Windows 11、25年の標準コマンド「WMIC」を完全削除。再追加も不可に
WMICの10年がかりの段階的廃止が最終段階に入った。2026年8月以降、オプション機能としての再追加もできなくなる。
WMICの10年がかりの段階的廃止が最終段階に入った。2026年8月以降、オプション機能としての再追加もできなくなる。
10年かけて閉じた出口
wmic baseboard get manufacturer,product
Windowsの管理者やパワーユーザーなら、一度は打ったことがあるコマンドだろう。WMIC(Windows Management Instrumentation Command-line)は、WMI(Windowsが持つシステム管理情報の基盤)にコマンドラインからアクセスするためのツールで、2001年のWindows XPから標準搭載されてきた。マザーボードの型番確認、プロダクトキーの取得、プロセスの一覧表示。コマンドプロンプトひとつで完結する手軽さが、四半世紀にわたって支持されてきた。
Microsoftは現地時間8月14日、Windows 11のRelease PreviewチャンネルにKB5120998(Build 26100.9267 / 26200.9267)を配信した。長大な変更リストの末尾に、1つの記述がある。
2026年8月以降、Windows 11バージョン24H2および25H2にはWMICユーティリティが含まれなくなります。WMICは新規インストールでは既に既定で削除されており、オンデマンド機能(FoD)としても利用できなくなります。
FoDとしての再追加も不可。これがこれまでの段階と決定的に異なる点だ。
WMICの非推奨化は2016年に始まった。Windows Server 2012で最初に非推奨とされ、2021年にはWindows 10 21H2でもクライアント側が続いた。2022年、Windows 11 22H2でFoD(オンデマンド機能)に変換され、既定で有効のまま残された。2024年のWindows 11 23H2と24H2で既定無効になったが、まだ手動で追加できた。2025年、25H2へのアップグレード時に削除されたが、FoDとして追加し直す逃げ道は残っていた。
2026年8月、その逃げ道が閉じる。
2016年 Windows Serverで非推奨に WMICの廃止プロセスが始まる 2021年 Windows 10でも非推奨化 クライアントOSに拡大 2022年 オプション機能に変換 Windows 11 22H2でFoD化。既定で有効のまま残る 2024年 既定で無効化 23H2/24H2で手動追加が必要に 2025年 アップグレード時に削除 25H2への移行で自動削除。FoDで再追加は可能 2026年8月 完全削除 FoDとしての再追加も不可に |
WMIは消えない。消えるのはWMICだけ
誤解されやすい点を先に整理しておく。
WMICが消えても、WMI自体は残る。WMIはWindowsのハードウェア情報やシステム設定を取得・操作するための仕組みで、グループポリシー、Configuration Manager、PowerShellのコマンドレットなど、あらゆる管理ツールがWMIの上で動いている。今回削除されるのは、WMIへの「入り口」の一つにすぎない。
代替手段はPowerShellだ。たとえばマザーボード情報の取得なら、WMICのwmic baseboard get manufacturer,productは、PowerShellではGet-CimInstance Win32_BaseBoard | Select-Object Manufacturer,Productになる。長い。だが、PowerShellのGet-CimInstanceは出力をオブジェクトとして扱えるため、パイプライン処理やCSVエクスポートとの連携で柔軟性が高い。Microsoftが移行を推奨する理由はここにある。
管理者が怒っている理由
Microsoftの公式Tech Communityブログには、この廃止に対する管理者のコメントが残っている。反発の声は大きい。
PowerShellのGet-CimInstanceはWMICの完全な代替にはなっていない、という指摘がある。WMICはコマンドプロンプトから直接呼べるが、PowerShellはセッションの起動に時間がかかる。バッチファイルの中で1行だけWMIC呼び出しを挟む使い方をしていた管理者にとって、PowerShellへの書き直しは構文が変わるだけの話じゃない。ワークフロー全体の再設計を意味する。
コミュニケーションの問題も繰り返し指摘されている。WMIC実行時に非推奨の警告メッセージが表示されたことがなく、廃止を知ったのがブログ記事だった、という管理者もいた。非推奨の宣言から完全削除まで10年かけたとはいえ、対象のツール自体が警告を出さないなら、日常的にWMICを使い続けていた管理者が移行に着手するきっかけは生まれにくい。
FoDとしての再追加すら不可能になる2026年の変更で、延命措置はなくなる。10年以上前に書かれたスクリプトが今も動いている環境は珍しくない。その環境が次の機能アップデートで壊れる。
セキュリティという別の文脈
WMICの廃止には、管理上の整理とは別の文脈がある。
WMICはいわゆるLOLBin(Living Off the Land Binary)として、サイバー攻撃に長年悪用されてきた。LOLBinとは、OS標準搭載の正規バイナリを悪用して攻撃を行う手法で、セキュリティソフトによる検知が難しい。WMICはMicrosoftの署名付きで、管理者権限がなくても基本的な情報取得が可能で、リモート実行にも対応する。攻撃者にとって都合のいい条件が揃っている。
マルウェアがWMICを使ってMicrosoft Defenderの除外設定を追加し、検知を回避するケースも報告されていた。WMICのバイナリがシステムから消えれば、この経路は物理的に閉じる。
Microsoftがこの点を廃止の公式な理由として前面に出しているわけじゃない。だが、攻撃対象領域を減らすことが副次的な効果として存在することは、Microsoftのサポートページに記された「環境のセキュリティ保護と強化」という表現からも読み取れる。
2001年からの退場
KB5120998はRelease Previewビルドであり、一般提供チャンネルへの配信は9月のセキュリティ更新で行われる見通しだ。ただ、WMICが消える方向自体は数年前から確定しており、今回はその最終ステップが正式にビルドに反映されたという話だ。
WMICのようなツールは、動いているうちは空気のように意識されない。壊れたとき、消えたときに初めてその存在を思い出す。25年間Windowsに住んでいたコマンドが、ようやく退去する。引っ越し先は用意されている。荷造りがまだなら、今がその時だ。
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