元FSR責任者、AMDのRDNA封印にミームで沈黙
FSR 4のINT8版がなぜ旧世代GPUに正式提供されないのか。開発を率いた張本人がミームで返し、矛先を経営陣に向けた。動くコードは既にある。足りないのは、ひとつの判断だけだ。
FSR 4のINT8版がなぜ旧世代GPUに正式提供されないのか。開発を率いた張本人がミームで返し、矛先を経営陣に向けた。動くコードは既にある。足りないのは、ひとつの判断だけだ。
エンジニアではなく経営陣、と名指しされたAMD
AMDのアップスケーリング技術FSR 4を開発時に率いたコリン・ライリー(Colin Riley)が、旧世代GPUへの提供を拒む理由について沈黙を貫いている。直接の質問に対し、ジョゼ・モウリーニョが記者会見で放った「話せば大変なことに」のミームGIFを返したのだ。それも文字通り、言葉を一切添えずに。
— Colin Riley 🎗 (@domipheus) April 22, 2026
ライリーは現在JECOのCTOを務めるが、AMD在籍時はFSR 2・FSR 3・FSR 4をすべて出荷まで導いた中核人物だ。在籍は約9年におよび、退職は2025年4月。その人物がAMDのINT8版FSR 4の扱いについて「話せない」と明言したことが、今回の騒動の熱源になっている。
発端は2026年4月22日のXでのやり取りだった。あるユーザーが「なぜAMDはRDNA 2/3ユーザー向けのFSR INT8を塩漬けにしているのか?」と問いかけた。ライリーの答えは、チェルシー時代のモウリーニョが審判への不満を飲み込んで黙り込んだ、あの会見のGIFだった。
I prefer not to speak. If I speak, I am in BIG trouble. (何も言いたくない。話せば、大変なことになる)
言葉ではなく沈黙を選んだ。その沈黙は、AMDに何らかの「言えない事情」があることを裏付けているに等しい。
「誤公開」から始まった一年越しの不自然さ
FSR 4は機械学習ベースのアップスケーラーで、現時点では最新のRDNA 4(Radeon RX 9000シリーズ)でのみ公式に動作する。RDNA 4のFP8(8ビット浮動小数点)フォーマットに最適化されているためだ。
ところが、AMD自身がGPUOpenのGitHubリポジトリに、旧世代GPU向けと見られるINT8版FSR 4のソースコードをうっかり公開してしまった時期がある。FidelityFX SDKに混入する形で流出し、すぐに取り下げられたものの、コミュニティが先にDLLをコンパイル。OptiScalerというアップスケーラー置換ツールに取り込まれ、RX 6000・RX 7000シリーズで現に動く状態が一年近く続いている。
つまり、技術的には動く。AMD自身のコードで動く。それなのに公式リリースは出ない。ここに違和感がある。
リーダーシップへの名指し
ライリーはミームを投げただけで去ったわけではない。別の投稿では具体的に矛先を向けている。
It's not the engineers: its leadership not understanding software, ecosystems, mindshare and gaming technologies. (エンジニアのせいじゃない。ソフトウェア、エコシステム、マインドシェア、ゲーミング技術を理解していない経営陣の話だ)
これがAMDの初歩的な問題であり、変わる気配もないと付け加えた。在籍中にFSR 4を送り出した当人が、退職後にこの書き方をする意味は重い。陰謀論ではなく、内部構造の告発に近い。
広く流れている推測はふたつある。ひとつはRDNA 4を売りたいがための囲い込み。もうひとつはソニーとのPS5 Pro向け独占契約の存在だ。後者には一定の傍証があり、AMDコンピューティング&グラフィックス部門SVPのJack Huynhは、FSR 4.1についてPS5 Proの強化版PSSRと同じニューラルネットワーク基盤で構築されていると公言している。
ただし、ライリーが名指ししたのは契約ではなく「経営陣の理解不足」だ。陰謀というより、意思決定の怠慢を指している。そのほうが救いがない。
要するに、コードは動く。AMD自身がリポジトリにうっかり上げたコードが、旧世代GPUで実用レベルで動いている。足りないのは技術ではなく、リリースするという経営判断ひとつだ。
動くのに出さない、という空白
コミュニティ側はもう待っていない。OptiScalerとコミュニティビルドのDLLの組み合わせで、RDNA 2/3でのFSR 4動作は実用段階に入った。RDNA 2での動作確認はすでに数百タイトル規模に達し、最新のOptiScalerビルドではRDNA 2向けの性能最適化も進んでいる。
それでもFSR 3.1と比べて一〜二割の性能低下は残る。RDNA 4が持つ行列演算アクセラレータ(WMMA命令)を旧世代が持たないため、代替となるDP4a命令でオーバーヘッドが生じるからだ。INT8版はそのコストを織り込んだうえで設計されたはずのもので、画質面ではFSR 3.1を明確に上回る、という検証結果が積み上がっている。
つまり、欲しいユーザーがいて、動く実装があり、画質向上の実績もある。欠けているのはAMDの「出す」というひとつの判断だけだ。ライリーのミームが刺さるのは、その空白に元責任者の沈黙が重なるからだ。
沈黙の重さ
AMDはこれまでにも「最終的には正しいことをする」という評価を得てきた企業だ。GPUドライバの改善にしろ、オープンソースへの貢献にしろ、時間はかかっても形になる。そう考えればINT8版FSR 4の公式化もいずれ来る可能性はある。
ただ、今回のケースで不気味なのは、沈黙の担い手がライリーであることだ。彼が何も知らない人物なら、黙っていても意味はない。すべてを知る人物が黙るからこそ、そこに穴がある。
ミームひとつで業界が揺れるのは滑稽だが、笑えないのはその滑稽さを招いたのがAMD自身だという点だ。動くコードを持っていて、動く証拠がコミュニティにある。それでも出さない理由を、在籍していたリード開発者が「話したら大変なことになる」と表現せざるを得ない構造。そこにあるのは技術の限界ではない。
動く実装を前にして、何をためらっているのか。答えを知っている人はもう社外にいて、口を閉ざしている。
参照元
他参照
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