米最高裁、スマホの位置情報に憲法上の保護を認める。6対3でジオフェンス令状を制限

米最高裁、スマホの位置情報に憲法上の保護を認める。6対3でジオフェンス令状を制限

警察が地図上に円を描き、テック企業に「この範囲にいた全員のデータを出せ」と命じる。容疑者の特定が先ではなく、まず無差別にデータを集め、そこから容疑者を絞り込む。この手法に、米連邦最高裁が初めて憲法上の歯止めをかけた。


カーペンター判決の先へ

連邦最高裁は現地時間6月29日、Chatrie v. United States(事件番号25-112)において、携帯電話の位置情報の取得は合衆国憲法修正第4条が定める「捜索」に該当するとの判断を示した。6対3。法廷意見はケイガン判事が執筆し、ロバーツ長官、ソトマイヨール、カバノー、ジャクソンの各判事が加わった。ゴーサッチ判事は結論に同意しつつ、位置情報をユーザー個人の「財産」と位置づける独自の同意意見を付している。

2018年のカーペンター判決は、通信事業者が保管する基地局位置情報(CSLI)の取得に令状を義務づけた。今回の判決はその射程をさらに広げた。争点になったのはGoogleのロケーション履歴、つまりスマホのアプリが生成する位置データだ。CSLIは基地局単位で1日約101回の記録にとどまるが、ロケーション履歴は約2分ごとに位置を記録し、1日平均720回。精度も約20メートルで、建物の何階にいるかまで特定できる。

基地局位置情報(CSLI)とロケーション履歴の比較
CSLIロケーション履歴
記録頻度通話・通信時約2分ごと
1日の記録回数約101回約720回
位置精度基地局セクター単位約20メートル
高度検知不可建物の階数を特定可能
データの保管先通信事業者Google(2025年7月以降は端末)
出典:Chatrie v. United States判決文(609 U.S. ___, 2026)

法廷意見は、この精度の高さゆえに、ロケーション履歴は「人の家族的、政治的、職業的、宗教的、性的な結びつきに関する豊富な詳細」を短期間の監視でも明らかにするとした。そして、修正第4条の保護は一定量のデータを超えてから初めて発動するものではないと明言した。

「共有」ではない

政府側は、ユーザーがロケーション履歴を有効にした時点でデータを自発的にGoogleと「共有」したのだから、第三者法理によってプライバシーの期待は失われると主張した。

最高裁はこの主張を退けた。カーペンター判決がCSLIについて第三者法理の適用を否定したのと同じ論理が、ロケーション履歴にはさらに強くあてはまるという結論だ。理由は二つある。ロケーション履歴はCSLIよりもはるかに詳細な個人情報を含むこと。ユーザーがその情報を第三者に「見せたい」「使わせたい」という意味で共有しているわけではないこと。

判決は、Googleがユーザーに対し繰り返しロケーション履歴の有効化を促し、Android端末では有効にしないと「正しく動作しない」と警告していた事実を指摘した。記録の頻度や精度、政府に提供される可能性をその場で開示していなかったことにも言及している。

ケイガン判事はこう書いた。スマートフォンの意義は、その上にあるアプリやサービスを使うことにある。アプリを使うという日常の行為をしているだけで、プライベートな情報を第三者と共有し、政府に自由に渡せる状態にしたとみなすのは誤りだ、と。

全面禁止ではない

判決はジオフェンス令状そのものを違憲とはしなかった。位置情報の取得が「捜索」にあたる以上、令状が必要になる。その令状が修正第4条の要件(犯罪との関連を示す相当な理由と、捜索範囲の特定)を満たしているかどうかは、第4巡回控訴裁判所に差し戻して判断させるとした。

EFF(電子フロンティア財団)はこの判決を歓迎しつつ、射程がジオフェンス令状の枠を超える可能性に注目している。法廷意見はアプリのデータ全般について修正第4条の保護を認めた。ユーザーが規約に「同意」していてもプライバシーは保護されるという論理は、メール、写真、カレンダーなど端末上のあらゆるデータに波及するとEFFは指摘した。

