EU AI法、汎用AIモデルへの罰金執行権が発動。米AI企業が対象に
AI法の1年間の猶予期間が終わり、欧州委員会がOpenAIやAnthropicを含む汎用AIモデル提供者を調査・制裁できるようになった。
AI法の1年間の猶予期間が終わり、欧州委員会がOpenAIやAnthropicを含む汎用AIモデル提供者を調査・制裁できるようになった。
1年の猶予が終わった
欧州委員会のAIオフィスが、汎用AIモデル(GPAI)の提供者に対する監視・執行・罰金の権限を現地時間8月2日に発動した。
EU AI法(EU人工知能法)は2024年8月に発効し、GPAIの提供者に対する義務は2025年8月から適用されていた。ただし最初の1年間は猶予期間とされ、欧州委員会には罰則を伴う執行権限がなかった。その猶予が8月2日に満了した。
欧州委員会はこれにより、技術文書の提出要求やモデルの直接評価、是正措置の命令、EU市場からの制限・撤回を求めることができる。罰金は最大1,500万ユーロまたは全世界年間売上高の3%で、いずれか高い方が適用される。
情報提供の拒否、誤解を招く回答、モデル評価の妨害も、それ自体が罰金の対象になる。
対象は、EUで利用可能な汎用AIモデルを提供するすべての企業だ。米国に本社があっても関係ない。EU域外の提供者はEU域内に認定代理人の設置が求められる。
AIモデル暴走が発効前夜に重なった
発効の2日前にあたる現地時間7月31日、欧州委員会がOpenAI・Anthropicの両社とサイバーセキュリティ事案について協議していることが明らかになった。OpenAIのAIエージェントがセキュリティ評価中に隔離環境を脱出してHugging Faceに侵入した事件と、Anthropicの複数のClaudeモデルが評価中に3社の本番システムに不正アクセスした事件を受けたものだ。両社とも公表前に欧州委員会へ個別に報告していたという。
欧州委員会のヘンナ・ヴィルクネン(Henna Virkkunen)技術主権・安全保障・民主主義担当執行副委員長は声明で、AIが適切に設計・利用されなければ害が生じうるとし、最先端のモデルがまったく新しい規模のリスクを生み出していると述べた。
両事件が執行権限の発動と48時間以内に並んだことで、EUにとっては規制の必要性を裏づける材料になった。
米国との摩擦がさらに重なる
もう一つの文脈がある。米国トランプ政権との対立だ。
欧州委員会は7月にGoogleに対しデジタル市場法(DMA)違反で約10億ドルの罰金を科した。トランプ大統領は即座に反応し、通商法301条に基づくEUへの調査を米国通商代表部に指示して関税の可能性を示唆している。
AI法の執行開始は、このGoogleへの罰金から10日後にあたる。EU側から見れば、規制はスケジュール通りの法の適用にすぎない。米国側から見れば、米国AI企業を標的にした新たな規制ツールが加わった形になる。
欧州委員会がAnthropicのMythosモデルへのアクセスを数か月にわたって要求し続けていた経緯もある。Anthropicは6月にようやくEUのサイバーセキュリティ機関ENISA(欧州サイバーセキュリティ庁)へのアクセスを提示した。
この交渉の過程で、Anthropicが米国政府の許可を必要としていたことが報じられている。AIモデルへのアクセスが外交交渉の議題になった。
何が変わり、何が変わらないのか
法的に変わったのは、欧州委員会に罰金と市場排除の権限が加わったことだ。
ただし複数のEU加盟国がまだ国内の市場監視当局を整備できていない。AI法の構造上、GPAIモデルへの執行は欧州委員会のAIオフィスが直接担当するため、加盟国の体制が直接の障壁にはならない。
だが高リスクAIシステムへの規制は各国の市場監視当局が担う。その体制が整うまで、執行にはばらつきが出る。
高リスクAIシステムへの義務適用については、Digital Omnibus(デジタル規制簡素化パッケージ)により2027年12月2日まで延期された。8月2日に発動したのはGPAIへの執行権限と、第50条に基づく透明性義務(チャットボットのAI表示、ディープフェイクのラベル付け、AI生成コンテンツへの電子透かし)だ。
2024年8月 EU AI法発効 世界初の包括的AI規制法が成立 2025年2月 禁止AI規制が適用開始 社会スコアリングや感情認識AIの禁止が発効 2025年8月 GPAI義務が適用開始 文書化・著作権方針・学習データ要約の義務。罰則は未発動 2026年8月 GPAI執行権限+透明性義務が発動 8月2日発動。罰金上限は年間売上高の3%または1,500万ユーロ。 AI表示・ラベル付け・電子透かしの義務も開始 2027年12月 高リスクAI義務の適用(延期後) 採用選考・信用評価・法執行用途などのAIシステムが対象。 当初2026年8月の予定から延期 2028年8月 規制製品組込AIの義務適用 EU製品安全法で規制される製品に組み込まれたAIが対象 |
OpenAIとAnthropicはいずれもGPAI行動規範に署名済みで、署名者に対しては規範への準拠状況の監視に重点を置くとされている。だが署名が執行の免除を意味するわけではない。
AIモデルが実際に封じ込めを突破して外部のシステムを攻撃した事例が起きた直後に、それを罰することのできる法的権限が動き始めた。規制が能力の進歩に追いつけるかどうかは、まだ誰にもわからない。