米司法省がW杯違法配信サイト約400件を一斉押収。4年前の5倍規模
ワールドカップの試合を無料で観られるサイトを探すと、そのほとんどにマルウェアが仕込まれている。米司法省は現地時間6月26日、2026年FIFAワールドカップの試合を無許可で配信していた約400のドメインを押収したと発表した。違法配信サイトの92%に悪意あるコンテンツが含まれていたという調査結果がある。「タダで観る」代償は、視聴者自身の端末と個人情報だ。
「オペレーション・オフサイズ」が動いた
「オペレーション・オフサイズ」と名付けられたこの作戦は、国家知的財産権調整センター(IPRセンター)と国土安全保障捜査局(HSI)が主導した。バージニア州東部地区連邦地裁の令状に基づいて執行され、FIFAが侵害ドメインを特定。beINメディア・グループ、NBCユニバーサル、映画協会傘下のACE(Alliance for Creativity and Entertainment)、UFC、ワーナー・ブラザースが補足情報を提供している。

違法配信のサーバーはペルーとブルガリアで確認された。クロアチア、ルーマニア、ポーランド、コロンビアの各国当局も連携して関連ドメインの摘発に動いている。ブラジルとルーマニアに駐在する米国検察官が、国際的なコンピュータハッキング・知的財産権(ICHIP)ネットワークを通じて現地の作戦を支援している。
この作戦は2022年のカタールW杯でも実施されたが、当時の押収数は78件だった。今回はその約5倍。規模が跳ね上がった背景には、大会の開催地が米国・カナダ・メキシコの3カ国になり、米国の管轄権がカタール大会時より格段に強くなったことがある。48カ国・全104試合という大会自体の拡大も、違法配信の市場を広げた。
押収しても追いつかない現実
ドメイン押収には構造的な限界がある。違法配信の運営者はドメインの使い捨てを前提にしており、一つが潰されれば即座にバックアップのアドレスへトラフィックを迂回させる。そのため当局は数百のドメインを同時に叩く手法を採るが、それでも完全な遮断にはならない。
ベトナムでは著作権保護を担当する法律事務所が、グループステージの48試合だけで約1,000の侵害ドメインと7,300の侵害URLを確認した。SNS上では違法配信URLが1,000件以上、ハイライトの著作権侵害URLが3,000件以上にのぼり、侵害アプリも30以上特定されたと報告している。メキシコでも開幕戦だけで57の違法配信アドレスがブロックされた。
チェック・ポイント・リサーチの調査によれば、2026年4月だけで「FIFA」や「ワールドカップ」を含む新規ドメインが9,741件登録された。2022年カタール大会のピーク時の5倍を超える数字で、5月上旬の時点で41件に1件が悪意あるドメインと確認されている。配信サイトに限らない。偽チケット販売や偽グッズストア、偽ビザ申請サイトも加えると、Intel 471が確認したFIFA関連の悪質ドメインは1万9,000件を超えている。
本当の脅威はマルウェアにある
違法配信サイトの問題は、著作権侵害だけではない。
セキュリティ企業ウェブルート(Webroot)が2021年に実施した調査では、違法スポーツ配信サイトの92%に何らかの悪意あるコンテンツが含まれていた。暗号通貨詐欺へ誘導する偽広告、ブラウザを乗っ取るハイジャッカー、偽のモバイルアプリ。調査対象は20サイトと限定的だったが、ほぼすべてが汚染されていた。無料の配信サイトは広告収入で運営されており、その広告枠にマルウェアの配布経路が組み込まれている。
マイクロソフトは2024年12月、違法配信サイトを起点とする大規模なマルバタイジング(悪意ある広告)攻撃を検出した。約100万台の端末が影響を受けている。動画のフレーム内に埋め込まれた広告リダイレクターが、視聴者を複数の中継サイト経由でGitHubへ誘導する。そこに置かれた情報窃取マルウェア「Lumma」や「Doenerium」が端末に侵入し、ブラウザの認証情報やシステム情報、文書ファイルを外部へ送信する。企業ネットワーク上の業務端末にも被害が及んだ。
この種の感染は、再生ボタンやミュート解除ボタンをクリックするだけで始まる。ダウンロードの確認画面は出ない。認証情報の入力も求められない。気づかないまま、ブラウザに保存されたパスワードや個人情報が流出する。
2021年4月 ウェブルート調査を公開 違法配信サイトの92%に悪意あるコンテンツ 2022年12月 カタールW杯で初の一斉押収 オペレーション・オフサイズで78ドメインを押収 2024年12月 約100万台にマルウェア感染 マイクロソフトが違法配信サイト経由の攻撃を検出 2026年4月 悪質ドメインが急増 FIFA関連の新規ドメイン9,741件を確認 2026年5月 FBIが偽サイトを警告 FIFA公式を模倣した詐欺サイトの拡散を確認 2026年6月 米司法省が約400ドメインを押収 2022年の約5倍。6カ国で国際連携摘発 |
HSIのエリック・ワインドルフ(Eric Weindorf)氏は今回の押収発表にあたり、違法配信サイトがマルウェア攻撃や安全でない接続を通じて個人情報と金融データを危険にさらすと警告した。
日本では全104試合をライブで視聴するにはDAZNの有料プランが必要で、地上波やNHK BSでの放送は一部の試合に限られる。「無料で全試合が観られる」とうたう海外サイトやVPN経由の視聴を探す人が出る理由はここにある。正規の配信権を持つ海外サイト自体は違法ではないが、検索結果やSNSで拡散される「無料視聴」リンクの中には、正規サイトを装った偽サイトが混在している。FBIは大会に先立ち、FIFA公式サイトを精巧に模倣した偽サイトが個人情報の窃取や偽チケットの販売に使われていると警告を出していた。
参照元:United States Seizes Hundreds of Internet Domains Used to Illegally Stream World Cup Matches
他参照:Malvertising campaign leads to info stealers hosted on GitHub
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