uBlock Origin、Facebook広告の遮断を断念

Facebookの広告を消し続けてきたボランティアたちが、ついに手を引いた。残されたのは、広告まみれのフィードと、それでもログインし続けるユーザーだ。

uBlock Origin、Facebook広告の遮断を断念

Facebookの広告を消し続けてきたボランティアたちが、ついに手を引いた。残されたのは、広告まみれのフィードと、それでもログインし続けるユーザーだ。


「もうFacebookは相手にしない」

uBlock Originの開発チームが、Facebookの広告フィルタリングを事実上放棄した。

r/uBlockOriginに投稿された開発チームの声明は短く、そして激しかった。

About disgusting Facebook devs
by u/paintboth1234 in uBlockOrigin
もうFacebookはサポートしない。あのサイトは不快な反ユーザーサイトだ。やっていることは、オープンソースプロジェクトの公開情報を監視して、悪質な広告を届けるための対抗策を打つことだけだ。

ボランティアの怒りが文面に滲んでいる。「7桁ドルの給料を受け取っている開発者たちが、やっているのはそれだけだ」という一文は、構造的な非対称性への苛立ちそのものだ。


何がuBlock Originを追い詰めたのか

文字1つを隠すための執念

Facebookの広告妨害対策は、技術的に見ると異様なレベルに達している。

広告投稿には通常「Sponsored」というラベルが付く。広告ブロッカーはこのラベルを検出して投稿を非表示にする。Facebookが取った対策は、この「Sponsored」という9文字を1文字ずつ分解し、それぞれを別のHTML要素に格納することだった。

しかもその間にランダムなダミー文字列を挿入し、CSSのクラス名も自動生成して頻繁に変更する。開発チームのメンバーによれば、この手法は少なくとも 5年前から使われており、文字の並び順をランダム化したり、偽の文字を紛れ込ませたりする手法も併用されてきた。

ブラウザの画面上には「Sponsored」と正しく表示される。だが、HTMLのソースコードを覗くと、そこには目で追うのが困難なほど難読化されたコードが広がっている。

つまりFacebookは、広告であることを「人にはわかるが、機械にはわからない」状態を意図的に作り出している。

ボランティア vs 年収数千万円の専任チーム

uBlock Originは完全なボランティアプロジェクトだ。開発者のレイモンド・ヒル(Raymond Hill)氏が2014年に立ち上げ、寄付の受け取りすら拒否し続けている。フィルタリストの保守を担っているのも、本業の傍らで作業する少数のボランティアに過ぎない。

対するFacebookの親会社Metaは、2025年の広告収入が 1960億ドル(約31兆円)を超えている。広告はMetaの総収入の 97% 以上を占める。広告ブロッカー対策に何十人ものエンジニアを専任させるだけの資金力がある。

開発チームの一人はこう書いた。

修正を出しても数時間で対策される。自分が使ってもいないサイトのために、それを繰り返すのは苦痛以外の何物でもない。

Facebookのアカウントすら持っていないボランティアが、Facebookユーザーのために無償でフィルタを書き、Metaの有給エンジニアに数時間で潰される。この構造が何年も続いてきた。


「完全撤退」じゃない、だが限りなく近い

開発チームは即座にすべてのFacebook向けフィルタを削除するわけじゃないと説明している。既存のフィルタは残る。ただし、Facebookが新しい回避策を実装しても、チームはもう追いかけない。

つまり、既存のフィルタが無効化された時点で、uBlock OriginのFacebook広告ブロックは終わる。一部のユーザーからは「すでに広告が表示され始めた」という報告も出ている。

チームは「誰でもプルリクエストを送ることはできる」と述べており、第三者がフィルタを投稿すれば取り込む姿勢は維持している。だが現実的に、Metaの自動化された対策に個人で対抗し続けられる人がどれだけいるかは疑問だ。


二正面作戦の消耗

uBlock Originが直面しているのはFacebookだけじゃない。

GoogleのChromeブラウザは、拡張機能の仕様をManifest V2(従来の仕組み)からManifest V3に移行し、uBlock Originのような高機能な広告ブロッカーを事実上排除した。2026年8月31日には、ChromeウェブストアからすべてのManifest V2拡張機能が削除される予定だ。

