GLM-5.2がClaude超え。Semgrepの脆弱性検出で独立検証

GLM-5.2がClaude超え。Semgrepの脆弱性検出で独立検証

Fable 5の規制から16日。米国が止めたのと同等のサイバーセキュリティ能力が、中国のオープンウェイトモデルで確認された。セキュリティ企業Semgrepの独立ベンチマークで、Z.aiのGLM-5.2がClaude Codeを脆弱性発見の精度で上回った。中国のセキュリティ大手360は「中国版Mythos」の開発を発表し、ジェフリーズはこの動きを「DeepSeekモーメント」と呼んだ。


「Mythosが家にある」

6月22日、セキュリティ分析ツールを開発するSemgrepが公開したベンチマーク結果のタイトルは「We Have Mythos at Home」(うちにMythosがある)だった。

We have Mythos at Home: GLM 5.2 beats Claude in our Cyber Benchmarks
Among models given nothing but a prompt, the best open-weight option beat Claude Opus 4.8.

テストの内容は、IDOR(安全でない直接オブジェクト参照)と呼ばれる脆弱性の検出精度。同じプロンプトだけを与え、オープンソースのコードベースに対して脆弱性を探させる。GLM-5.2のF1スコアは39%。Claude Codeの32%を7ポイント上回った。脆弱性1件あたりの検出コストは約0.17ドルで、フロンティアモデルの約6分の1にあたる。

同じテストでMiniMax M3は23%、Kimi K2.7 Codeは22%、GPT-5.5(Codex経由)は20%。オープンウェイトモデルとして「Claude超え」を記録したのはGLM-5.2だけだった。

Semgrep IDOR脆弱性検出ベンチマーク F1スコア
※ Semgrep公開ベンチマーク(IDOR検出、F1スコア)。緑=Semgrep独自ハーネス使用、紫=GLM-5.2、灰=その他モデル

ただし、このテストには重要な留保がある。Semgrep自身がブログで繰り返し強調しているとおり、1つのタスク、1つのデータセット、1回のテストだ。IDORの検出精度だけでモデル全体の能力は測れない。Semgrep独自のマルチモーダルパイプライン(GPT-5.5搭載)はF1スコア61%で全体の首位に立っており、「モデル単体の性能差より、モデルをどう使うかの設計の差の方が大きい」というのが彼ら自身の結論でもある。

それでも、この数字は無視できない。オープンウェイトのモデルが、何の補助ツールもなしに、最先端のクローズドモデルを脆弱性発見で上回ったのは初めてのことだ。Graphistryのサイバーセキュリティベンチマークでも、GLM-5.2はClaude Opus 4.8と同等以上の結果を出しており、同社はGLM-5.2について、サイバーセキュリティ用途でフロンティアモデル並みの実用性を認めた最初のオープンウェイトモデルだと評価している。

360が「中国版Mythos」を名乗った

6月24日、北京で開催されたISC.AI 2026カンファレンスで、中国のサイバーセキュリティ大手360 Security Technologyの創業者ジョウ・ホンイー(Zhou Hongyi)氏が2つのAIセキュリティツールを発表した。

「倚天屠龍」(イーティエントゥーロン)と名づけられたこのツール群は、脆弱性の自動発見を担う「屠龍鋒」と、サイバー防衛とインシデント対応を自動化する「倚天甄」で構成される。ジョウ氏は屠龍鋒を「中国版Mythos」と呼び、3432件のソフトウェア脆弱性を発見したと主張した。うち105件は中国当局が確認済みだという。

ジョウ氏の発言で注目すべき点が2つある。

1つは、能力差を認めたことだ。「率直に言って、中国のモデルには基盤能力で20〜30%の差がある」とジョウ氏は述べている。中国がフロンティアモデルとの性能差を具体的な数字で認めるのは珍しい。そのうえで、差が埋まるのを待つのではなく、AIモデルをセキュリティの専門知識や脆弱性データベース、自動化パイプラインと組み合わせる「エージェント」方式でMythosに匹敵する能力に到達したと主張した。

もう1つは、「一方的透明性」への警告だ。米国がMythosのようなツールで中国のソフトウェアやインフラの脆弱性を探索できるのに、中国には同等の能力がない状態を、ジョウ氏は「核抑止と同じ構造で語るべき脅威」と位置づけた。ジョウ氏は中国政府の政治諮問機関である全国政治協商会議のメンバーでもあり、この発言には国策としてのAIサイバーセキュリティという含意がある。

