Prime VideoもTikTok化、入り口はNBAだった

Prime VideoもTikTok化、入り口はNBAだった
Amazon

Amazonが映画やドラマの短い切り抜きを縦にスクロールするフィード「Clips」をPrime Videoに投入する。Netflixが同名機能を出した翌週の発表だ。各社が同じ場所に集まりつつある。


同じ名前、1週間違いの登場

Prime Videoの新機能「Clips」は、米国のiOS、Android、Fireタブレット向けに一部ユーザーから提供が始まった。今夏には対応端末すべてで本格展開する予定だという。表示は縦フルスクリーン。指でスワイプすると、自分の視聴履歴に合わせたショーや映画の短い切り抜きが次々と流れてくる。

Netflixの「Clips」は4月30日、Prime Videoの「Clips」は5月8日。同じ名前のショート動画フィードが米国の二大ストリーミング企業から1週間差で公開された。
ストリーミング各社のショート動画機能ローンチ時期
  • 2025年8月21日 ESPN「Verts」 ESPNアプリの新DTC版に縦型動画タブを搭載。ディズニーが最初に投入したショート動画機能。
  • 2026年1月7日 ディズニープラス:CESで導入予告 ESPN Vertsの知見を踏まえ、ディズニープラス本体への縦型動画導入を年内予定として公表。
  • 2026年3月13日 ディズニープラス「Verts」本体ローンチ 予告から約2か月後、ESPNと同名の機能をディズニープラスのモバイルアプリに展開。
  • 2026年4月30日 Netflix「Clips」 モバイルアプリの再設計とともに、縦型ショート動画フィードを発表。半年前の「TikTokを追わない」発言からの方針転換。
  • 2026年5月8日 Prime Video「Clips」 Netflixの発表からわずか8日後、Amazonが同名機能を米国で先行投入。NBA放映権で実験した枠組みを映画・ドラマに拡張。

奇妙なのは、Netflixがほぼ同じ仕様の機能を、まったく同じ名前で発表したのが、わずか1週間前の4月30日だった点だ。Netflixの「Clips」も縦型ショート動画フィードで、自社オリジナル作品のハイライトを使ってユーザーに次の視聴作品を見つけさせる狙いを持つ。名称の衝突をAmazonが認識していなかったとは考えにくい。

それでも同じ名前で出した。普通名詞だから商標を取りにくい、という事情もあるだろう。しかし、それ以上に「他社と区別する努力よりも、TikTokに似た体験だと一目でわからせる優先度のほうが高い」と判断した、という見方ができる。差別化の放棄、と言ってもいい。

NBAから始まった伏線

Prime VideoのClipsは突然出てきた話ではない。Amazonは2025-26シーズンからNBAの放映権を持っており、そのコレクションページ上でNBAハイライトを縦にスクロールできる機能を先行投入していた。

つまり、入り口はスポーツのハイライトだった。バスケットボールの数十秒のプレー切り抜きをユーザーが指でスクロールする。その挙動が成立すると確認できたから、映画やドラマの切り抜きにも同じ枠組みを適用した、という順序だ。

Clipsは2025-26シーズンのNBAコレクションページで初めて投入され、現在は映画・シリーズの短い瞬間を含むようPrime Video全体に拡張されている。

スポーツのハイライトと映画の予告編は、本来別物だ。前者は試合のクライマックスをそのまま切り出せる。後者は本編の魅力をどう30秒に凝縮するか編集で勝負する。それでもAmazonが両者を同じ「Clips」というUIで扱うと決めたのは、ユーザーの指の動きを起点に発想しているからだろう。観るものではなく、流すもの。

ディズニーも同じ道を歩いている

この「スポーツ起点でショート動画を始め、後にエンタメ全般に広げる」という流れは、Amazonだけのパターンではない。

ディズニーは1月のCESで、ディズニープラス本体に縦型動画機能を年内導入すると発表した。そして同社の傘下にあるESPNアプリでは、すでに2025年8月から「Verts」というスワイプ式の縦型動画機能を提供していた。スポーツのハイライトで仕組みを試し、エンタメに横展開する。Amazonとほぼ同じ筋書きだ。

ディズニーのエリン・ティーグは縦型動画について「Z世代やアルファ世代は、スマートフォンで2時間半の長編を観ようとは思っていない」と発言している。最も認めたくない事実のはずだが、それを公言した。長編が売れない時代に、長編を売るための入り口として短尺を置く。そういう構造だ。

スポーツライブ配信の放映権を持つ各社が、ハイライト用に作ったショート動画UIを、自社のエンタメ全体に流用している。スポーツ放映権の争奪戦と、ストリーミングのTikTok化は、同じ流れの別の面だ。

「TikTok模倣」という整理では足りない

Prime VideoがTikTok風のフィードを追加した、という見出しは事実として正しい。だが、それで終わらせると見落とすものがある。

Netflixの最高技術責任者(CTO)だったエリザベス・ストーンは2025年10月のTechCrunch Disrupt 2025で、「Netflixはあらゆる瞬間にあらゆるものを提供しようとはしていない。TikTokを追いかける気はない」と語っていた。それから半年でNetflixは「Clips」を出した。追わないと言った半年後の翻意だ。

これが意味するのは、ストリーミング各社にとって縦型動画はもはや戦略選択ではなく、参入コストの一部になったということだ。やらない選択肢が消えた。だからNetflixも、Amazonも、ディズニーも、Peacock(NBCユニバーサルの米国向けサービス)も、Tubi(Foxの広告型無料サービス)も、似たような縦型フィードを並べることになる。

主要ストリーミング各社のショート動画機能と起点
サービス 機能名 ローンチ 起点
ESPN Verts 2025年8月 スポーツ
ハイライト
ディズニー
プラス
Verts 2026年3月 ESPN Vertsの
横展開
Netflix Clips 2026年4月 オリジナル作品
のハイライト
Prime
Video
Clips 2026年5月 NBA放映権の
ハイライト機能
Peacock 縦型クリップ
ハブ
2025年初頭〜 NBA・五輪等の
スポーツ
Tubi Scenes 2024年11月 広告型無料配信
のシーン抜粋
※ 「起点」は各社が縦型動画機能を最初に展開した素材ジャンル。Peacockは2025年初頭から全ジャンル横断のクリップを導入し、2026年夏にはモバイルアプリ内に「Vertical Video」専用セクションを追加予定。Prime VideoのClipsはAmazonが2025-26シーズンから取得したNBA放映権のハイライト機能として先行投入され、現在は映画・シリーズへ拡張されている。

ユーザー目線で見ると、観たい作品を選ぶアプリだったものが、まずスクロールするアプリになる。Prime Videoのモバイルアプリは最近、ホーム画面でも予告編が自動再生される仕様に変わっている。選ぶ前に観せる体験へ。視聴の主導権の所在が、ユーザーから事業者へと移動している。

ところで、これは日本に来るのか

Prime Video Clipsの初期展開は米国限定で、日本での提供時期について公式の言及はない。ただ、Amazonは過去にも米国先行で機能を試し、後から他地域に広げる進め方をとってきた。日本のPrime Videoユーザーにとっては「米国でこういう実験が始まった」という段階の話で、すぐに自分のアプリが変わるわけではない。

それでも気にとめておく価値はある。なぜなら、いま日本でPrime Videoを開く理由は「特定の作品を観るため」のはずだが、Clipsが標準搭載される頃には、指を動かすためのアプリに近づいているかもしれないからだ。SNSが歩んできた道を、ストリーミングがもう一度たどり始めている。

そして、その道の先で何が起きたかを、私たちはすでに知っている。


参照元

関連記事

この記事を共有する