Starshipシップキャッチ、「数ヶ月先」に後退
SpaceXのイーロン・マスク氏は上場後初の決算説明会で「次のフライトでシップをキャッチする」と投資家に宣言したが、「数ヶ月先」へ後退した。完全再利用という株式公開時の約束を、Starshipはまだ果たせていない。
SpaceXのイーロン・マスク氏は上場後初の決算説明会で「次のフライトでシップをキャッチする」と投資家に宣言したが、「数ヶ月先」へ後退した。完全再利用という株式公開時の約束を、Starshipはまだ果たせていない。
「次のフライト」から「数ヶ月後」へ
現地時間8月20日、イーロン・マスク(Elon Musk)氏はXに投稿した。
We will probably catch the ship with the tower in a few months.
(タワーでのシップキャッチは数ヶ月後になるだろう)
16日前の発言とは調子が違う。
7月24日 Flight 13、上段は成功・下段は硬着水 Starlink V3衛星20機の放出に成功。上段は初めて無傷で着水。下段は着陸燃焼に失敗しメキシコ湾に衝突 7月25日 マスク氏「次のフライトでキャッチ」 Flight 13直後、「データ確認後に問題がなければ次で試みる」と表明 8月4日 決算説明会で投資家に宣言 「次のフライトでシップのキャッチを試みる。8月末を予定」。ヒートシールド問題は「解決した」とも発言 8月20日 マスク氏「数ヶ月後」に後退 シップキャッチを「数ヶ月先」に先送り。Ship 41の静的燃焼試験は実施 9月以降 Flight 14(延期) 当初8月末予定→9月末以降にずれ込み。初の運用軌道到達とStarlink V3展開を目指す |
8月4日に行われたSpaceX(スペースX)上場後初の四半期決算説明会で、マスク氏はこう述べていた。
I'd say things look very good. And that's why we, assuming we receive regulatory approval to do so, will attempt to catch the ship with the tower on the next flight, which is tentatively scheduled for the end of this month.
(状況は非常に良い。規制当局の承認を前提に、次のフライトでシップのタワーキャッチを試みる。暫定的に今月末を予定している)
「次のフライトで」が「数ヶ月後に」になった。Starship(スターシップ)のスケジュール後退は珍しくないが、上場企業の決算説明会で投資家に語った内容がわずか2週間余りで修正された点は、これまでの延期とは性質が異なる。
マスク氏は投稿の中で、シップの再飛行についても言及している。
First reflight of the ship will be either end of this year or early next. That will be a fork in the road of history for consciousness reaching the stars.
(シップの初の再飛行は今年末か来年初め。意識が星に届く歴史の分岐点になる)
同日、SpaceXはStarshipでRaptor(ラプター)エンジン1基の静的燃焼試験を実施し、その様子を公開した。軌道ミッションで必要になるデオービットバーン(軌道離脱噴射)を模擬する試験で、次のFlight 14(第14回飛行試験)に向けた準備の一環になる。
Flight 13が残したもの
なぜ後退したのか。前回のFlight 13で何が起きたかを見ればわかる。
2026年7月24日(日本時間25日)、Starshipの第13回飛行試験が行われた。第3世代(V3)機体としては2回目の飛行で、試験項目の大部分を達成している。上段のStarship宇宙船は6基のRaptorエンジンすべてが正常に稼働し、次世代通信衛星Starlink V3の20機放出、宇宙空間でのエンジン再点火、インド洋への軟着水に成功した。
注目すべきは着水後に起きたことにある。これまでの飛行試験では、着水後にStarship宇宙船は爆発で失われていた。Flight 13では機体が初めて無傷のまま残った。SpaceXにとっても想定外の結果で、もともと海上回収の準備はしていなかった。結局、約24日間にわたって洋上を漂流した機体を、回収チームがクリスマス島沖まで曳航した。Starshipが設計上想定していない運用になる。
一方、1段目のSuper Heavy(スーパーヘビー)ブースターはメキシコ湾への着水で問題を起こしている。着陸燃焼に使う中央13基のうち再点火できたのは10基で、最終的に5基だけが稼働した状態で水面に衝突した。
この結果がシップキャッチ延期の背景にある。マスク氏は決算説明会で「ヒートシールドの問題は解決したと考えている」とまで述べ、上段の成績を根拠にFlight 14でのシップキャッチ挑戦を表明していた。ところが、Flight 14のスケジュール自体が当初の「8月末」から9月末以降へずれ込み、シップキャッチも見送りとなった。
マスク氏自身がこの投稿で認めている。
This absorbs more of my mental energy than probably any other single thing. But it is so preposterously difficult that there are times where I wonder whether we can actually do this.
(ほかの何よりも多くの精神的エネルギーを吸い取られている。とてつもなく難しく、本当にできるのかと思う瞬間がある)
完全再利用という約束
SpaceXは2026年6月にNasdaq(米株式市場)に上場した。株価は初値150ドルから、決算発表時までに16%下落していた。
上場後初の四半期決算では、2026年第2四半期の売上高78.1億ドル(前年同期比92%増)、純損失5.41億ドルを計上した。売上高はアナリスト予想を上回ったものの、AIコンピュート基盤への巨額投資が嫌気され、決算発表後にさらに株価は下落している。
投資家に対してSpaceXが繰り返し強調してきたのは、Starshipの完全再利用による経済性にある。1段目のSuper Heavyブースターは、2024年10月の第5回飛行試験で初めてタワーの機械式アーム(通称「チョップスティック」)によるキャッチに成功しており、その後も実績を積んでいる。
残るのが2段目のシップになる。高度100km以上から大気圏に再突入し、秒速数kmの速度を殺しながらピンポイントで帰還させる技術は、ブースターキャッチとは桁違いの難しさを持つ。海から引き揚げるのではなくタワーで捕まえて、整備して再び飛ばす。その回転速度が、SpaceXの経済モデルの前提になっている。
NASAのアルテミス計画も、Starshipの信頼性と打上げ頻度に依存している。アルテミスIIIは2027年に低軌道でオリオン宇宙船と商用月面着陸実証機のランデブー・ドッキングを試験する計画で、シップキャッチはこの実証には必須ではない。しかし2028年のアルテミスIVでの有人月面着陸には、月面着陸機の軌道上燃料補給のためにStarshipを何度も打ち上げる必要があり、高い打ち上げ頻度が求められる。
マスク氏のスケジュール後退は今に始まったことではない。Starshipの開発では、予告された節目が繰り返しずれてきた。ただ今回は、非公開企業時代の発言ではなく、上場企業のCEOとして決算説明会の場で投資家に向けて語った内容の修正になる。Starshipが「星への分岐点」に到達する日は、またしても鉛筆で書き直される。