TOTO、半導体部材に800億円。1nm時代を見据えた賭け

TOTO、半導体部材に800億円。1nm時代を見据えた賭け
TOTO

ウォシュレットの会社が、営業利益の過半を半導体で稼いでいる。そのTOTOが、次の5年でさらに800億円を投じると報じられた。いまの主戦場はNANDメモリー。その先にある「1nm世代のロジック半導体」を狙う。


300億円から800億円へ

TOTOは4月30日、セラミック事業の成長投資を加速すると発表した。2028年度までに茅ヶ崎工場(神奈川県)、中津工場(大分県)、豊前工場(福岡県)の3拠点に約300億円を投じ、「さらなる生産増強に向けた大規模な投資計画を構想している」とした。

6月21日、その「構想」の輪郭が見えた。今後5年で800億円規模を投じるという。差額の約500億円は、まだ正式決定前の案件を含む。方向は明確だ。NAND向け静電チャックの増産に加え、茅ヶ崎工場でのロジック半導体向けR&Dが新たな柱になる。

回路線幅1nm台のロジック半導体は、現時点ではまだ数世代先の技術だ。だがTOTOの読みはこうだろう。NANDメモリーで築いた顧客基盤と技術力を、次の成長領域に先行投資で転用する。NAND向け静電チャックで成功した収益構造を、ロジック半導体の製造装置向けAD部材で再現する。AD部材とは、セラミック微粒子を高速で基材に吹き付けて緻密な膜を形成し、装置内壁をプラズマ腐食から守る部品だ。

利益構造はすでに逆転している

2026年3月期の決算は、TOTOがすでに「トイレの会社」ではないことを数字で示した。

セラミック事業の売上高は674億円で前期比34%増。営業利益は289億円で同41.7%増、利益率は42.9%に達した。全社の営業利益537億円の過半をセラミック事業が稼ぎ出す構造になった。2021年3月期、同事業の売上は約200億円だった。4年で3倍以上に膨らんだ。

収益性の差は住宅設備と比べると鮮明だ。国内住設事業は売上4,796億円に対して営業利益202億円で利益率4.2%。セラミック事業の利益率はその10倍にあたる。

TOTOセグメント別業績(2026年3月期)
住設事業セラミック事業
売上高4,796億円674億円
営業利益202億円289億円
利益率4.2%42.9%
利益構成比38%54%
※ 利益構成比はセグメント営業利益÷全社営業利益537億円。残りはその他・海外住設

しかも半導体部材は消耗品で、一度納入した装置から年単位の交換需要が発生する。設備投資のサイクルに左右されにくい、粘り強い収益構造だ。

40年間の伏線

TOTOがファインセラミックスの研究に乗り出したのは1976年。事業部の設立は1984年。衛生陶器で100年磨いたセラミック焼成技術を、産業用途に転用しようとした。だが長い間、利益が出なかった。2010年代半ばまで低迷が続き、社内では「健全な赤字事業」と呼ばれていたという。

転機は2020年前後に訪れた。中津工場に約118億円を投じて第4棟を建設し、自動判定やリアルタイム監視を導入。製造リードタイムを従来の約3分の1に縮め、生産性を1.5倍に引き上げた。そこにAIブームが重なった。データセンター向けのNAND需要が急増し、静電チャックの注文が積み上がった。

TOTOセラミック事業 40年の歩み
1976年
ファインセラミックス研究開始
衛生陶器の技術を産業用途に応用する研究に着手
1984年
セラミック事業部設立
静電チャックの量産を1988年に開始。長期の低迷期へ
2020年
中津工場第4棟稼働
118億円投資。スマートファクトリー化で生産性1.5倍
2026年1月
GS「買い」格上げ
株価5,047円。静電チャックのNAND需要拡大を評価
2026年2月
パリサー・キャピタル介入
「最も過小評価されたAIメモリーの受益銘柄」と主張
2026年4月
通期決算発表・セラミック事業が利益の過半に
営業利益289億円(+41.7%)。決算翌日ストップ高
2026年6月
800億円投資計画
5年で800億円。1nm世代ロジック半導体向けR&Dも開始

静電チャックとは、半導体製造装置のチャンバー内でシリコンウェハーを電気的な力で固定する部品だ。プラズマが飛び交う過酷な環境で、1nmのちりも許されない。静電チャックのシェアは世界2位。主な供給先はラムリサーチ(Lam Research)で、3D NANDの微細加工に使う極低温のクライオエッチング装置に部材を納めている。3D NANDの積層数が増えるほどエッチング工程は過酷になり、静電チャックへの要求も上がる。高純度セラミックの耐久性で他社と差がつく領域だ。

株価は半年で6割上がった

市場はTOTOの変化を織り込み始めている。1月にゴールドマン・サックスが投資判断を「買い」に引き上げたとき、株価は5,047円だった。2月には英アクティビストのパリサー・キャピタルがTOTOを「最も過小評価されたAIメモリーの受益銘柄」と名指しし、セラミック事業の開示強化を求めた。株価は6,025円に跳ねた。6月19日の終値は8,390円。時価総額は約1兆4000億円。半年で6割上がった。

決算発表翌日の5月1日にはストップ高を記録。2027年3月期も全社営業利益600億円(前期比11.6%増)と過去最高の更新を見込む。セラミック事業が全社利益の6割を稼ぐ見通しだ。

800億円の先にあるもの

ただし、見える課題もある。

本業の住宅設備は厳しい。国内の新築着工は減少が続き、イラン情勢に端を発するナフサ高騰で原材料の調達が逼迫した。ユニットバスの受注を一時停止する事態にまで追い込まれている。中国事業は2025年3月期に340億円超の減損を計上し、いまだ赤字から抜け出せていない。

半導体市場そのものにもサイクルがある。AI向けメモリー需要がどこまで続くか、誰にも断言できない。セラミック事業は景気変動の影響を受けやすく、需要が一巡すればブレーキがかかる可能性は残る。

それでも、TOTOは800億円を張ろうとしている。NANDメモリーという「いまの市場」にとどまらず、ロジック半導体という「次の市場」に手を伸ばす。その判断が、TOTOの向かう先を示している。

40年間の赤字に耐えた事業が、いま全社利益の半分を支えている。その事業部が「次の40年」に向けて動き出した。日本の読者にとってTOTOはトイレの会社かもしれない。だが半導体サプライチェーンの深層では、TOTOはすでに違う名前で呼ばれている。

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