AIが10年眠ったFirefoxのバグを掘り起こしている
AnthropicのMythosが2026年4月のFirefoxにもたらした修正件数は423件。前年同月の31件と比べて13倍を超える。Mozillaの公式ブログがその内訳を初めて明かし、防御側の景色がここ数カ月で一変したと報告した。
AnthropicのMythosが2026年4月のFirefoxにもたらした修正件数は423件。前年同月の31件と比べて13倍を超える。Mozillaの公式ブログがその内訳を初めて明かし、防御側の景色がここ数カ月で一変したと報告した。
数カ月で景色が変わった
Mozillaのセキュリティチームが現地時間の5月7日に公開したブログは、ここ数カ月で起きた変化の大きさを率直に綴っている。Mozillaのエンジニア3人がそろって署名したこの投稿によれば、AIによるセキュリティバグ報告はつい最近まで「望まれざるスロップ」、つまり一見もっともらしいが実際には誤っている報告で埋め尽くされていた。LLMにコードの「問題」を見つけさせるのは安いが、それに対応する側は遅くて高くつく。維持側に一方的なコストを押しつける、いわば嫌がらせに近い状況だった。
それが、ここ数カ月で完全にひっくり返ったという。理由は2つあると彼らは書いている。モデル自体が大きく強くなったことと、モデルを操る側のテクニックが磨かれたことだ。後者はMozillaの言葉を借りれば「ハーネス」(harness)、つまりモデルを舵取りし、並列化し、積み重ねて、シグナルだけを増幅しノイズを取り除く仕組みのことを指している。
数カ月の間にこのダイナミクスがどれほど変わったか、いくら強調してもしすぎることはない。
Mozillaがそう書くだけの裏付けが、4月のリリース統計に表れている。
423対31という数字
公開された折れ線グラフは、2025年を通して月20〜30件で推移していたFirefoxのセキュリティバグ修正数が、2026年2月〜3月に60〜70件まで跳ね上がり、4月に423件へと突き抜けたことを示している。前年同月比でおよそ13倍。1年前の同じ4月は31件だった。曲線というより、断崖のような立ち上がりだ。
このうち271件はFirefox 150のリリースでClaude Mythos Previewが見つけた分で、残りはMythos Previewで見つけて他バージョンに反映した分、別モデルで見つけた分、ファジングなど従来手法で見つけた分、外部報告分を合算したものになる。Mozillaは詳しい配分を別途FAQで開示している。
数字の威力に視覚的なインパクトを足しているのが、修正済みバグから抜粋された 12件のサンプル だ。本来であれば、修正版を配ったあとも数カ月は詳細を伏せる。アップデートが遅いユーザーを攻撃から守るためだ。今回はその慣行を曲げてでも開示したという判断そのものが、Mozillaの危機感の強さを物語る。
あまりに関心が高く、業界全体で対応が急がれる状況のため、最近修正したバグの裏側にある報告のごく一部を公開するという計算された決断を下した。
公開されたバグは、ブラウザの異なるサブシステムから意図的に幅広く選ばれている。
15年と20年、眠っていたコードのほつれ
12件のサンプルを眺めると、AIが「人間の目では見つけにくい場所」を狙い撃ちしているのが分かる。
たとえば<legend>要素にひそんでいた15年もののバグ。再帰スタックの深さ制限、expandoプロパティ、サイクルコレクションといったブラウザの離れた箇所をまたいで、エッジケースを綿密に組み合わせて初めて発火する代物だ。XSLTには20年もののバグが見つかっている。再入するkey()呼び出しが原因で、ハッシュテーブルの再ハッシュが裏側のストレージを解放するのに、ポインタはまだ使われ続けている。どちらも、人間のレビュアーが何度通っても気づけなかった種類のものだ。
サンドボックス脱出が複数含まれているのも目を引く。Firefoxはレンダープロセスを隔離する多層防御を敷いており、サンドボックス内のコード実行から特権側へ抜ける道を見つけるには、ブラウザにあえて細工したパッチを当て、最も堅い部分に作りたての武器で挑むという手間のかかる多段攻撃が必要になる。
サンドボックスバグを見つけるには、モデルはブラウザに改ざんパッチを書き、新しいコードを実装した状態でソフトウェアの最も安全な部分を攻撃しなければならない。
Mozillaのバグ報奨金は、Firefoxのサンドボックスを破った研究者に最大2万ドル(約313万円)を支払う。それでも、Mozillaのエンジニアであるブライアン・グリンステッド氏(Brian Grinstead)はTechCrunchに対し、Mythosが見つけているサンドボックスの問題は人間の研究者が長年かけて報告してきた数を上回ると述べている。最高額の報奨金でも釣れなかった種類の脆弱性が、AIによって次々と引き出されている。
修正は、まだ人間の仕事だ
ここで一度立ち止まる必要がある。Mozillaが言っているのは「AIが見つけている」であって、「AIが直している」ではない。
Mozillaのチームは、見つかったバグそれぞれにAIへ修正パッチを書かせてはいる。ただし、生成されたコードがそのまま当てられることは少なく、人間のエンジニアにとっての叩き台として使われている。グリンステッド氏は「今回扱っているバグはどれも、エンジニアが1人パッチを書き、別の1人がレビューする形だ」「自動化できるとは感じていない」と語っている。
つまり、現段階では発見は機械の速度、修正は人間の速度という非対称が生まれている。バグの蛇口は全開になったが、それを閉める手は変わらず人の数しかない。Mozillaは記事の最後で、100人以上のエンジニアがコードのパッチ書き、レビュー、トリアージ、リリース管理に関わったと書いている。これは誇るべき体制だが、同時に「これだけ動員してようやく回っている」という現実でもある。
攻撃側にも、同じ道具がある
Mythos Previewは責任ある開示の枠組みに沿って配られており、Anthropicは慎重に運用していると伝えられている。とはいえ、AnthropicのCEOダリオ・アモデイ氏(Dario Amodei)が登壇イベントで述べたとおり、「これがうまくいけば、われわれはこの混乱を抜けたあと、より良い場所にいる。バグの数には限りがあるからだ」という前向きな見立ては、裏返せば「うまくいかなかった場合」を黙って抱え込んでいる。
Anthropic自身、Mythos Previewへの 不正アクセス があったことを4月下旬にBloombergに対して認めている。同等の脆弱性発見能力を持つ別系統のモデルが攻撃側でいつ実用域に届くかも、いまのところ誰にも分からない。
グリンステッド氏の物言いは、アモデイ氏よりも一段慎重だ。
攻撃者にも防御側にも有用だが、ツールが手元にあること自体は、わずかに防御側へ優位を傾ける。現実的には、答えはまだ誰にも分からない。
「わずかに傾く」という慎重な言い回しは、勝利宣言ではなく現場感覚の表明だ。
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15年も20年も眠っていたほつれが、数カ月で次々と引きずり出されている。攻撃の入口になる前にふさげるのなら、これほど歓迎すべきことはない。同じ道具が攻撃側にも回っているかどうかは、まだ誰にも分からないままだ。
参照元
他参照
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