Mythosの脅威情報、Anthropicが外部共有を解禁

Mythosの脅威情報、Anthropicが外部共有を解禁

Anthropicが方針を転換した。同社のAIモデルMythosで発見されたサイバー脅威の情報を、パートナー企業が外部と共有できるようになる。守りの時間稼ぎは、次の段階に入った。


機密保持から情報共有へ

Anthropicは先週、Project Glasswingのパートナー企業に対し、Mythosで発見したサイバー脅威の情報を外部と共有してよいと通知した。プログラムへの参加自体を公表することも許可されている。

4月7日にMythos Previewを発表した当初、パートナー企業は機密保持契約のもとで運用していた。発見した脆弱性の情報は社外に持ち出せず、Glasswingの輪の中だけで処理される仕組みだった。攻撃者に情報が渡るリスクを懸念したパートナー側が、契約時に機密保護を求めた経緯がある。

Anthropicの広報担当者は「パートナー同士、またはGlasswing外の企業と発見内容を共有し、脆弱性のトリアージに役立ててもらうことを全面的に支持する」と述べている。

しかしプログラムが成熟するにつれ、情報を閉じ込めておく弊害が目立ち始めた。Glasswingに参加していない企業は、同じ脆弱性を抱えていても対処の手がかりがない。共有先は他社のセキュリティチーム、業界団体、規制当局、政府機関、オープンソースのメンテナー、メディア、そして一般にまで広がる。条件は責任ある開示の規範に従うことだけだ。


50のリポジトリを一斉テスト

方針転換と並行して、Mythosの技術的な能力も具体像を見せ始めている。

CDNとセキュリティの大手Cloudflareは、Mythosを 50以上のリポジトリに対してテストしたと明かした。注目すべきは、単一のバグ探しではなく、複数のバグを連鎖させて一つのエクスプロイトに組み上げる能力の検証だ。Cloudflareは脆弱性発見ハーネスの詳細も共有している。

Mythos Previewが4月の発表時に示した成果は衝撃的だった。主要なOSとウェブブラウザのすべてでゼロデイ脆弱性を発見し、最も古いものは 27年間パッチされずに放置されていたOpenBSDのバグだった。Firefoxブラウザを開発するMozillaは、プレビュー版を使って 271件の脆弱性を特定・修正したと発表している。

Mythos Previewはゼロデイの発見だけでなく、発見した脆弱性の83%以上で初回の試行からエクスプロイトの構築に成功した。4つの脆弱性を連鎖させ、レンダラーとOSの両方のサンドボックスを突破するブラウザエクスプロイトを書いたケースもある。

こうした能力は、防御側にとって二律背反を突きつける。見つけて直す力が攻撃にも転用できる以上、情報共有の範囲をどう設計するかが防御戦略の核になる。


金融規制当局も動く

脅威情報の共有範囲が広がる一方で、金融の世界にも波紋が及んでいる。

金融安定理事会(FSB)の議長を務めるイングランド銀行のアンドリュー・ベイリー(Andrew Bailey)総裁は、Anthropicに対しMythosが発見した金融システムの脆弱性についてFSBへの報告を要請した。AnthropicはG20各国の財務省・中央銀行が名を連ねるFSBのメンバーに対してブリーフィングを行う予定だ。

ベイリー総裁は先月、コロンビア大学でのイベントで「Anthropicがサイバーリスクの世界全体をこじ開ける方法を見つけたかもしれない」と述べ、Mythosの能力に対する強い警戒感を示していた。

米国内では、民主党のジョシュ・ゴットハイマー(Josh Gottheimer)下院議員がAnthropicのダリオ・アモデイ(Dario Amodei)CEOに書簡を送り、Mythosユーザーが同業他社に脅威を通知できるようにすべきだと主張。「いかなる事業者も、他者への警告や関係者間の連携、緊急のサイバーリスクに関する情報共有を契約上禁止されるべきではない」と記した。AI民主委員会の共同議長でもある同議員は、こうした動きを後押ししてきた一人だ。

懐疑論も存在する。情報共有が広がれば、攻撃者側に脆弱性の存在を知らせるリスクも高まる。Anthropicは先月、不正アクセスの調査を進めていることを認めており、Discordの小規模グループがベンダー経由でMythos Previewに到達した事案が報じられている。
Mythos発表から情報共有解禁まで
4月7日
Mythos Preview発表
主要OS・ブラウザ全てでゼロデイ発見。Project Glasswingとして約50社に限定提供開始。機密保持契約のもとで運用
4月中旬
Discordグループが不正アクセス
ベンダー経由でMythos Previewに到達。Anthropicが調査を開始
4月17日
ホワイトハウスとアモデイCEOが会談
サイバーセキュリティ、AI安全性、米国のAI競争力で協議
4月下旬
ホワイトハウスが70社拡大計画に反対
Glasswingのアクセス範囲拡大を抑制する姿勢
5月中旬
脅威情報の外部共有を解禁
パートナー企業がGlasswing外の企業・規制当局・メディアにも発見内容を共有可能に。ゴットハイマー議員の書簡が後押し
5月18日
FSBへのブリーフィングが決定
ベイリーFSB議長の要請で、G20各国の財務省・中央銀行に脆弱性を報告予定

防御の時間稼ぎは続くか

Anthropicは今回の方針転換と前後して、ホワイトハウスとの関係修復やFSBへのブリーフィングなど、Mythosの管理体制を急速に拡充している。Project Glasswingには最大 1億ドルの利用クレジットと、オープンソースセキュリティ組織への 400万ドルの直接寄付が充てられている。

しかし根本的なジレンマは解消されていない。Mythos級の能力は、Anthropicが明言するように汎用的な推論力の向上から生まれた副産物であり、意図的にサイバー攻撃に特化させたものではない。他の開発元が同等の能力に追いつくのは時間の問題だと考えられている。

ホワイトハウスはGlasswingの対象を約70社に拡大するAnthropicの計画に反対し、アクセス範囲の拡大を抑制する姿勢を見せた。情報は共有されやすくなったが、モデルそのものへのアクセスは依然として限られたまま。守る側にとって、時間の窓はまだ開いている。それがいつ閉じるかは、誰にも分からない。


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