PSN、UKとアイルランドで年齢認証を6月必須化
ボイスチャットもメッセージも、顔か身分証を差し出さなければ使えなくなる。ソニーが英国とアイルランドのPSNユーザーへ通知を始めた。作成から18年を超えるアカウントでも例外はない。
「コミュニケーション機能を使いたければ、年齢を証明せよ」
現在、英国とアイルランドに登録されたPSNアカウントに、PlayStation Storeから通知が送られている。文面は、グローバル規制への対応としてメッセージやボイスチャットなどコミュニケーション機能を引き続き使うには年内の年齢確認が必要、という趣旨だ。
画面にはQRコードが表示され、スマホで読み取るとソニーの年齢認証フローに進む。認証方法は3つ用意されている。セルフィーを撮って顔から年齢を推定する方式、パスポート・運転免許などIDをスキャンする方式、携帯番号と契約情報の照合による方式。どれも面倒ではないが、どれも「誰かに顔かIDか電話契約情報を渡す」ことから逃げられない。
| セルフィー | ID書類 | 携帯番号 | |
|---|---|---|---|
| 提出物 | 顔写真 | パスポート・ 運転免許・ID |
携帯契約情報と SMS認証コード |
| 判定方式 | AIによる顔年齢 推定 |
書類の真贋確認と 生年月日照合 |
通信事業者の 契約者情報と 名義照合 |
| 所要時間 | 未公表 | 3〜6分 | 未公表 |
| データ扱い | 顔ジオメトリは 認証完了後 即時削除 |
書類画像から 生年月日抽出 |
通信事業者側と 照合・保存なし |
| 処理業者 | 第三者事業者 Yoti(英国) | ||
ソニー公式FAQによれば、この年齢確認が必須になるのは 2026年6月 から。それまでに未完了のアカウントは、以下の機能が段階的に使えなくなる。
コンソール・PS App・ウェブ上でのメッセージ機能、ボイスチャット、テキストチャット、パーティーやグループセッションへの参加、Discord連携によるボイスチャット、YouTubeやTwitchへのブロードキャスト配信
ゲームのプレイ、トロフィーの取得、PS Storeでの購入は引き続き可能だ。つまりソニーは「遊ぶ自由は奪わない。ただし他人と話す自由は年齢証明と交換だ」と線を引いている。
| 機能 | 未認証 | 認証済み |
|---|---|---|
| ゲームプレイ(シングル/オンライン) | ○ | ○ |
| PS Storeでの購入 | ○ | ○ |
| トロフィー取得 | ○ | ○ |
| テキスト・ボイスチャット | × | ○ |
| パーティー・グループセッション参加 | × | ○ |
| PS App・ウェブでのメッセージ | × | ○ |
| Discordでのボイスチャット | × | ○ |
| YouTube・Twitchへの配信 | × | ○ |
| ゲーム内のチャット・UGC機能 | × | ○ |
認証を担うYotiは、先月GDPR違反で95万ユーロの制裁金を受けた
この年齢認証を実際に処理するのは、ソニー自身ではない。FAQには サードパーティ事業者のYoti が明記されている。2014年にロンドンで設立されたデジタルID企業で、InstagramやOpenAI、そして既に同様の年齢認証を導入済みのXboxでも採用されている。この業界のデファクトスタンダードに近い存在と言ってよい。
ただし、Yotiが先月何をされたかは見逃せない。2026年3月10日、スペインのデータ保護当局(AEPD)がYotiに対し、EUのGDPR違反3件で総額95万ユーロ(約1億7700万円)の制裁金を科した。内訳は、アカウント設定時の顔認証を特別カテゴリーデータとして処理する法的根拠を欠いていたこと、研究開発用途へのデータ利用同意を事前チェック欄で取得していたこと、生体テンプレートを無期限・地理位置データを5年など過剰に保持していたこと。対象は「Yoti Digital ID」アプリの運用に限定されており、Yoti自身はクライアント向けの年齢認証処理には及ばないと主張してスペイン高等裁判所に控訴中だ。
プライバシー保護を看板にしてきた企業が、プライバシー違反 で罰されている。ソニーが採用しているのはYoti社のAVSサービスであり、制裁対象のDigital IDアプリとは別系統だという理屈は成り立つ。ただしどちらもYotiという同じ組織が運営しており、プロセス設計の思想を共有している。
Xboxの先行事例で、何が起きていたか
マイクロソフトはソニーに半年以上先んじてこの施策を展開している。2025年7月、Xbox公式は、UKオンライン安全法への対応として18歳以上と登録されているUKのマイクロソフトアカウントに年齢認証の通知を始めると発表した。本格的な必須化は2026年初頭からで、年齢を認証しない限りボイスチャットとテキスト通信、ゲーム招待、パーティ機能はフレンドに限定される。
施行後の実態はどうだったか。2026年2月の報道では、年齢認証エラーでUKのXboxユーザーがアカウントから強制ログアウトされる事例が複数報告された。Helldivers 2のマルチプレイ中にマルチプレイ通信が利用不可になる警告が出て、セルフィー送信も携帯番号認証も通らない——そんな投稿がRedditに並んだ。マイクロソフトはサポートサイトで不具合を認めている。
PSNが2026年6月に必須化を迎えるとき、同じ認証業者を使う以上、類似のトラブル が起きる可能性は低くない。いま英語圏で起きていることは、数ヶ月先の予告編だと思っておいたほうがいい。
「子どもの保護」と、成人アカウントの違和感
