AnthropicのMythos、curlで見つけた脆弱性はたった1件
「危険すぎて公開できない」と謳われたAIモデルMythosが、世界で最も監査済みのコードベースに挑んだ。結果は深刻度「低」の脆弱性1件。curlの開発者は「見事なマーケティングだった」と総括した。
「危険すぎて公開できない」と謳われたAIモデルMythosが、世界で最も監査済みのコードベースに挑んだ。結果は深刻度「低」の脆弱性1件。curlの開発者は「見事なマーケティングだった」と総括した。
Mythos、curlを解析した
2026年4月、Anthropicは新AIモデル「Mythos」を発表した。ソースコードから脆弱性を発見する能力が「危険なほど高い」として、一般公開を見送り、選ばれた企業・団体にのみ段階的にアクセスを提供するという——Project Glasswingと名付けられたプログラムだ。
その一環として、Linux Foundationのプロジェクト「Alpha Omega」が著名なオープンソースプロジェクトへのアクセスを仲介した。curlの開発者であるダニエル・ステンバーグ(Daniel Stenberg)氏もそこに含まれていた。
ステンバーグ氏は契約を結び、アクセスを待った。だが数週間が過ぎても何も来なかった。最終的に提示されたのは「直接アクセス」ではなく、「Mythosにアクセスできる第三者がスキャンを代行し、レポートを送る」という形だった。
curlは地球上で最もfuzzテストと監査が行われたCコードベースのひとつだ。特にHTTP/1、TLS、URLパース等のホットパスで何かを見つけるのは難しい。
Mythosのレポート自体も、この一文から始まっていた。
5件から1件へ
2026年5月6日、ステンバーグ氏のチームはMythosが生成したレポートを受け取った。解析対象はcurlのgitリポジトリ、17万8000行のCコードだ。
レポートには「5件の確認済みセキュリティ脆弱性」と記されていた。AIが「confirmed(確認済み)」と自ら断言していることをステンバーグ氏は少し皮肉っぽく指摘している——確認したのはAI自身であって、人間ではない。
curlのセキュリティチームが数時間かけて精査した結果、リストは急速に縮んだ。3件はAPIドキュメントに記載済みの仕様であり「偽陽性」、1件は「セキュリティ上の問題ではなく、ただのバグ」と判定された。
残ったのは 1件。深刻度「低」のCVEとして、2026年6月末予定のcurl 8.21.0リリースと同時に公開される予定だ。
私の個人的な結論は、このモデルを巡る大きな騒ぎが主にマーケティングだったということに尽きる。Mythos以前の他のツールと比べて、特に高いレベルや高度な方法で問題を見つけた証拠は見当たらない。
curlが特殊すぎる、という反論
ただし、ステンバーグ氏自身もこの点を認めている。curlは公平な比較対象ではないかもしれない。
curlのコードは現在176,000行(空行除く)。過去に発表されたCVEは 188件 を数え、OSS-Fuzz、Coverity、CodeQLによる継続的なファズテスト、複数の有償セキュリティ監査が積み重なっている。コードの1行あたり平均4.14回書き直されており、ステンバーグ氏はその規模を「英語版『戦争と平和』全文より12%多い単語数」と表現した。
Mythos自身のレポートも「ホットパスでの発見は難しい」と述べていた。そのレポートが正確だったということでもある。
Mythosは別のコードでより優れた結果を出す可能性がある。私はここで見えたものについてしか語れない。
curlでの結果が全てではない。ステンバーグ氏自身もそう書いている。まだ手がついていないコードベースに対しては、Mythosも含む現世代のAIツール全般が大量のバグを発見する、と。
AIコードアナライザーの現在地
ステンバーグ氏はMythosを含むAIツール群の有用性を否定していない。curlはすでに、AISLE、Zeropath、OpenAI Codex Securityといった複数のAIツールを走らせており、この8〜10か月で およそ200〜300件 のバグ修正につながった。脆弱性としてCVEに登録されたものも十数件以上ある。
AI以前の静的解析ツールと比べた時の優位性は明確だ——コメントとコードの矛盾を検出できる、設定しにくいプラットフォームでも解析できる、プロトコル仕様との整合性を検証できる、見つけた問題の説明が分かりやすい、といった点はステンバーグ氏も高く評価している。
問題はMythosが「それらのツールを大幅に上回るか」という点だ。今回のcurlスキャンからは、その証拠が見当たらなかった。
「Mythos」という名前が選ばれた理由
それでも、Anthropicのマーケティングは成功した。「Mythos(神話)」という名のモデルが、「公開するには危険すぎる」という物語とともに登場した時、世界は確かに動揺した。
以前の報道によれば、Mythosに対する未認可アクセスが発生し、Anthropicが調査中と認めたこと、またMythosが発見したという「数千件の深刻度高・致命的脆弱性」という主張を研究者が検証したところ、実際の件数は40件程度(あるいは0件)という推計も出ている。
ステンバーグ氏はこう締めくくった——「Mythosは間違いなく、見事なほど成功したマーケティングだった」と。
その言葉には皮肉だけでなく、一種の冷静な観察が含まれている。AIによるコード解析は本物の技術だ。ただし「他のAIツールよりずば抜けて優秀」という主張は、少なくともcurlに関する限り、根拠が薄かった。
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