も遅く、HEVCのようにiPhoneで撮影した動画の主流形式すら標準では再生できない。

VLCは確かに起動でつまずいた。しかし、いったん立ち上がれば、Microsoftの純正プレーヤーより軽く、対応フォーマットも広い。ブロウ氏が逃げ込んだ先が、べつの意味で遅くて重いプレーヤーだったというのは、この騒動で最も皮肉な一幕かもしれない。

VLC起動遅延問題の経緯
2025年2月
Windows 10で24秒の遅延が報告
一度起動すると2回目以降は瞬時に立ち上がるが、放置後に再発する症状
2025年4月
Defender干渉の疑いが浮上
除外設定で遅延が解消するとの報告が複数出現
2026年2月
VLC 3.0.23更新後に遅延増加
5〜20秒の遅延報告がWindows 11環境でも拡大
8月12日
ブロウ氏がVLCからの乗り換えを投稿
MP3再生に33秒かかると報告し「オープンソースの恥」と批判
8月12日
VideoLANがDefenderのバグと反論
キャッシュの隔離が原因と主張。再インストールで解消と説明
8月14日
Microsoftは沈黙を継続
公式な声明やアドバイザリは出されていない
※日付は現地時間基準

本当の問題はどこにあるのか

この一件は「VLC対Microsoft」の枠に収まらない。

VLCのプラグインアーキテクチャは、あらゆるフォーマットを単一バイナリに詰め込まずに対応するための合理的な選択だった。しかし、その柔軟性が単一障害点を生んでいる。キャッシュファイルが1つ壊れただけで、プレーヤー全体が30秒以上フリーズする設計は、2026年の水準では見直しが必要だろう。

一方で、Microsoft DefenderがVLCのような広く使われているアプリケーションのキャッシュを隔離してしまう挙動も看過できない。DefenderがJavaプログラムを遅延させる問題は以前から開発者コミュニティで知られており、今回のVLCの件もその延長線上にある。

Microsoftはこの問題について、現地時間8月14日時点で公式な声明やアドバイザリを出していない。

VideoLANは非営利団体だ。VLCは25年にわたって無料で配布されてきた。起動が遅いバグは修正すべきだが、それを「オープンソースの恥」と断じるのは、修正のために無償で動いている人々への敬意を欠いている。

この騒動が浮かび上がらせたのは、オープンソースの質の話じゃない。Windowsというプラットフォーム上で、サードパーティのソフトウェアがどれだけ脆い立場にあるかという話だ。Defenderのアップデート1つで、25年続くプレーヤーが30秒止まる。そしてMicrosoftは、沈黙している。

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