フル機能のuBlock Originが動作するブラウザは、FirefoxとBraveに限られつつある。Chromeという最大のプラットフォームを失い、さらにFacebookという巨大サイトでの戦いからも撤退する。ボランティアプロジェクトに二正面作戦を強いること自体が無理だったのかもしれない。


「AI対AI」の時代が来るのか

Redditのスレッドで、あるユーザーの指摘が多くの支持を集めていた。

どの大手サイトもこれをやる。フィルタリストとuBlock Originのソースコードを毎時スクレイピングするAIエージェントを企業が持つ時代に、ボランティアの人力で対抗できるわけがない。

解決策として「ブロッカー側もAIエージェントでフィルタリストを自動保守すべきだ」という提案もあった。技術的には実現可能だが、そのためのインフラとコストを誰が負担するのかという問題が残る。

一方で、別の視点もある。広告には法的に「広告であること」を消費者に明示する義務がある。画面上に「Sponsored」と表示されている以上、見ている人には広告だとわかる。機械に読めないだけだ。スタンフォード大学の研究者は以前、「HTMLのコードではなく、ユーザーが見るのと同じ画面情報から広告を検出する」手法を提唱していた。アクセシビリティの観点からも、スクリーンリーダーが広告を識別できないほどの難読化は法的なリスクを孕んでいる可能性がある。


Facebookを使い続ける理由、使い続けられない理由

開発チームの投稿には、もうひとつ明確なメッセージがあった。

ユーザーこそが、ああいうサイトにとって最も有効な武器だ。反ユーザーサイトに通い続けることをやめられないなら、何も変わらない。

コメント欄では「とっくに削除した」という声と、「Marketplaceや家族の連絡手段として手放せない」という声が交錯していた。地方のコミュニティグループが山火事の早期警報に使われている事例や、特定のトレーディングカードコミュニティがFacebook以外に移行しない事例も挙がっていた。

Facebookを離れられない事情はユーザーごとに違う。だが開発チームが突きつけているのは、広告ブロッカーがFacebookを快適にしてしまうこと自体が免罪符になっているという矛盾だ。広告を消してFacebookの体験を改善するほど、ユーザーはプラットフォームに留まり、Metaのビジネスモデルを間接的に支える。その循環に、ボランティアたちはもう付き合えないと言っている。

uBlock Originが追い詰められるまで
2014年6月
uBlock Origin公開
ヒル氏が開発。寄付の受け取りを一貫して拒否
2019年頃
Facebookが広告の難読化を開始
「Sponsored」を1文字ずつ分解しダミーを挿入。以後5年以上手法を高度化
2024年10月
ChromeがMV2拡張の無効化を開始
Manifest V3への移行で広告ブロッカーのフル版が段階的に使えなくなる
2025年7月
Chrome、MV2を完全廃止
フル版の居場所がFirefoxとBraveに限定される
2026年8月
Facebook広告の遮断を断念
開発チームが「反ユーザーサイト」と声明。新しい回避策はもう追わないと表明
2026年8月31日
MV2拡張がストアから全削除(予定)
Chrome Web Storeからすべてのmanifest V2拡張が消える
※難読化の開始時期はuBO開発チームの証言に基づく

次にどこが「白旗」を上げるのか

コメント欄では「他の大手サイトもこの手法を真似するんじゃないか」という懸念が複数あった。YouTubeは動画サーバーと広告サーバーを同一ドメインから配信しており、ネットワークレベルでの区別が困難だと指摘されている。Facebookの戦術がuBlock Originを退かせたという前例は、他のプラットフォームにとって明確な成功事例になる。

uBlock Originのボランティアたちは「自分たちが撤退したらどうなるか」を知っている。だからこそ、Redditの投稿は怒りの表明だけでは終わらない。ユーザー自身に選択を迫っている。

広告ブロッカーが守ってくれなくなった世界で、ユーザーは何を選ぶのか。そのサイトに行くのをやめるのか、それとも広告を受け入れてスクロールし続けるのか。

答えを出すのは、もうボランティアの仕事じゃない。

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