Claudeに何が起きているのか。6月の障害記録を読む
「最近Claudeがおかしい」。そう感じているなら、確認すべき事実がある。6月に入ってからAnthropicのインフラでは連日のように障害が発生しており、公式が認めたものだけで20件を超える。そしてステータスページの「Resolved(解決済み)」は、エラー率の回復を意味するだけで、応答品質の回復を保証するものではない。
6月12日を境に何が変わったか
6月12日午後5時21分(米東部時間)、米商務省がAnthropicに輸出規制指令を出した。Fable 5とMythos 5への外国籍ユーザーのアクセスを即時停止せよ、という内容だった。
Anthropicは国籍ベースのアクセス制御をリアルタイムで実行する仕組みを持っていなかった。部分的な対応では規制違反のリスクがあるため、全ユーザーに対して両モデルを無効化した。日本のユーザーも、米国のユーザーも、同じタイミングで同じ措置を受けた。
Fable 5は発表時点でPro、Max、Team、Enterpriseの全プランに追加料金なしで含まれていた。リリースからわずか3日で停止され、Anthropic自身がFable 5の代替としてOpus 4.8を推奨した。Fable 5を使っていたユーザーのトラフィックがOpus 4.8やSonnet 4.6に流れたことになる。
6月上旬にはすでに2日・5日と連続障害が起きていたインフラに、さらに負荷がかかった。
13日間で18件以上の障害
ステータスページの記録を日ごとに並べると、6月12日以降の異常さが見える。
6月13日にFable 5とMythos 5の停止がステータスに記録された。これは27日時点でも「Monitoring(監視中)」のまま解決していない。同日、別途39分間のWarningも発生している。15日には1時間54分。16日は1日のうちに4件のインシデントが重なり、全Sonnet・Opusモデルでエラー率が約10%に達した。修正を試みるたびに再発し、Opus 4.8は数時間にわたってエラーが続いた。
17日も3件。19日も2件。20日にはユーザーの画面に「Due to unexpected capacity constraints, Claude is unable to respond to your message(予期せぬ容量制約のため、Claudeはメッセージに応答できません)」と表示された。Anthropic自身がインフラの限界を事実上認めた表現だ。
22日のインシデントが決定的だった。Opus 4.8、Opus 4.7、Opus 4.6、Sonnet 4.6、Haiku 4.5。claude.ai上で利用可能な全モデルの名前がインシデント報告に並んだ。特定モデルの不具合ではない。全モデルに共通するインフラレイヤーで障害が起きている。
23日は米国だけでDowndetectorの報告が7119件に達した。Claude for Governmentを除く全サービスが影響を受け、修正に3時間以上かかった。24日もOpus 4.8で2件。25日には独立監視サービスTickerrがHaiku 4.5のレイテンシがベースラインの2.2倍に上昇していることを検出したが、公式ステータスには記載されなかった。
13日間で公式記録だけで18件以上。平均すると1.4日に1件の障害が発生している計算になる。
ステータスページが記録しないもの
ここからが核心になる。
ステータスページで「Resolved」と表示されるのは、エラー率が閾値を下回ったことを意味する。応答品質が元に戻ったことは意味しない。HTTPエラーとして弾かれるリクエストは、ユーザーにとっては分かりやすい障害だ。だがエラーにならないまま応答の質だけが変わるケースがあったとしても、ステータスページの仕組みではそれを検知できない。
インフラ障害時にユーザーから報告される典型的な症状は、推論が浅くなる、長い指示を最後まで処理しない、以前と同じプロンプトで異なる結果が返るといったものだ。3〜4月の品質劣化騒動でもこれらの症状が多数報告されていた。こうした現象はHTTPエラーとして可視化されないため、公式の障害記録には残らない。
なぜそれが起きるのか。インフラが逼迫すると、少なくとも3つの経路から品質に影響しうる。
ひとつはサーバーリソースの制約だ。公式にはeffortレベル(モデルの推論深度を決めるパラメータ)は変更されていないとされている。だが高負荷時にサーバーのリソースに上限がかかれば、設定上はhighやxhighでも、実際の推論の深さが制限される可能性はある。4月のポストモーテムでAnthropicが認めた「effortのデフォルトをmediumに引き下げた」問題は、製品レイヤーでの意図的な変更だった。今回はそれとは性質が異なる。インフラ負荷そのものが、同じ症状を生んでいる可能性がある。
ふたつめはルーティング。AnthropicはAWS Trainium、NVIDIA GPU、Google TPUの3種のハードウェアでClaudeを同時に稼働させている。2025年9月のポストモーテムでは、異なるコンテキストウィンドウ設定のサーバーにリクエストが誤ルーティングされるバグが確認されており、ピーク時にはSonnet 4リクエストの最大16%が影響を受けていた。負荷が上がれば、この種のルーティング問題が再発する余地はある。
みっつめはキャッシュヒット率の低下だ。プロンプトキャッシュの効率が落ちると、長いシステムプロンプトやユーザー設定の処理が浅くなる。結果として、以前は正確に読み取っていた指示の後半部分がスキップされる現象が起きうる。
Anthropicはこの種のサイレントな品質低下について、6月のインシデントに関しては何も述べていない。
4月に認めた問題と、6月に認めていない問題