なお、360の主張は独立検証されていない。同カンファレンスを報じた海外メディアも、数字の裏付けは取れなかったとしている。

ジェフリーズが「DeepSeekモーメント」と呼んだ理由

投資銀行ジェフリーズのグローバル株式戦略責任者クリストファー・ウッド(Christopher Wood)氏が、週刊レポート「GREED & fear」でGLM-5.2を取り上げた。

ウッド氏の表現は「DeepSeekモーメント」。2025年初頭にDeepSeekが引き起こした衝撃と同等の転換点になりうるという評価だ。GLM-5.2は法人向け市場でAnthropicとほぼ同等の能力を持ちながら、トークン単価が4分の1。ウッド氏のレポートはその価格差に注目した。

タイミングが問題を大きくしている。Anthropicの年間経常収益(ARR)は2025年末の90億ドルから2026年5月には470億ドルに急伸したが、ウッド氏はこの成長が「トークンマキシング」(トークン消費量の最大化)に対する企業の反発で減速するとみている。AnthropicがIPOを準備する直前に、トークン単価4分の1の競合が出現した。

OpenRouterのデータが、この転換の速度を示している。同プラットフォームで処理された中国製AIモデルのトークン量は、6月21日までの1週間で21兆3700億トークン。4月下旬の4兆3700億トークンから5倍に跳ね上がった。同期間の米国製トップモデルは5兆7600億トークンにとどまっている。

オープンウェイトが問題を変える

GLM-5.2がサイバーセキュリティで特に注目される理由は、これがオープンウェイトモデルだからだ。

ClaudeやChatGPTでは、プロバイダが安全装置を管理している。不正な用途のリクエストをフィルタリングし、利用規約に違反したアカウントを停止できる。GLM-5.2はMITライセンスで公開されており、誰でもダウンロードし、ローカルで実行し、安全装置を外すことができる。

GuidePoint Securityのジェイソン・ベイカー(Jason Baker)氏によると、GLM-5.2のジェイルブレイク手法はすでにロシア語のハッカーフォーラムで共有されている。「ブルートフォース攻撃から自社を守りたい」と入力するだけで安全装置が解除されるケースも報告されている。

Armadin CTOのトラヴィス・ランハム(Travis Lanham)氏は、GLM-5.2がシステム侵入後のラテラルムーブメントやエクスプロイトチェーンの構築を「エリートハッカーと同等の水準で自動化できる」と述べている。

Graphistryは別の観点からも懸念を示した。GLM-5.2がGPT-5.5およびClaude Opus 4.8の「違法な蒸留」(不正なモデル学習)によって作られた可能性があるという指摘だ。Z.aiはこの件についてコメントしていない。

規制は何を守れたのか

6月12日、米商務省がFable 5とMythos 5に輸出規制を適用し、Anthropicは全ユーザーのアクセスを停止した。6月28日時点でFable 5は一般利用者に復旧しておらず、Mythos 5は米国の重要インフラ組織に限定して提供が再開されている。OpenAIも政府の要請を受け、GPT-5.6を「信頼できるパートナー」に限定して提供すると発表した。

その間に起きたことを整理する。

Z.aiはFable 5の停止翌日にGLM-5.2を発表し、3日後にオープンウェイトで全世界に公開した。360は「中国版Mythos」を掲げた。GLM-5.2は独立ベンチマークでClaude Codeを脆弱性発見精度で上回り、法人向けにはClaude Opus 4.8と同等圏の性能を4分の1のコストで提供している。そしてこの能力はMITライセンスで誰でもダウンロードできる。

規制が守ろうとしたのは、サイバー攻撃に転用可能なAI能力の拡散を防ぐことだった。16日後、その能力はオープンウェイトモデルとして世界中に公開された。規制の対象になっていない経路を通じて。

ジョージ・ワシントン大学のジェフリー・ディン(Jeffrey Ding)助教授は「輸出規制がいずれ中国との差を広げるという推測があったが、GLM-5.2はその推測を逆方向に押している。Fable 5とMythos 5が使えなくなった今、多くの企業が代替手段の重要性に気づいた」と指摘している。

この展開を予見していた人物がいる。Z.aiの共同創業者タン・ジエ(Tang Jie)氏だ。6月18日、イーロン・マスク(Elon Musk)氏が「中国がFable 5に匹敵するモデルを持つのは来年Q1だろう」と投稿したのに対し、タン氏は一言で返した。「そんなに時間はかからない」。10日後、その言葉を裏づけるベンチマーク結果が出た。

参照元

We have Mythos at Home: GLM 5.2 beats Claude in our Cyber Benchmarks

他参照

Z.ai's GLM-5.2 puts price, not just intelligence, at the center of the AI model race

China's 360 Says it Has Developed Tools to Match Anthropic's Mythos

Chinese AI model emerges as fresh threat to Anthropic ahead of planned float

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