Dell、AI生成動画で「あの広告」を復活。届けるのはPCじゃない
2000年代に一世を風靡したDellのCMが帰ってきた。ただし売るのはパソコンじゃなくAIサーバーラック、演者は人じゃなくAI生成。マイケル・デル氏が投じた10秒が、25年の変貌を映している。
2000年代に一世を風靡したDellのCMが帰ってきた。ただし売るのはパソコンじゃなくAIサーバーラック、演者は人じゃなくAI生成。マイケル・デル氏が投じた10秒が、25年の変貌を映している。
ガレージに降りてきたのは、パソコンじゃなかった
マイケル・デル(Michael Dell)氏が現地時間8月15日に投稿したのは、たった一言「2026」と10秒の動画だった。
2026 pic.twitter.com/TyXlFIR9f1
— Michael Dell 🇺🇸 (@MichaelDell) August 15, 2026
画面には見覚えのある青年が映る。ガレージのドアを開け、嬉しそうに外を見る。2000年代を知る人なら、次のセリフが聞こえるはずだ。「Dude, you're getting a Dell!」(よう、Dellが届くぜ!)
ところがクレーンで庭先に降りてくるのは、ベージュ色のデスクトップパソコンじゃない。冷気の霧を噴き上げる巨大なAIサーバーラックだ。
「Dell Dude」という時代のアイコン
元ネタは2000年から2003年にかけてアメリカで大ヒットしたテレビCMシリーズだ。ベン・カーティス(Ben Curtis)という当時19歳の俳優がスティーブン(Steven)役を演じ、友達や家族にDellのパソコンを勧めては「Dude, you're getting a Dell!」と決め台詞を放った。26本以上のCMに出演し、当時のアメリカでは知らない人がいないほどの存在だった。
2003年2月、カーティス氏がマリファナ購入の容疑で逮捕されたことでキャンペーンは突然終わった。起訴は取り下げられたが、Dellとの契約は打ち切られ、本人によれば業界から事実上閉め出された。
それから23年。マイケル・デル氏が持ち出したのは、あのキャラクターをAIで再現した映像だった。投稿には「AIで生成」のラベルが付いている。
PCメーカーが売りたいのは、もうPCじゃない
この10秒は笑い話に見えて、Dellの25年を圧縮している。
2001年にCompaq(コンパック)を抜いて世界最大のPCメーカーに上り詰めたDell。「Dude, you're getting a Dell!」が響いた時代、売っていたのは849ドルのデスクトップ、DVDドライブ付きだ。
2026年のDellが売りたいのは、AIサーバーだ。FY2027第1四半期(2026年2〜4月)の決算で、Dellの売上は438億ドル、前年比88%増。そのうちAIサーバー売上だけで161億ドル、前年比757%増という数字を叩き出した。通年のAIサーバー売上見通しは600億ドルに引き上げられている。
一方、消費者向けPC事業の売上は16億ドルで9%増にとどまった。2026年1月のCES(世界最大級の家電見本市)で、Dellの製品責任者は「消費者はAIを基準にPCを選んでいない」と認めた。
2026年5月のDell Technologies World(年次カンファレンス)でDellが発表した「PowerRack」は、コンピュート・ネットワーク・ストレージ・冷却をラック単位で統合する企業向けAIインフラ製品だ。すでに5,000社以上がDellのAI Factory(企業向けAI基盤サービス)を導入しているという。
3年で3万6,000人を削減しながら売上を記録更新し続ける会社の力の入れどころは、とっくにガレージの中のパソコンから離れていた。
| 2000年代 | 2026年 | |
|---|---|---|
| 主力製品 | 家庭用PC | AIサーバー |
| 代表価格 | 849ドル | — |
| CMの演者 | 俳優 | AI生成 |
| PC市場の地位 | 世界1位 | — |
| AIサーバー売上 | — | 161億ドル |
| 消費者PC売上 | 事業の柱 | 16億ドル |
| 年間売上高 | 約320億ドル | 1,135億ドル |
AI生成が映すもの
この「復活」がAI生成動画だという点が引っかかる。
Dell Technologiesは年間売上1,000億ドルを超える企業であり、実写CMを撮る予算がないわけがない。それでもAI生成を選んだ。一部のコメントは動画の口パクのずれを指摘し、「AIなしでも作れたのでは」と書いた。別のコメントは「AIで動画制作がここまで手軽になったことの証拠」だと受け止めた。
マイケル・デル氏は2024年、イーロン・マスク氏率いるAI企業xAIのスーパーコンピュータ向けにラックの半数をDellが組み立てていると発表し、AI業界の「インフラ屋」として地位を固めてきた。AIサーバーを売る会社が、AI生成動画でAIサーバーの広告を出す。AIで作って、AIを売る。その循環自体が、Dell Technologiesがいまどこにいるかを語っている。
元のCMでベン・カーティスという19歳の大学生が売っていたのは、家族がリビングに置く849ドルのパソコンだった。2026年版でAIが演じる人物が喜んでいるのは、キロワット級の電力を食い、冷却に専用インフラが要る企業用ラックシステムだ。ガレージのドアの向こうに広がる景色は、25年前と完全に入れ替わっている。
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