AI輸送トラック、護送車ごと強奪される。暴力化する貨物窃盗
盗品が正規品より高く売れる。米国の輸出規制が生んだ「価格の逆転」が、貨物窃盗の手口を根底から変えつつある。
盗品が正規品より高く売れる。米国の輸出規制が生んだ「価格の逆転」が、貨物窃盗の手口を根底から変えつつある。
護送車をPITマニューバで排除
カリフォルニア州の高速道路上で、AIデータセンター向けハードウェアを積んだトレーラーの護衛車両が、意図的な追突とPITマニューバ(警察が逃走車両を停止させるために使う回転技術)で無力化される事件が、ここ数か月で少なくとも2件起きている。
いずれもシリコンバレーから南カリフォルニアへ向かう途中だった。護衛が機能しなくなると、大型トレーラーはそのまま走り去り、どちらのトラックもまだ見つかっていない。
元ロサンゼルス郡保安官探偵で、現在は貨物犯罪のコンサルタントを務めるヘラルド・パチュカ(Gerardo Pachuca)氏がWIREDの調査報道で明かした。1件目は護衛車両がひき逃げで追突され、2件目はPITマニューバで道路脇に弾き飛ばされた。護衛が止まっている間に、トレーラーは消えた。
「これまでで最悪だ」(It's the worst I've ever seen.)
パチュカ氏は、全米の貨物窃盗についてそう表現した。
トラック運転手も共犯か
2件とも、運送業者の連邦登録番号が直前に別の業者に移転されていた。正規の運送会社の登録を乗っ取り、犯罪者がその名義で荷物を引き受ける手口で、荷主には見分けがつかない。調査員は、トラック運転手自体が共犯だった可能性を指摘している。
WIREDは5つの州・地方の法執行機関に事件の確認を求めたが、いずれも確認は得られなかった。ただ、南西部輸送セキュリティ協議会のJ.J.コフリン(J.J. Coughlin)会長と、貨物監視企業Overhaulのダニー・ラモン(Danny Ramon)氏がそれぞれ独立にこの事件を裏付けている。
件数は減り、被害額は倍増した
この2件は、米国全体の貨物窃盗が「少なくなったが、1件あたりが重くなっている」という傾向を、極端な形で映し出している。
データ分析企業Veriskが傘下のCargoNet事業を通じて発表したQ2 2026レポートによると、米国とカナダにおける貨物窃盗件数は677件で、前年同期比26%減少した。ところが推定被害額は3億460万ドル(約485億円)に達し、前年同期の1億3570万ドル(約216億円)から倍増以上の伸びを記録している。
1件あたりの平均被害額は56万4009ドル(約8970万円)。数百万ドル規模の窃盗が数件含まれているためこの数字は大きく押し上げられているが、それ自体がこの現象の核心を示している。狙われるのは「たくさんの荷物」じゃない。「正しい荷物」を選んで盗んでいる。
Verisk CargoNetのキース・ルイス(Keith Lewis)運営担当副社長は「件数の減少をリスクの低下と勘違いしてはならない」と警告した。
エンタープライズ向けコンピューティング機器とネットワーク機器は、最も狙われるカテゴリの1つに入っている。数百万ドル相当の出荷品が、特別な警護なしに通常の乾燥貨物として輸送されることが珍しくないと、Veriskは指摘した。
盗品が正規品より高い(輸出規制が生んだ逆転現象)
貨物窃盗が暴力化している背景には、構造的な価格の歪みがある。
通常、盗品は正規価格より安く売られる。転売ルートの不透明さが「割引」として機能する。ところがAIハードウェアだけは、この常識が通用しない。
NVIDIAのDGX B300サーバーは米国での小売価格が約55万ドル(約8750万円)だが、中国の闇市場では110万ドル超(約1億7500万円)で取引されている。Financial Timesの報道によれば、半年前の約400万元からおよそ800万元へ倍増した。5年前に発売されたA100サーバーですら、中国での闇市場価格が3倍に跳ね上がっている。
米国の輸出規制が正規ルートを塞ぎ、中国企業のAI開発需要が闇市場に流れ込んだ。
盗まれたAIハードウェアは、闇市場のほうが正規市場より高く売れる数少ないカテゴリの1つになった。この「逆転」が、窃盗団のインセンティブ構造そのものを変えている。
貨物調査員によれば、盗まれた部品のGPS信号は多くが海外に向かっている。国内の転売じゃない。国際的な闇サプライチェーンに乗っている。
回収された品と、残された疑問
今夏、いくつかの回収事例がある。Meta向けのCelestica製サーバースイッチ55万ドル分がカリフォルニアで見つかり、シカゴ郊外ではデータセンター向け機器約100万ドル分がトレーラーの中から発見された。
ただし、今回のカリフォルニアの2件はどちらも未回収のまま残っている。
この問題は単なる貨物窃盗のエスカレーションにとどまらない。米国の輸出規制は中国のAI開発を遅らせることが目的だったが、副産物として「AIハードウェアの闇市場価値」を押し上げ、それが窃盗の暴力化という予想外の経路で跳ね返ってきている。
規制が厳しくなるほど闇市場の価格は上がり、価格が上がるほど窃盗団の手口は大胆になる。護送車をPITマニューバで排除してまでトレーラーを奪う犯罪者が出てきたのは、そのサイクルが行き着いた先にある。
輸出規制が機能しているのか、していないのか。その答えは、見る角度によって変わる。
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