今回の措置の根拠はUKのOnline Safety Act 2023と、アイルランドのOnline Safety Codeだ。前者は2025年7月25日に本格施行され、ポルノ、自傷、自殺、摂食障害関連コンテンツへのアクセスを制限する「高効果な年齢保証」を運営者に義務付けている。違反時の制裁は全世界売上の10%まで。規制当局のOfcomは2026年初時点で90以上のプラットフォーム調査を抱え、アダルトサイト運営者の8579 LLCに過去最高額の135万ポンド(約2億8500万円)の制裁金を科すなど、執行のペースは落ちていない。
問題は、法律の対象が当初想定されていたポルノサイトをはるかに超えて広がっていることだ。Spotifyは英国ユーザーに対し18+タグの音楽ビデオや歌詞を見るために年齢認証を要求するようになった。Redditはハードサイダーと葉巻の掲示板へのアクセスに年齢認証を要求している。そして今回はPSNが続く。
「子どもを守る」という立法趣旨に対し、成人の日常動作が次々と年齢ゲートの向こう側に移動していく。対象の選定は、法律そのものではなく、各プラットフォームのリスク判断に委ねられているため、萎縮の方向に広がりやすい。
PushSquareのコメント欄は、戸惑いと皮肉 で埋まっている。18年以上PSNを使い、Zレーティングのゲームを何本も買ってきたユーザーが、「なぜ今さら成人であることを証明しろと言われるのか」と書き込む。アイルランドのユーザーからは「アイルランドはUKとは別の国なのに、なぜ一緒に巻き込まれるのか」という投稿もある。実際、アイルランドは2026年後半にEU議長国就任を控え、独自のオンライン安全法制を進めている最中だ。ソニーは両国をまとめて対象にするほうが実装上合理的だと判断したのだろうが、現地ユーザーから見れば「別の国の法律で自分のアカウントが制限される」という理不尽さは残る。
法が、データ集中ポイントを作り出している
今回の構造を一歩引いて眺めると、妙な形が見えてくる。法の目的は「子どもを守る」こと。そのための手段として「プラットフォームに年齢検証を義務付ける」ことが採用された。結果として、膨大な生体データ を処理する少数の第三者事業者へ、検証プロセスが集中していく。
Yotiが仮に完璧なセキュリティを維持したとしても、スペインDPAが問題視したのは技術的侵害ではなく「同意の取り方」と「保持期間」だった。プロセスの問題だ。プロセスの問題は、規模が大きくなるほど検出と是正が難しくなる。
セキュリティの議論はよく「ハッキングされるかどうか」で語られるが、実際の事故の多くはもっと手前、運用ルールの逸脱や同意取得の不備で起きる。そこは外部から監査しにくく、ユーザーからも見えにくい。
PSNのユーザーが「18年使ったアカウントに今さら顔を差し出すのか」と憤るのは、感情の問題でもあるが、同時に構造の問題でもある。ソニーが顔データを「保持しない」と明言していても、実際の処理はYotiで行われ、そこから先は規制当局の目が届きにくい。ソニー自身はYotiから年齢確認の「結果のみ」を受け取ると説明しているが、ユーザーの不安の本丸は「ソニーが持つかどうか」ではなく「そのデータが通過する場所がどれだけ信頼できるか」にある。
回避策と、その限界
認証を回避したい成人ユーザーには、いくつかの選択肢が残されている。第一は単純に「認証しない」こと。ゲームプレイとストア利用は維持される。多くのユーザーにとって、PSNのボイスチャットやメッセージは既にDiscord等の外部ツールに置き換えられており、「コミュニケーション機能を失う」という制裁の実効性そのものが薄い層も少なくない。
第二は携帯番号認証。ただし携帯電話事業者の契約者情報と本人情報を照合する仕組みのため、プリペイド契約や家族プラン利用者では通らない可能性がある。
第三はVPNだが、VPN利用はマイクロソフトやソニーの利用規約に抵触する可能性があるため、本格的に推奨できる手段ではない。結局のところ、どの選択肢にも「何かを差し出す」か「何かを諦める」かの二択が残る。
世界への波及と、次の一手
PlayStationは今回のFAQで、対象を「UKおよびアイルランド」と明示している。ただしソニーが今後この仕組みを維持するなら、他の規制地域への展開は技術的には容易だ。マイクロソフトは既に「UKプロセスから学び、他地域での展開を検討する」と述べている。
Online Safety Actの波は 越境しつつある。オーストラリアは16歳未満のSNS利用を禁じる法案を進め、アイルランドは政府製デジタルウォレットを年齢認証の基盤とする構想を進めている。EUはアイルランドが2026年後半に議長国を務める間、この議論を域内全体に広げる公算が高い。米国でも複数の州で類似法案が進んでいる。
日本ではまだこうした法制は議論の途上だが、プラットフォームの仕組み自体が世界共通化されていけば、いずれ同じQRコードが国内のPS5画面にも表示される日が来るかもしれない。そのとき、2026年春に英国で何が起きたかを覚えておく価値はある。子どもを守るための法律が、大人を「顔かIDを差し出さなければ話せない」状態に追い込み、その処理を少数の事業者に集中させたという事実を。
法の意図と、実装の帰結は、いつも一致するとは限らない。
参照元
- Push Square - PS5 Age Verification Coming to UK and Ireland
- PlayStation公式 - Age verification FAQ (Ireland)
他参照
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