ARC Raiders、Linuxを切らずにチートと戦う道
ARC Raidersがカーネルレベル、機械学習、入力テレメトリの三層でチート対策を強化中。『Apex Legends』とは違いLinuxサポート維持を明言し、ProtonDBではPlatinum評価が続いている。
ARC Raidersがカーネルレベル、機械学習、入力テレメトリの三層でチート対策を強化中。『Apex Legends』とは違いLinuxサポート維持を明言し、ProtonDBではPlatinum評価が続いている。
Embark Studiosが選んだ「Linuxを切らない」道
ARC Raidersの開発元Embark Studiosが、5月7日に公開した公式ブログ「Ensuring Fair Play」で、新しいカーネルレベルアンチチートのテストを進めていることを明かした。同社が今後さらに精度の高い検出を狙うのは、最新マップ「スペランザ」と「ラストベルト」周辺だという。この発表は、ライバル作『Apex Legends』が2024年にLinuxサポートを完全に打ち切った前例があるだけに、ARC RaidersのLinuxユーザーから不安の声を呼び起こした。
ところが、ブログを丁寧に読むと、不安の方向が逆だと気づく。Embarkは「Linuxを切る」とは一言も書いていない。むしろアクセシビリティと意図の見極めに紙幅を割き、特殊な入力デバイスを使うプレイヤーへの配慮を続けると明言している。これは『Apex Legends』を運営するEAとRespawnが選んだ道とは正反対だ。
ProtonDBの最新レポートを確認すると、ARC RaidersはPlatinum評価で、Steam Deck Verifiedの認定も受けている。Linuxユーザーから寄せられた 918件のレポート の多くが、開発元の姿勢を裏付けている。
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ProtonDB上位レビューの実体験は、公式の言葉だけでは伝わらない説得力を持つ。
三層構造が語る、技術的な本気度
公式ブログを読み解くと、Embarkのチート対策は三層で構成されている。
第一層が Easy Anti-Cheat のカーネルレベル保護だ。これは『フォートナイト』『THE FINALS』など多くの大型タイトルで採用されている、Epic Games傘下のアンチチートシステム。OSの最深部で動作することで、商用チートの大半を検知できる。
第二層が機械学習(ML)モデル。Embarkはプレイヤーのテレメトリデータを継続的に収集し、不正な動きのパターンを学習させている。とくに 入力テレメトリの分析 が「最も効果的なツール」のひとつになっていると、ブログには書かれている。
第三層がパートナー企業 Anybrain との協業だ。Anybrainは入力デバイスに関する専門知識を持ち、アクセシビリティ機器の正規利用とチート利用を見分ける手助けをしている。
カーネルレベル検出は必要不可欠だ。ほとんどの商用チートがその領域で動作している。これがなければ、最も有害なツールに対してほぼ何も見えなくなる。(公式ブログより意訳)
注目すべきは、Embarkがこの三層に加えて「他にも複数の層がある」と認めつつ、「運用上の安全のため詳細は公開しない」と述べていることだ。手の内を見せないのが、現代のアンチチート設計の鉄則になっている。
なぜ「Linuxサポート終了の前触れ」に見えてしまうのか
不安の出どころは『Apex Legends』の記憶だ。EAとRespawnは2024年10月、Linuxからのアクセスを全面遮断した。理由はチート対策の困難さ。Linux環境ではチートの検出が極端に難しく、しかもWindows用のチートをLinux経由で偽装する手口まで横行していた。Steam Deckと悪意あるLinuxマシンの区別がつかないため、まとめて締め出すしかなかったわけだ。
その結果は劇的だった。Respawnの公式報告によれば、Linux遮断とシーズン23の対策を組み合わせた直後、チーター遭遇率は短期で 33%減少 した。ただし時間が経つにつれてチート業者も対策を進め、数値は再び上昇傾向にある。
Riot Gamesの『VALORANT』『リーグ・オブ・レジェンド』、Epicの『フォートナイト』もLinuxサポートを行っていない。カーネルレベルアンチチートという仕組みそのものが、Linuxとの相性が悪い。だからこそ、ARC Raidersが新しいカーネルレベルアンチチートを「テスト中」だと聞くと、次の一手が「Linux切り」に見えてしまう。
Embarkの過去の選択が、今回の判断を予測させる
ここでEmbarkの過去を振り返ると、別の景色が見えてくる。同社の前作『THE FINALS』もカーネルレベルアンチチートを採用したが、その実装時にLinuxとSteam Deckのサポートを維持すると約束し、実際に守った。技術的に難しい道を選び続けてきた前例がある。
ARC Raidersに関する公式ブログには、もうひとつ重要な記述がある。「公式ではない入力デバイスを使うプレイヤーが、ゲームを諦めずに済むように」という文言だ。これは身体的な事情で標準的なコントローラーを使えないプレイヤーへの配慮を意味する。Apex Legendsのように一律遮断を選べば、こうしたプレイヤーも排除されることになる。
Embarkが見ている「フェアプレイ」は、単にチーターを排除することではない。正規プレイヤーの保護 まで含めた、より複雑な問題として捉えられている。
プレイヤーが意図しているのは何か。我々が見たい信号はそれだ。アクセシビリティの正規利用とその悪用を、テレメトリと通信パターンの分析で見分けようとしている。(公式ブログより意訳)
残された疑問と、これから注視すべきポイント
とはいえ、楽観だけでは済まない。ProtonDBの最新レポートを読んでいくと、Linuxユーザーからの不安要素も見える。マウスフォーカスが外れる、メニューでフリーズする、テクスチャの読み込みが遅れる、といった報告が散見される。CachyOSのフォーラムでは「ゲームがロビーに入るまで6回起動し直す必要がある」という投稿も上がっており、ARC RaidersのLinux体験は「動くが不安定」な段階にある。
新しいカーネルレベルアンチチートのテストが、こうしたLinuxでの不具合を悪化させる可能性は否定できない。Embarkが「Linuxを切る」と決断する未来も、ゼロではない。それでも現時点では、同社が「切らずに済む方法」を真剣に探っている姿勢が、公式ブログとProtonDBの実績の両方から読み取れる。
ARC Raidersは2025年10月のローンチ以来、累計で 28万件超 のレビューを集める人気タイトルになった。全期間のSteam評価は「非常に好評」で84%が肯定的。ただし直近30日のレビューは「賛否両論」に転じており、チート被害への不満が一定数を占める。4月28日にリリースされた大型アップデート「Riven Tides」では新マップ「パノラマ・アズーロ」が追加され、コンテンツの厚みも増した。この勢いを保ちながらチート問題に対処できるかが、Embarkの本当の試金石になる。
カーネルレベルでの監視を強めながらも、機械学習でグレーゾーンを丁寧に切り分け、特殊な入力デバイスの使い手を守る。技術的に最も難しいこの三本立ての選択を、Embarkはどこまで貫けるのか。Linuxユーザーにとっては、『Apex Legends』とは違う道が開けるかもしれない。
参照元
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