サムスン18日間ストの破壊力、メモリ不足は救えない
DRAM価格が前四半期比90%超の暴騰を続けるさなか、サムスン電子の労組が18日間の総ストを予告した。供給が数%欠けるだけで、すでに崩れた需給バランスにとどめを刺すという。
DRAM価格が前四半期比90%超の暴騰を続けるさなか、サムスン電子の労組が18日間の総ストを予告した。供給が数%欠けるだけで、すでに崩れた需給バランスにとどめを刺すという。
4万人が動いた、過去最大の規模
韓国・京畿道平沢のサムスン電子キャンパス前に、4万人の組合員が集結した。2024年7月、創社の1969年以来初めて行われた25日間のストでは参加人員が5,000人にとどまった。今回はその8倍の規模が見込まれている。サムスン労働組合共同闘争本部は、5月21日から6月7日までの18日間、半導体5事業所の生産ラインを停止すると宣言している。
韓国メディアのNews1とKB証券のレポートによれば、このストが現実のものになった場合、世界のDRAM供給は3〜4%、NAND供給は2〜3%減少する見通しだという。
数字だけ見れば「たった数%」だ。しかし、いまの半導体市場でこの数%がどれほど致命的かを理解するには、背景の文脈が必要になる。
なぜ「4%」が世界を揺らすのか
TrendForceの最新調査によれば、2026年第1四半期(1Q26)の従来型DRAM契約価格は前四半期比90〜95%上昇、NAND Flashも55〜60%上昇と、過去最高の伸び率を記録した。すでに需給は崩壊状態にある。
なぜここまで逼迫しているのか。AIインフラへの巨額投資が、ウェハーの取り合いを引き起こしている。HBM(高帯域幅メモリ)は1ギガバイトあたりDDR5の約3倍のウェハー容量を消費するため、メモリメーカー3社(サムスン、SKハイニックス、マイクロン)はHBM増産に容量を振り、汎用DRAMの生産が痩せ細っている。
この状況下で、サムスン1社の出荷が4%減ればどうなるか。価格爆発の決定的な触媒になる、というのがKB証券の見立てだ。KB証券リサーチ本部長の金東元(キム・ドンウォン)氏は「燃え盛る市場にガソリンを注ぐようなもの」と表現した。
5月のストが現実化すれば、メモリ生産障害による供給不足の深化と価格上昇圧力の拡大が予想される。
数値上は2〜4%の差でも、すでに供給不足の様相を帯びる市場では、価格高騰を増幅させる引き金になるという分析だ。
18日間止めても、復旧には2〜3週間
ストライキの怖さは、期間そのものより「再起動コスト」にある。半導体ファブは超高純度・無欠点の環境で稼働しており、一度ラインを止めると、もとに戻すまでが長い。
KB証券の分析を要約すると、復旧プロセスは以下のように進む。
クリーンルームと配管の復元。停止中に乱れたクリーンルームの清浄度や、化学物質の配管状態を原状に戻す必要がある。
装置の再校正。ナノ単位の工程を担う数百台の精密装置を一台ずつ原点合わせし、テストウェハーで正常動作を検証する。
ウェハー廃棄と歩留まり安定化。ライン内に放置されて汚染された既存ウェハーを廃棄し、目標歩留まりに到達するまで品質を引き上げる安定化期間が必要となる。
これらを合わせて、18日間のスト終了後にさらに2〜3週間。実質的に最大36日間の生産空白が生まれる計算になる。
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通常稼働
5月20日まで 総ストライキ
5月21日〜6月7日 ライン復旧
6月8日〜最大6月28日 合計空白
最大約36日間
5/20
5/30
6/9
6/19
6/28
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18日間のスト直後に数週間の復旧遅延が重なれば、世界的な半導体物量不足は避けがたい見通しだ。
サムスンの世界市場シェアはDRAMで36%、NANDで32%。世界メモリの3分の1以上がこの会社に依存している以上、内部の労使対立は外部世界の供給網を直接揺さぶる。
信頼の毀損は、4%より重い
業界関係者がより警戒しているのは、生産量よりも「信頼度」の毀損だ。News1の取材によれば、現状は供給が需要に追いつかない売り手市場のため、信頼問題は表面化しにくい。だが市場が需要優位に転じた瞬間、外面される側に立つ可能性があるという。
特に深刻なのがファウンドリ(委託生産)部門だ。サムスンのファウンドリ事業はビッグテック企業から完全な信頼をまだ得られていない。今回のスト騒動が間接的なクライアント離れを引き起こす懸念が業界では語られている。
