Bazzite 44、ハンドヘルド版を公開。制御スタックをSteamOS互換に全面刷新

ゲーミングLinux「Bazzite」がハンドヘルドPC向けの大型アップデートを公開した。コントローラーやTDP制御がSteamOS互換スタックに置き換わり、カーネルもLinuxゲーミング8団体が共同開発するOGCカーネル7.2に移行した。

Bazzite 44、ハンドヘルド版を公開。制御スタックをSteamOS互換に全面刷新
Bazzite

ゲーミングLinux「Bazzite」がハンドヘルドPC向けの大型アップデートを公開した。コントローラーやTDP制御がSteamOS互換スタックに置き換わり、カーネルもLinuxゲーミング8団体が共同開発するOGCカーネル7.2に移行した。


4か月の開発を経てハンドヘルド版が到着

Bazzite(バザイト)はFedoraベースのゲーミング特化Linuxで、Steam DeckやROG Ally、Legion Goなど幅広いハンドヘルドPCで動作する。SteamOSが公式対応していないデバイスにとっては事実上の選択肢として存在感を増してきたOSでもある。

そのBazzite 44のデスクトップ向けイメージは4月末にリリースされていたが、ハンドヘルドPC向けの「Deck」イメージは公開が遅れていた。ハンドヘルドの制御スタックを根本から作り替える必要があり、Bazziteリポジトリだけで700件超のコミットが投入された。開発元のUniversal Blueはこれを「プロジェクト史上最大のアップデート」と位置づけている

Bazzite

今回のリリースで、デスクトップ向けとDeck向けで分かれていた更新サイクルが統合される。今後は全イメージが同時にアップデートされる。

SteamOS互換スタックへの全面移行

ハンドヘルド版の最大の変更点は、これまで使っていたHandheld Daemon(HHD)を廃止し、SteamOSと共通のコンポーネントに切り替えたこと。新しいスタックは4つの要素で構成される。

Bazzite 44 Deckイメージ 主要変更点
対象変更内容
ハンドヘルドスタック(HHDから全面移行)
コントローラーInputPlumber
TDP・RGBSteamのQAMに統合
電力制御PowerStation
UI拡張OpenGamepadUI
カーネル・基盤
カーネルOGC 7.2.0
VRAM管理オーバーコミット対応
映像出力HDMI 2.1 FRL/ALLM/VRR
ツール・運用
GPU切替Cardwire
アプリストアBazaar
セキュリティOpenSSF採用、署名済み
※ハンドヘルドスタックはHandheld Daemon(HHD)からSteamOS互換の4コンポーネントに移行。OGCカーネルはアップストリームファーストの共用カーネル

InputPlumberはSteamOS、ChimeraOS、Nobaraなど複数のディストリビューションで採用されている共通フレームワークで、BazziteがHHDからここに合流した形になる。OpenGamepadUIはValve以外のハンドヘルドでデフォルト有効になっており、ujust configure-opengamepaduiで切り替えられる。

この移行によって、TDP制御とRGB制御がSteamのQAM(クイックアクセスメニュー)から直接操作できるようになった。Steam Deckと操作感を揃えることで、ROG AllyやLegion Goで「ゲームモードから出ずに設定を完結させる」体験を実現しようとしている。

ただ、移行に伴う一時的な制限もある。一部デバイスではファン制御が効かなくなっており、OpenGamepadUI向けのプラグインで復旧する予定。開発元は「すべてのハンドヘルドは手動制御がなくても十分冷却できる設計になっている」としつつ、プラグインが完成するまではファンが想定より騒がしくなる可能性に言及している。初代Legion Goではジャイロが一時的に使えなくなっており、パッチで対応が進んでいる。

バージョン43からのアップグレードでは、Fedoraのメジャーバージョンとハンドヘルドスタックの両方が切り替わる。事前に現在のデプロイメントをピン留めしておくことが推奨されており、セッション管理の変更により43へのロールバックには手動操作が必要になる。Deckイメージの自動更新は無効で、ユーザーが準備できたタイミングで手動適用する仕組みになっている。

「ゲーマーカーネル」を終わらせる

カーネルにも大きな変更が入った。Bazziteはこれまで独自のカーネルを維持していたが、パッチの多くにLinuxカーネル本体への統合パスがなかった。メンテナンスコストが膨らみ、他のディストリビューションと成果を共有する手段もない。

この構造を変えるため、Bazzite 44ではOpen Gaming Collective(OGC)が開発する共用カーネルに全面移行した。バージョンはOGCカーネル7.2.0。Linuxカーネルの安定版メンテナーであるグレッグ・クロー=ハートマン(Greg Kroah-Hartman)氏のstableリポジトリに直接ビルドされている。