ACLUも声明で、新しい技術が監視の抜け道を開くことは許されないという明確なメッセージだと評価した。

チャトリー事件の経緯

発端は2019年5月、バージニア州ミッドロージアンで起きた信用組合強盗だった。容疑者は犯行時にスマホで通話しているように見えたが、身元は不明のまま。警察は犯行現場を中心に半径150メートルのジオフェンスを設定し、Googleに対して犯行前後1時間にその範囲内にいた全端末のロケーション履歴を求める令状を取得した。

3段階の絞り込みを経て、Googleは最終的に3人の身元情報を警察に引き渡した。その一人がオケロ・チャトリー氏だった。強盗の約10分前にジオフェンス内に入り、犯行直後に住宅街へ向かった位置データが、逮捕と起訴につながった。

連邦地方裁判所は2022年、このジオフェンス令状が修正第4条に「明白に違反する」と認定した。7万平方メートルを超える範囲に住宅、事業所、教会が含まれ、関係のない人々のデータまで収集していたからだ。ただし、捜査官が令状を「善意で」信頼したとして、証拠の排除は認めなかった。控訴審の第4巡回控訴裁では判事が7対7に割れ、結論だけを一文で示す異例の判決で地裁の判断を支持していた。

Chatrie v. United States 事件の経過
2019年5月
バージニア州で信用組合強盗が発生
2019年6月
ジオフェンス令状を取得
半径150m、犯行前後1時間のロケーション履歴をGoogleに要求
2019年10月
チャトリー氏が起訴、証拠排除を申し立て
2022年3月
連邦地裁が令状を「修正第4条に違反」と認定
善意の例外により証拠は排除せず
2025年4月
第4巡回控訴裁が7対7で地裁判断を支持
捜索の有無で判事が真っ二つに
2026年1月
連邦最高裁が上告を受理
2026年4月
口頭弁論を実施
2026年6月
6対3で判決。位置情報取得は「捜索」
令状の妥当性判断は控訴裁に差し戻し
出典:判決文・裁判記録から構成

Googleの退場と、残された戦場

Google自身は2025年7月にロケーション履歴の保存先をサーバーから端末に移行し、ジオフェンス令状への応答を事実上停止している。Googleに関していえば、今回の判決が直接の影響を及ぼす場面はもはや限られる。

だが問題はGoogleだけにとどまらない。マイクロソフト、ウーバー、ヤフーなどもジオフェンス令状を受け取っている。位置情報をサーバーに保管している企業は、今回の判決により、令状なしでデータを提供すれば憲法違反になるリスクを負った。

データブローカーからの位置情報購入という別の回路も残っている。カーペンター判決は通信事業者からの直接取得を対象としたが、ブローカー経由の購入は射程に入っていなかった。今回の判決は、アプリが生成するデータへの修正第4条の保護を認めた。その論理をブローカー購入にまで延長するかどうかは、議会と今後の訴訟に委ねられている。

反対意見が予告する「余震」

アリート判事は反対意見で、法廷意見がカーペンター判決の射程を大幅に拡大したと批判した。今回の判決は修正第4条の法理に「地震波を送る」ものであり、「今後当面のあいだ瓦礫の片付けに追われる」と書いた。バレット判事も別の反対意見を提出している。

ゴーサッチ判事は結論には同意したが、ケイガン判事の「プライバシーの合理的期待」テストではなく、修正第4条の条文が明示する「物品(effects)」として位置情報を保護すべきだと主張した。ロケーション履歴はユーザーの「個人的な財産(personal property)」であり、Googleのサーバーに保管されていても所有権は移らないという論理だ。

6対3の多数は確保された。だが、そこに至る道筋で判事たちが分かれた以上、位置情報の法的扱いをめぐる争いはこの判決では終わらない。

参照元:25-112 Chatrie v. United States (06/29/2026)

他参照:Victory! Supreme Court Says Constitution Protects People's Location Data

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