23日夜の集会後、すでにラインは揺れた。労組の生産指標によれば、夜勤帯のウェハー搬送量はファウンドリ事業部で 58.1%減、器興(キフン)S1ラインで74.3%急減した。メモリ事業部は18.4%減と相対的に軽傷だったが、DRAM工程の落ち込み幅が大きかった。
労組はこれを根拠に、ストが現実化した場合の被害額を 20〜30兆ウォン (約2兆1,500億〜3兆2,300億円、約135〜203億ドル)と試算している。
受益者は競合、コストを払うのは消費者
このストで誰が得をするかは、もう見えている。SKハイニックスとマイクロンだ。供給ギャップが広がれば広がるほど、両社は値上げの正当性を手にする。
SKハイニックスは2025年第1四半期に33年ぶりにサムスンからDRAM売上首位を奪い、AIメモリ市場の主役として一気に存在感を高めた。サムスンは2025年第4四半期に首位を奪還したものの、HBM分野ではいまだSKハイニックスの後塵を拝している。今回のストは、この激しいシェア攻防の天秤をさらにSKハイニックス側へ傾けかねない要素になる。
しかし最終的にコストを払うのは、データセンターを建てる企業だけではない。スマートフォンやノートPCを買う一般消費者にも、価格転嫁が押し寄せる。TrendForceの分析では、メモリ価格高騰を受けてスマートフォンとノートPCのブランドはすでに製品価格の引き上げと仕様の引き下げを迫られている。今回のストはこの圧力をさらに強める方向にしか働かない。
なぜ労組はここまで強硬なのか
労組の要求は明確だ。営業利益の15%を成果給として配分すること、成果給上限制を廃止することの2点が中心にある。サムスン電子の今年の営業利益見通しは300兆ウォン規模で、要求が満額通れば 45兆ウォン (約4兆8,500億円)の支払いになる。
崔承浩(チェ・スンホ)初企業労組サムスン電子支部長は4月17日の記者会見で「会社が毎月稼ぐ営業利益は約30兆ウォン、年間平均300〜310兆ウォン」と指摘し、「18日間のストを通せば1日約1兆ウォン、計20〜30兆ウォンの損失」と警告した。会社の月次利益規模を引き合いに、ストの経済インパクトを可視化した発言だ。
労組が反発の根拠としているのは、AI半導体ブームでサムスンが過去最高益を更新し続けるなか、エンジニアへの還元が見合っていないという認識だ。経営陣の不誠実な対応への不満も強い。崔支部長は「制度改善のため4万人の組合員が直接行動に出た」とし、「今後の総ストの過程で非協力的な態度を見せれば、もはや同僚と見なすのは難しい」と強硬姿勢を示した。
会社側が4月23日の集会前に呈示した一時金提案は、労組から「一時的な補償で状況を糊塗するもの」と一蹴された。労使交渉は4月末時点で平行線をたどっている。
「2024年とは次元が違う」
業界が固唾を飲んで見守るのは、今回が前回ストとは比較にならない規模だからだ。2024年の参加者は組合員全体の15%にあたる5,000人にとどまり、代替勤務で生産影響を抑え込めた。
今回はそうはいかない。労組推計の参加見込みは3〜4万人、組合員全体の30〜40%に相当する。サムスン電子の国内従業員12万8,800人のうち約31%が結集する計算で、代替人員での穴埋めが極めて困難な水準になる。
5月21日に始まる予定のストの初日、労組は李在鎔(イ・ジェヨン)会長の自宅前で集会を開く許可を所轄警察署から得ている。集会届出人数は約50人と小規模だが、象徴的な行動として注目を集めるのは確実だ。
| 項目 | 2024年7月 (初回スト) |
2026年5月 (予告) |
|---|---|---|
| スト期間 | 25日間 | 18日間 |
| 参加人数 | 約5,000人 | 3〜4万人 |
| 組合員参加率 | 約15% | 30〜40% |
| 想定生産影響 | 限定的 (代替勤務で吸収) |
DRAM 3〜4%減 NAND 2〜3%減 |
| 推定損失額 | — | 20〜30兆ウォン |
世界の半導体産業は、AIの強欲な需要に振り回されている。HBMがDDR5の3倍のウェハーを食い、PC向けDRAMが痩せ細り、SSD価格が跳ね上がる。そこに追い討ちをかけるように、世界シェア3分の1超を握るサムスンの内側で、エンジニアたちが「もう待てない」と立ち上がった。
成果配分の歪みが供給網を揺らし、その揺れが世界中の最終製品価格を押し上げる。労使の問題が一企業の枠を超え、地球規模のテックインフラの基盤を揺さぶる時代になった。
5月21日まで、残り1ヶ月足らず。交渉の余地はまだある。だが、4万人の意志が固まったとき、止められる人間は社内にいるだろうか。
参照元
他参照