豪SNS禁止法、罰金約110億円に倍増。85%の子どもは使い続けている
世界で初めて16歳未満のSNS利用を禁じたオーストラリアが、施行から半年で罰金を倍増させた。だが同じ週に公表された研究は、子どもの85%がまだSNSを使い続けているという現実を突きつけている。
罰金倍増、権限拡大
オーストラリア政府が現地時間6月28日、16歳未満のSNS利用禁止法(Social Media Minimum Age Act)の罰則を大幅に強化すると発表した。違反企業に科される最高罰金を4950万豪ドル(約55億円)から9900万豪ドル(約110億円)に倍増させ、競争法・消費者法と同水準に引き上げる。
同時に、規制当局であるネット安全コミッショナー(eSafety Commissioner)の情報収集権限を拡大する新法案も提出する。SNS企業に対して、16歳未満のアカウント作成をどう防いでいるかの証拠提出を命じる権限を与え、年齢確認サービスやアプリストア運営会社など第三者からも情報を収集できるようにする。
アルバニージー(Anthony Albanese)首相は発表文で、大手テック企業が法律の遵守に十分な対応を取っていないと指摘した。通信大臣のアニカ・ウェルズ(Anika Wells)はさらに踏み込み、SNS企業がやっているのは「ビッグテックのお決まりの手口そのもの」で、必要最低限の対応で済ませようとしていると批判した。
eSafety委員会はFacebook、Instagram、Snapchat、TikTok、YouTubeの5プラットフォームに対し、法令違反の可能性を現在調査中だと改めて表明した。
500万アカウント削除、しかし85%が残る
政府は成果として、2025年12月10日の施行以降に500万件超のアカウントが削除・無効化・制限されたと強調している。
だがその数字とは別の現実を示すデータが、この1週間で相次いで公表された。
ニューカッスル大学の研究チームが6月24日にBMJ(British Medical Journal)に発表した観察研究では、12歳から15歳の408人を追跡した結果、85%以上が施行後3ヶ月の時点でもSNSを使い続けていた。3分の2の子どもは、16歳以上と自己申告するか、セルフィーを使った年齢推定で「16歳以上」と判定されることで制限を回避していた。12〜13歳の利用率はほぼ変わらず、14〜15歳でわずかに減少(78%から69%)した一方、16歳以上ではむしろ増加(80%から89%)している。
4月にはモリー・ローズ財団(Molly Rose Foundation)とユースインサイト(YouthInsight)が1050人の12〜15歳を対象に実施した調査でも、禁止対象プラットフォームのアカウントを持っていた子どもの61%が依然としてアクセスできていた。TikTok、YouTube、Instagramのいずれも、禁止前のユーザーの半数以上がアカウントを維持している。しかも子どもの約3分の2が、プラットフォームは既存アカウントに対して「何のアクションも取らなかった」と回答した。
二つの調査から見える現実は同じだ。500万のアカウント削除は、もともと年齢基準を明らかに満たさないアカウントの一掃にすぎず、実際に法律が届かせたかった層にはほとんど届いていない。
なぜ年齢確認は機能しないのか
3月のeSafety委員会コンプライアンス報告書は、一部のプラットフォームが年齢確認の「再チャレンジ」を何度でも許容する仕組みを提供していたことや、保護者が子どものアカウント削除を求めても法的書類の提出を要求されて断念した事例を指摘していた。年齢確認の設計と実装はSNS企業に委ねられている以上、企業が形だけの対応にとどめれば、法律の実効性はそこで止まる。罰金を倍にしても、この構造は変わらない。
英国が追随、施行は2027年春
オーストラリアの実験結果が出揃うのを待たず、英国は動いた。
キア・スターマー(Keir Starmer)首相は6月15日、16歳未満のSNS利用を禁止する方針を発表した。対象はSnapchat、TikTok、YouTube、Instagram、Facebook、Xで、WhatsAppやSignalなどのメッセージアプリは含まない。オーストラリアのモデルを踏襲しつつ、ライブストリーミングや見知らぬ相手との接触機能もゲームサイトを含めて規制対象に加え、2027年春の施行を目指す。
だが英国内でも反対の声は小さくない。モリー・ローズ財団のアンディ・バロウズ(Andy Burrows)CEOは、オーストラリアの調査結果を引いて「英国が今この段階で追随するのはハイリスクな賭けだ」と警告した。アムネスティ・インターナショナルは「正しい診断、誤った処方箋」と評し、禁止ではなくプラットフォームの設計そのものを規制すべきだと主張している。
ジュネーブ大学のルイーズ・ホリー(Louise Holly)政策研究コーディネーターはBMJへの寄稿で注目すべき一点を指摘した。この法律は子どもの行動を変えるためではなく、プラットフォームの慣行を変えるために作られた。子どもの85%がまだSNSを使っている事実は、法律の失敗ではなくプラットフォームの不作為を示している。
禁止法そのものが機能していないのか、それともプラットフォーム企業が本気で年齢確認を実装していないのか。罰金の倍増は後者に対する回答になる。ただし、回答が正しいかどうかは、これから法廷で試される。
Redditの違憲訴訟、結論は2026年後半
この法律を正面から争う動きも続いている。Redditはオーストラリア高等裁判所に違憲訴訟を提起し、法律が「暗黙の政治的コミュニケーションの自由」を侵害すると主張している。判決は2026年後半の見通しで、結果次第では法律の枠組み自体が揺らぐ可能性がある。
罰金を倍にすることで企業を動かそうとする政府と、法律の正当性を法廷で争おうとする企業。その間で、子どもたちは今日もフィードをスクロールしている。
オーストラリアの半年間が証明したのは、子どもをSNSから遠ざけることの難しさではない。遠ざけることを「企業に任せる」ことの限界だ。法律は存在する。罰金は上がった。権限も拡大された。それでも、法律の実効性を決めるのは条文の厳しさではなく、年齢確認システムが16歳未満のアカウントを本気で止めにかかっているかどうかだ。
参照元
Stronger powers and double the penalties for world-leading social media law
他参照
Australia doubles the maximum penalty for its social media ban
Australia toughens kids' social media ban, doubles potential penalties for tech firms