Windows 11 KB5121003でゲームがクラッシュ。原因は10年前のカーネルドライバー
Windows 11の8月更新プログラムKB5121003をインストールしたPCで、複数のゲームがクラッシュ・強制再起動する問題が広がっている。開発元が原因を特定し、配信から8日後にMicrosoftも調査を開始した。
Windows 11の8月更新プログラムKB5121003をインストールしたPCで、複数のゲームがクラッシュ・強制再起動する問題が広がっている。開発元が原因を特定し、配信から8日後にMicrosoftも調査を開始した。
400件超のセキュリティ修正が、ゲームを壊した
8月11日に配信されたWindows 11の月例更新プログラムKB5121003は、400件を超えるセキュリティ脆弱性を修正する大型パッチだった。対象は25H2(Build 26200.9168)と24H2(Build 26100.9168)の両方。通常であれば、適用して終わりの更新だ。
ところが配信直後から、PCゲーマーの間で異変が相次いだ。ゲームが突然フリーズする。予告なしにデスクトップに戻る。EXCEPTION_ACCESS_VIOLATIONのエラーが表示される。最悪の場合、PC自体が警告なく再起動する。
報告が集中したのは3タイトルだ。Embark Studios(ネクソン子会社)が開発するARC RaidersとTHE FINALS、そしてアークシステムワークス開発の対戦格闘ゲームMARVEL Tōkon: Fighting Souls(マーベル闘魂)。いずれもPC版で、KB5121003の適用後に症状が出始めた。
開発元が突き止めた犯人
Embark Studiosは自社タイトル2本で起きているクラッシュについて、原因を特定した。Discordに投稿した声明で、問題の核心を1つのファイル名に絞り込んでいる。
inpoutx64.sys。
このファイルはInpOut32/InpOut64という、10年以上前に開発されたオープンソースのカーネルドライバーだ。本来の用途は、パラレルポートやシリアルポートといった旧式のハードウェアI/Oポートへ、ユーザーモードのプログラムから直接アクセスすること。現在では、RGB照明の制御ソフト(OpenRGBなど)、マザーボード付属のユーティリティ、Razer製ソフトウェアの一部がこのドライバーを利用している。
つまり、ゲーム自体がinpoutx64.sysを使っているわけではない。PCにインストールされた周辺機器のソフトウェアが、知らないうちにこのドライバーを入れていることがある。ゲームが落ちるのに、原因がゲームでもWindows Updateでもなく、キーボードのバックライト制御ソフトだった、という構造だ。
なぜ今まで動いていたものが壊れたのか
KB5121003が修正した400件超のセキュリティ脆弱性の中に、カーネルレベルのハンドル検証を厳格化する変更が含まれていたとみられている。セキュリティの観点では正しい変更だ。
inpoutx64.sysは、カーネルモード(Ring 0)でハードウェアのI/Oポートに直接読み書きできる。この能力はセキュリティリサーチャーの間では以前から問題視されており、LOLDrivers(脆弱なドライバーのデータベース)にも特権昇格の脆弱性を持つドライバーとして登録されている。低い権限のプログラムからでもI/Oポートに書き込めてしまうため、悪用されれば任意のデータをディスクの最下層に書き込んだり、システムの保護を迂回したりできる。
10年前のドライバーが、当時は問題なく通過していたカーネルの検証を、今回の厳格化で通過できなくなった。結果としてメモリアクセス違反が発生し、ドライバーを読み込んだプロセスごとクラッシュする。ゲームが巻き込まれたのは、このドライバーがカーネル空間に常駐していたからだ。
Microsoftの対応は配信から8日後
問題の報告が広がり始めたのは8月11日の配信直後。Embark Studiosが原因を公表し回避策を示したのは、それから数日後のことだった。
Microsoftが公式にこの問題を認めたのは、現地時間8月19日。配信から8日後だ。Windows Release Health(既知の問題を公開するページ)に掲載された公式の記述は、こう述べている。
Microsoftは、ゲームが期待通りに実行できない問題の報告を受けている。これがMicrosoftに起因する問題であるかどうか、現在調査中である。詳しい情報が分かり次第、更新を提供する
開発元がドライバー名まで特定し、更新の適用前後で挙動が明確に変わるにもかかわらず、Microsoftの表現は「Microsoftに起因するかどうか調査中」にとどまった。セキュリティパッチがサードパーティのカーネルドライバーとの互換性を壊した場合、責任の所在がどちらにあるかは一概に言えない。ただ、影響を受けたユーザーからすれば、Windows Updateを適用しただけでゲームが動かなくなった事実は変わらない。
8月11日 KB5121003配信 400件超のセキュリティ修正を含む月例更新。配信直後からゲームのクラッシュ報告が相次ぐ 数日後 Embark Studios 原因特定 inpoutx64.sysとの衝突を公表し回避策を提供 8月19日 Microsoft 調査開始 「Microsoftに起因するか調査中」と公式に記載。配信から8日後の対応 |
回避策:更新を消す前にやるべきこと
KB5121003をアンインストールすれば症状は収まるが、400件超のセキュリティ修正もすべて失われる。Embark Studiosが示した手順は、問題のドライバーだけを取り除く方法だ。
管理者権限でコマンドプロンプトを開き、sc stop inpoutx64でサービスを停止した後、sc delete inpoutx64でサービスを削除する。C:\Windows\System32\drivers\inpoutx64.sysが残っていれば手動で削除し、PCを再起動する。
ただし、このドライバーを削除すると、ドライバーをインストールしたソフトウェアの一部機能が動かなくなる可能性がある。RGB照明の制御やファンの回転数設定、マザーボードのモニタリング機能などだ。ノートPCでは、メーカー独自のパフォーマンス管理ユーティリティがこのドライバーに依存している場合もあり、削除前に何がinpoutx64.sysをインストールしたのか確認しておくほうがよい。
そもそもinpoutx64.sysが自分のPCに入っているかどうかは、エクスプローラーでC:\Windows\System32\drivers\inpoutx64.sysの有無を確認すればわかる。
ファイルが存在しなければ影響は受けない。
セキュリティ修正 vs 互換性
セキュリティを上げれば、古い仕組みが壊れる。Windows Updateが繰り返し直面する問題が、今回もそのまま起きた。
KB5121003は400件超の脆弱性を塞ぐ重要なパッチだ。その中には、積極的に悪用されていたゼロデイ脆弱性の修正も含まれるとされる。カーネルハンドルの検証厳格化も、セキュリティ上は歓迎すべき変更だ。脆弱なドライバーが排除されるのは、本来あるべき方向でもある。
問題は、10年以上にわたって広く使われてきたドライバーが、事前の告知なく動作しなくなったことにある。影響を受けるのは、自分でinpoutx64.sysをインストールした覚えのないユーザーが大半だ。RGB照明ソフトやハードウェアモニタリングツールが、裏側でこのドライバーを入れている。
Microsoftがいつ修正を出すか、あるいはEmbark Studiosが恒久対策を施すかは、まだ見えていない。Microsoftの公式ステータスは「調査中」のまま、具体的な時期の言及はない。
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