英Ofcom、Telegramを正式調査 児童虐待で遮断も
英通信規制当局Ofcom(オフコム)が、メッセージングアプリTelegramをオンライン安全法違反で正式調査する。ドバイ拠点のTelegramは「全面否定」と反発し、プラットフォーム対規制当局の正面衝突が始まった。
Ofcomが動いた理由は「カナダから届いた証拠」
今回の調査は、カナダ児童保護センター(Canadian Centre for Child Protection)から寄せられた児童性的虐待コンテンツ(CSAM)に関する証拠が直接のきっかけになっている。Ofcomは証拠を受け取った後、独自にプラットフォームを評価したうえで、Telegramが違法コンテンツに関する義務を履行しているか調査する決定を下したという。
注目すべきはOfcomの動き方だ。英オンライン安全法(2023年制定、2025年3月に義務が発効)に基づく執行が、すでに単発の警告から体系的な摘発フェーズへと移行している。今年に入ってからだけでも、OfcomはX(旧Twitter)のGrokによる児童性的画像生成疑惑を調査し、複数のファイル共有サービスにハッシュ照合技術の導入を迫ってきた。Telegramはその延長線上にある。
Ofcomで執行を統括するスーザン・ケイター(Suzanne Cater)氏は声明で、「児童性的搾取と虐待は被害者に壊滅的な害をもたらす」と述べ、「これらの企業は子どもたちを守るためにさらに行動しなければならない。さもなくばオンライン安全法の下で深刻な結果に直面する」と警告した。
Telegramの反論は「表現の自由への攻撃」
興味深いのは、Telegramの即座の反応だ。同社はOfcomの指摘を「カテゴリカルに否定する」としたうえで、検出アルゴリズムの導入成果をこう強調した。
since 2018 it had "virtually eliminated" the public spread of child sexual abuse material(2018年以降、児童性的虐待コンテンツの公開拡散を事実上排除してきた)
さらに踏み込んで、同社はこう付け加えた。
この調査には驚いている。表現の自由とプライバシーの権利を守るオンラインプラットフォームに対する、より広範な攻撃の一部ではないかと懸念している。
規制を政治化する反論がここにある。そしてこの反論は一枚岩の防御ではない。Telegramは2025年2月にも、オーストラリアのオンライン安全規制当局から、児童虐待・暴力的過激主義コンテンツ対策に関する質問への回答遅延を理由に約1億円の罰金を科されている。創業者パーヴェル・ドゥーロフ(Pavel Durov)氏が2024年夏にフランスで司法手続きを受けた件も含め、同社は複数の西側当局と同時進行の摩擦を抱えている。ドゥーロフ氏はその後、CSAM対策団体IWF(Internet Watch Foundation)への加入など、規制側への歩み寄りを見せているものの、Ofcomの今回の判断はそれでも不十分との評価に立つ。
Teen ChatとChat Avenueも同時摘発
今回の発表ではTelegramの陰に隠れがちだが、Ofcomは同時にTeen ChatとChat Avenueという2つの十代向けチャットサービスへの調査も開始している。こちらは児童を狙ったグルーミング(性的誘引)のリスクが論点だ。
Ofcomはすでに両社の運営者と協議していたが、「英国の児童をグルーミングのリスクから適切に保護しているか不満足のまま」残ったため、正式調査に踏み切ったと説明している。Chat Avenueについては、児童が児童ポルノを含む有害コンテンツに遭遇するのを防ぐ措置についても精査される。
大手1社と無名2社の同時摘発は、Ofcomが「規模に関係なく等しく執行する」という姿勢を示すためのものだ。過去にはファイル共有サービスYolobitが英国でのサービスを自主停止することで調査を終了させており、中小事業者が先に撤退を選ぶ流れができつつある。
| Telegram | Teen Chat | Chat Avenue | |
|---|---|---|---|
| 運営規模 | 大手 | 小規模 | 小規模 |
| 拠点 | ドバイ(UAE) | 未特定 | 未特定 |
| 調査の論点 | CSAM拡散 | 児童グルーミング | グルーミング・ポルノ |
| 発端となった証拠 | カナダ児童保護センターの報告 | 事前協議で不満足 | 事前協議で不満足 |
| 会社側の反応 | 全面否定・反発 | 未表明 | 未表明 |
罰金は「全世界売上の10%」、最終手段は英国からの遮断
Ofcomが行使できる権限の実際の強さを整理しておく。オンライン安全法違反が認定された場合、同庁は以下を実行できる。
- コンプライアンス義務の具体的な履行を命令
- 1800万ポンド(約38億円)または全世界売上の10%のいずれか高い方を罰金として賦課
- 最悪の場合、裁判所に「事業妨害措置」を申し立て、決済事業者や広告主にサービス提供停止を命じさせる、あるいはISPに英国内でのサイトブロックを命じさせる
つまり理論上、TelegramがOfcomの命令を無視し続ければ、英国内でアプリが遮断される可能性がある。10%という数字は抽象的に見えるが、Telegramのような非上場企業にとっても、収益基盤の一割を失う重みは小さくない。
Ofcomの調査は、最初に証拠を収集・分析して違反の有無を判定する段階から始まる。違反が疑われる場合は暫定決定を企業に通知し、企業側には法律で定められた反論の機会が与えられる。その後に最終決定が下される。
このプロセスは数カ月から1年以上かかることも多い。とはいえ、Telegram側がすでに正面から否認している現状を見る限り、対話による早期決着は望み薄に見える。
英国モデルは「ブリュッセル効果」を再現するか
この件の含意は、英国一国にとどまらない。EUにはデジタルサービス法(DSA)があり、オーストラリアにもオンライン安全法がある。これらの規制が連動して動き出したとき、国境のないメッセージングプラットフォームは、最も厳しい法域に合わせるしかなくなる。いわゆる「ブリュッセル効果」の英国版が今、形を取ろうとしている。
Telegramの反論のうち「表現の自由への攻撃」という部分は、単なる広報メッセージではなく、プライバシー重視の構造的ジレンマを言い当てている側面もある。公開グループやチャンネルを持つメッセージングサービスは、誰でも入れる開放性と、違法コンテンツを能動的に検出する監視の間で、常に綱渡りを強いられる。Telegramのように「検閲されないプラットフォーム」を売りにしてきた企業にとって、この緊張関係をどう解くかは、規制当局との対話の核心になる。
調査の行方は当分見えない。しかし少なくとも一つ確かなのは、英国はもう「警告のフェーズ」を終えたということだ。
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