Prime VideoもTikTok化、入り口はNBAだった
Amazonが映画やドラマの短い切り抜きを縦にスクロールするフィード「Clips」をPrime Videoに投入する。Netflixが同名機能を出した翌週の発表だ。各社が同じ場所に集まりつつある。
同じ名前、1週間違いの登場
Prime Videoの新機能「Clips」は、米国のiOS、Android、Fireタブレット向けに一部ユーザーから提供が始まった。今夏には対応端末すべてで本格展開する予定だという。表示は縦フルスクリーン。指でスワイプすると、自分の視聴履歴に合わせたショーや映画の短い切り抜きが次々と流れてくる。
Netflixの「Clips」は4月30日、Prime Videoの「Clips」は5月8日。同じ名前のショート動画フィードが米国の二大ストリーミング企業から1週間差で公開された。
|
奇妙なのは、Netflixがほぼ同じ仕様の機能を、まったく同じ名前で発表したのが、わずか1週間前の4月30日だった点だ。Netflixの「Clips」も縦型ショート動画フィードで、自社オリジナル作品のハイライトを使ってユーザーに次の視聴作品を見つけさせる狙いを持つ。名称の衝突をAmazonが認識していなかったとは考えにくい。
それでも同じ名前で出した。普通名詞だから商標を取りにくい、という事情もあるだろう。しかし、それ以上に「他社と区別する努力よりも、TikTokに似た体験だと一目でわからせる優先度のほうが高い」と判断した、という見方ができる。差別化の放棄、と言ってもいい。
NBAから始まった伏線
Prime VideoのClipsは突然出てきた話ではない。Amazonは2025-26シーズンからNBAの放映権を持っており、そのコレクションページ上でNBAハイライトを縦にスクロールできる機能を先行投入していた。
つまり、入り口はスポーツのハイライトだった。バスケットボールの数十秒のプレー切り抜きをユーザーが指でスクロールする。その挙動が成立すると確認できたから、映画やドラマの切り抜きにも同じ枠組みを適用した、という順序だ。
Clipsは2025-26シーズンのNBAコレクションページで初めて投入され、現在は映画・シリーズの短い瞬間を含むようPrime Video全体に拡張されている。
スポーツのハイライトと映画の予告編は、本来別物だ。前者は試合のクライマックスをそのまま切り出せる。後者は本編の魅力をどう30秒に凝縮するか編集で勝負する。それでもAmazonが両者を同じ「Clips」というUIで扱うと決めたのは、ユーザーの指の動きを起点に発想しているからだろう。観るものではなく、流すもの。
ディズニーも同じ道を歩いている
この「スポーツ起点でショート動画を始め、後にエンタメ全般に広げる」という流れは、Amazonだけのパターンではない。
ディズニーは1月のCESで、ディズニープラス本体に縦型動画機能を年内導入すると発表した。そして同社の傘下にあるESPNアプリでは、すでに2025年8月から「Verts」というスワイプ式の縦型動画機能を提供していた。スポーツのハイライトで仕組みを試し、エンタメに横展開する。Amazonとほぼ同じ筋書きだ。
ディズニーのエリン・ティーグは縦型動画について「Z世代やアルファ世代は、スマートフォンで2時間半の長編を観ようとは思っていない」と発言している。最も認めたくない事実のはずだが、それを公言した。長編が売れない時代に、長編を売るための入り口として短尺を置く。そういう構造だ。
スポーツライブ配信の放映権を持つ各社が、ハイライト用に作ったショート動画UIを、自社のエンタメ全体に流用している。スポーツ放映権の争奪戦と、ストリーミングのTikTok化は、同じ流れの別の面だ。
「TikTok模倣」という整理では足りない
Prime VideoがTikTok風のフィードを追加した、という見出しは事実として正しい。だが、それで終わらせると見落とすものがある。
Netflixの最高技術責任者(CTO)だったエリザベス・ストーンは2025年10月のTechCrunch Disrupt 2025で、「Netflixはあらゆる瞬間にあらゆるものを提供しようとはしていない。TikTokを追いかける気はない」と語っていた。それから半年でNetflixは「Clips」を出した。追わないと言った半年後の翻意だ。
これが意味するのは、ストリーミング各社にとって縦型動画はもはや戦略選択ではなく、参入コストの一部になったということだ。やらない選択肢が消えた。だからNetflixも、Amazonも、ディズニーも、Peacock(NBCユニバーサルの米国向けサービス)も、Tubi(Foxの広告型無料サービス)も、似たような縦型フィードを並べることになる。
| サービス | 機能名 | ローンチ | 起点 |
|---|---|---|---|
| ESPN | Verts | 2025年8月 | スポーツ ハイライト |
| ディズニー プラス |
Verts | 2026年3月 | ESPN Vertsの 横展開 |
| Netflix | Clips | 2026年4月 | オリジナル作品 のハイライト |
| Prime Video |
Clips | 2026年5月 | NBA放映権の ハイライト機能 |
| Peacock | 縦型クリップ ハブ |
2025年初頭〜 | NBA・五輪等の スポーツ |
| Tubi | Scenes | 2024年11月 | 広告型無料配信 のシーン抜粋 |
ユーザー目線で見ると、観たい作品を選ぶアプリだったものが、まずスクロールするアプリになる。Prime Videoのモバイルアプリは最近、ホーム画面でも予告編が自動再生される仕様に変わっている。選ぶ前に観せる体験へ。視聴の主導権の所在が、ユーザーから事業者へと移動している。
ところで、これは日本に来るのか
Prime Video Clipsの初期展開は米国限定で、日本での提供時期について公式の言及はない。ただ、Amazonは過去にも米国先行で機能を試し、後から他地域に広げる進め方をとってきた。日本のPrime Videoユーザーにとっては「米国でこういう実験が始まった」という段階の話で、すぐに自分のアプリが変わるわけではない。
それでも気にとめておく価値はある。なぜなら、いま日本でPrime Videoを開く理由は「特定の作品を観るため」のはずだが、Clipsが標準搭載される頃には、指を動かすためのアプリに近づいているかもしれないからだ。SNSが歩んできた道を、ストリーミングがもう一度たどり始めている。
そして、その道の先で何が起きたかを、私たちはすでに知っている。
参照元
関連記事
- カナダ当局の配信規制強化、米大使が「貿易障壁」と批判
- YouTube CEO「クリエイターは家を離れない」は本当か
- Netflix全プラン値上げ——もう「逃げ場」はない
- Amazonが初公表した水消費量と「芝生比較」の危うさ
- Fable 5停止、もう一つの理由。中国のMythosアクセス疑惑が浮上
- Fable 5はなぜ止まったのか。舞台裏の24時間と「事実上のライセンス制度」
- Fable 5停止の裏で何が起きていたのか。政府側の言い分とAmazonの影
- ナデラ氏「自分もやめられない」。AI使い放題の時代が終わる
- Amazon倉庫ロボット刷新、言葉で動き雇用も動く
- Amazonが検索に「架空の商品画像」を表示開始