4月23日のポストモーテムは重要な前例だ。Anthropicは3月4日から4月20日にかけてClaude Code・Agent SDK・Coworkの品質が低下していたことを認め、3つの原因を特定した。effortのデフォルト引き下げ、思考履歴を消去するキャッシュバグ、冗長性制限のシステムプロンプト。いずれも製品レイヤーの問題であり、モデルの重み自体は変更されていないとした。
だがこのポストモーテムにはclaude.aiのチャットインターフェースが含まれていなかった。Claude Codeの問題は認めた。claude.aiの問題は認めていない。あの時も今も。
6月に入ってからの障害頻度は4月を超えている。6月23日時点の90日間稼働率はclaude.aiで99.12%、Claude Codeで99.28%。四半期あたり19〜23時間のダウンタイムに相当する。一般的なエンタープライズSLAが求める99.9%(四半期あたり約2時間)を大幅に下回っている。
Anthropicは4月のFortune取材で「需要が前例のない速度で伸び、インフラが追いついていない」と認めている。その後、AmazonやGoogleとの提携によるインフラ増強を約束したが、6月時点で新たな容量はまだオンラインになっていない。
Fable 5が残した前例
インフラの逼迫とは別の問題がある。
Fable 5のシステムカード(319ページ)には、競合するフロンティアAI開発に使われていると判断したユーザーの応答を、ユーザーに通知せず密かに劣化させる方針が記載されていた。サイバーセキュリティや生物学に関する制限が可視的にOpus 4.8へフォールバックする設計だったのに対し、AI開発向けの制限だけは「ユーザーには見えない」形で実施すると明記されていた。
6月10日に批判が噴出し、11日にはAnthropicが方針を撤回した。「間違ったトレードオフだった」と謝罪し、フラグされたリクエストは可視的にOpus 4.8にフォールバックする形に変更した。
だが撤回されたことよりも、実装されたことの方が重い。Anthropicは「ユーザーに気づかれない形でモデルの出力品質を操作する」ことを技術的に実装し、方針として承認していた。Fable 5に限った話だとAnthropicは主張しているが、同じ技術がOpusやSonnetに適用されていないかどうかについて、公式の否定も確認も出ていない。
アーティファクトの仕様についての疑問
品質とは別に、claude.aiのアーティファクト機能(会話中にコードやドキュメントを別パネルに出力する機能)にも変化が報告されている。
現在の公式ヘルプには「We no longer support artifacts without Code execution and file creation enabled(コード実行とファイル作成を有効にしないアーティファクトはサポートしない)」と書かれており、アーティファクトを使うには「設定 → 機能 → コード実行とファイル作成」をONにする必要がある。「We no longer support(もうサポートしない)」という表現は、以前はこの設定なしでもアーティファクトが利用できたことを示唆している。だが、この変更がいつ適用されたのか、公式のアナウンスは見つからない。
GitHub上では、「コード実行とファイル作成」のトグルがディープリサーチの処理、ファイル生成、インタラクティブアーティファクトを一括で制御しており個別に切り替えられないことへの不満が報告されている。
日本のユーザーに影響はあるのか
ある。6月23日の障害はClaude for Governmentを除く全モデル・全プラットフォームに及んだと報じられている。Claude for Governmentだけが影響を免れたということは、それ以外のclaude.aiユーザーは地理に関係なく同じ障害の影響下にあったことになる。6月22日の全モデル同時障害も、23日のDowndetector報告7119件も、日本からのアクセスが除外されていた記録はない。
独立監視サービスStatusGatorの6月26日の報告には、東京からの「Slow performance(パフォーマンス低下)」という報告が含まれている。公式インシデントには記録されていないが、日本からのアクセスでもレスポンスの遅延は発生している。
日本時間の日中は米国の深夜にあたるため、ピーク負荷の直撃は避けやすい。だが6月後半のように障害が連日・長時間化すると、時間帯の恩恵はほぼ消える。
何が分かっていて、何が分かっていないか
分かっていることを整理する。
6月12日以降、Anthropicのインフラは2026年で最も不安定な状態にある。全モデルが同時に影響を受ける障害が複数回発生し、6月23日時点の90日間稼働率はエンタープライズ水準を下回った。Fable 5の停止がトラフィック集中を招き、負荷を悪化させた。Anthropic自身が「需要にインフラが追いついていない」と認めている。
分かっていないことは、インフラ負荷がエラー以外の形で応答品質にどの程度影響しているか、Anthropicは公式には何も述べていない。Fable 5で確認された「不可視の品質操作」技術がOpusやSonnetに適用されているかどうかも、否定も確認もされていない。
Claudeに違和感を覚えた時期と、公式の障害記録は重なっている。因果関係をAnthropicは公式に認めていないが、障害の頻度と規模は記録に残っている。判断の材料はある。
他参照:TechTimes「Claude Accuracy Degradation After Fable Ban」(6月14日)
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