OGCカーネルの原則はアップストリームファーストにある。すべてのパッチはLinuxカーネル本体への統合を前提とし、一時的なパッチは許容されるが、恒久化は認めない。Bazziteの創設者カイル・ゴスポドネティッチ(Kyle Gospodnetich)氏はこの方針について、各ディストリビューションが独自にパッチを抱え込む「ゲーマーカーネル」という概念を終わらせるものだと述べている。カーネル開発者からの直接的なフィードバックを受けながら長期にわたって準備を進めてきた結果であり、リリースに時間がかかった理由の一つでもある。

OGCは2026年1月に発足した共同体で、Universal Blue(Bazzite)、ASUS Linux、ShadowBlip、PikaOS、Fyra Labsが創設メンバーとして参加し、ChimeraOS、Nobara、winesapOSが戦略パートナーとして連携している。

Open Gaming Collective 参加団体
団体概要
創設メンバー
BazziteゲーミングOS(Fedora系)
ASUS LinuxASUSハードウェア対応
ShadowBlipハンドヘルド向けツール
PikaOSゲーミングOS(Debian系)
Fyra LabsUltramarine / Terra
戦略パートナー
ChimeraOSコンソール型ゲーミングOS
NobaraゲーミングOS(Fedora系)
winesapOSUSB起動型ゲーミングOS
※2026年1月発足。OGCカーネル・InputPlumber・Gamescope等の共通基盤を共同開発。アップストリームファーストの方針で、パッチはLinuxカーネル本体への統合が前提

OGCカーネルは現時点でDebian、Fedora、Archの3ディストリビューションでビルド可能。セキュアブートに対応し、カーネルのtarballはkernel.orgの署名鍵で検証される。

デスクトップにも届く変更

Deck向けの開発中に蓄積された改善がデスクトップ向けイメージにも反映されている。

VRAM管理では、VRAMオーバーコミットとdmem cgroupの両パッチセットがカーネルに含まれた。前面で動いているゲームにVRAMの優先権が与えられ、物理VRAMを超えて使おうとした場合もクラッシュではなくバックグラウンドのプロセスが先に退避する仕組みになる。ユーザーが設定する必要はなく、Bazziteが自動で有効化する。

AMD GPU向けにはHDMI 2.1のFRL(固定レートリンク)、ALLM(自動低遅延モード)、VRR(可変リフレッシュレート)サポートが追加された。ハンドヘルドやHTPC(テレビに接続して使うPC)を外部ディスプレイにつなぐ際に意味を持つ機能で、現時点ではBazzite Portalまたはujustコマンドから手動で有効化する形になっている。

ツール面では、GUIベースのBazzite Updater(コントローラー操作対応、ゲームモードにも追加可能)、BazaarフラットパックストアのGNOME Circle入り(バックグラウンドRAM使用量は最小3MB)、そしてBazzite Portalの全面書き直しが入った。これまでujustコマンドでしか触れなかった設定項目(GRUBのタイムアウト、CEC、AMD VRR切り替えなど)がGUIから操作できるようになり、初回ログイン時にPortalが自動起動する。マルチGPU環境向けには、switcherooやsupergfxctlに代わるCardwireが導入された。

セキュリティ面ではOpenSSFの勧告を全面採用し、ビルドワークフローはゼロ権限から始まる。イメージはsigstoreのcosignでダイジェスト単位で署名され、SBOM(ソフトウェア部品表)とビルド来歴の証明が同梱される。利用するサードパーティリポジトリもTerra、Negativo17、CachyOS copr、Universal Blue coprの4つに絞り込まれた。

NVIDIAユーザー向けには、イメージ更新後にFlatpakランタイムが自動で更新されるようになった。Maxwell・Pascal・Volta世代のGPU向けレガシードライバーイメージ(580 LTS)はOGC LTSカーネルに移行し、NVIDIAがこのドライバーブランチの更新を停止した後もできる限り長く延命させる意図がある。

Flathubの3割を動かすプロジェクト

Universal Blueは今回の発表で5周年を迎えたことにも触れた。週間アクティブデバイス数は11万を超え、BazziteユーザーだけでLinuxアプリ配信基盤Flathubのトラフィックの30%を占めるまでに成長している。195人の貢献者がプロジェクトに関わっている。

今回のリリースではARM向けハンドヘルドOS「Armada」への公式リダイレクトも始まった。Bazziteの公式サイトでARM端末を選ぶとArmadaが案内される。自前ですべてを抱え込むのではなく、x86に集中しながらARM領域はArmadaに委ねる判断になる。

OGCカーネルの共有、Armadaへの委譲、Flathubでの存在感。個々のプロジェクトが孤立して車輪を再発明し続ける時代から、共通基盤の上に立つ時代へ。Bazzite 44のDeckイメージは、その転換の最初の大きな成果物として届いた。

Bazziteは公式サイトからダウンロードできる。

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