AIモデルテスト合意の詳細、米商務省サイトから削除

5月5日に華々しく発表されたGoogle、xAI、MicrosoftとのAIモデル安全性テスト合意。その詳細ページが、わずか6日後に米商務省サイトから消えた。背景にあるのは、ホワイトハウス内部での評価主導権を巡る争いだ。

AIモデルテスト合意の詳細、米商務省サイトから削除

5月5日に華々しく発表されたGoogle、xAI、MicrosoftとのAIモデル安全性テスト合意。その詳細ページが、わずか6日後に米商務省サイトから消えた。背景にあるのは、ホワイトハウス内部での評価主導権を巡る争いだ。


突然消えたページ、戻ったのはCAISIのトップ

米商務省は現地時間5月11日、Google、xAI、MicrosoftとのAIモデル安全性テスト合意について、ウェブサイトから関連ページを削除した。ロイターのコートニー・ローゼン(Courtney Rozen)記者が同日報じた。

問題のリンクは商務省が5月5日に発表した内容に紐づいていたもので、月曜午後の時点で「ページが見つかりません」と表示され、その後はCAISI(AI標準・イノベーションセンター)のトップページに転送されるようになっていた。CAISIは商務省傘下のNIST(米国立標準技術研究所)内に置かれた組織で、まさにこのテストを担当する機関にあたる。

削除されたのは合意そのものではなく、合意の詳細を公開していたページだ。テスト自体が中止になったわけではない。だが、政府の透明性という観点では、わずか6日前に華々しく打ち出した協業内容が、説明なしに公開記録から消えた事実は重い。

商務省とホワイトハウスは、ロイターの取材に対し現時点でコメントを出していない。

5月5日の合意とは何だったか

そもそも5月5日に発表された合意は、Google DeepMind、Microsoft、xAIの3社がAIモデルを一般公開する前にCAISIへ提供し、政府の科学者が安全性脆弱性を検査できるようにするというものだった。Anthropic、OpenAIとの2024年からの既存合意を更新する形で範囲を広げ、米国の主要なフロンティアAIラボすべてを公開前評価の枠組みに取り込んだ点が目新しかった。

CAISIディレクターのクリス・フォール(Chris Fall)氏は同日の声明で、「独立した厳密な計測科学はフロンティアAIとその国家安全保障上の含意を理解するうえで欠かせない」と述べていた。すでに同センターは40件以上のモデル評価を実施しており、未公開モデルも対象に含まれていた。

この合意が急に動いた直接の引き金は、AnthropicのAIモデル「Mythos」だ。サイバー攻撃を加速させるほど強力な脆弱性発見能力を持つとされ、Anthropicは一般公開を見送った。Mythosの登場は、長らくAI規制に消極的だったトランプ政権の姿勢を一気に揺さぶる契機になったとみられている。

Anthropicが「サイバー能力で他のモデルを大きく引き離している」とまで形容するMythosは、銀行・公益事業者・各国政府を巻き込んだ警戒の波を生んだ。同社は限られた組織にしかアクセスを認めず、米政府高官には能力の説明を行ったとされる。

なぜページは消えたのか

ここからが事の核心だ。ワシントン・ポストのキャット・ザクシェフスキ(Cat Zakrzewski)記者は、ページ削除の理由について「ホワイトハウスの国家サイバーディレクター室(ONCD)内の懸念」であり、「AI評価を巡る政権内の縄張り争い」が背景にあると報じた。

つまり、削除はミスや更新作業ではない。政府内部の権限争いの結果として、合意の中身が公開記録から外された可能性が高い。商務省のCAISIと、ホワイトハウスのONCD。どちらの組織がフロンティアAIモデルの安全評価を主導すべきか。情報当局はAI政策への関与を強めたい。一方の商務省は、自分たちが「業界の主要窓口」だという立場を譲りたくない。

ONCDを率いるのは2025年8月に上院承認されたショーン・ケアンクロス(Sean Cairncross)氏。共和党全国委員会で運営責任者を務めた経歴を持つ、トランプ政権下で初めて承認されたサイバー高官だ。技術的バックグラウンドの薄さが指名時に議論を呼んだ人物でもある。一方のCAISIは4月末にエネルギー省高官だったクリス・フォール氏を新ディレクターに迎えたばかりで、Anthropic出身の前任者は就任わずか4日で外されたと報じられている。

組織の若さ、トップの新しさ、そして「業界の主要窓口」というCAISIの位置づけ。これらが重なったところに、Mythosで急に政治的な重みを増した「AIモデル評価」という権限が乗ってきた。引き金は揃っていた。

AIガバナンス研究者のマイルズ・ブランデージ(Miles Brundage)氏は、「報道が正確だとすれば、ゼロサム的な発想は気がかりだ。CAISIと情報コミュニティは、どちらも重要で異なる役割を担えるはずだ」とXで指摘した。

透明性が試される局面

トランプ政権はこれまで、AIに対しては「軽い規制」「イノベーション優先」を掲げてきた。それがMythosを契機に大統領令で事前審査を制度化する方向へと姿勢を変えつつある、というのが過去1か月の報道の流れだ。

4月のMythos登場以降、政権の姿勢は事前審査の検討へと傾いてきた。その流れの中で打ち出された主要5社の合意ページが、わずか6日後に説明なく公開記録から消えた。

その移行の最中に起きたのが、今回の削除だ。米国の主要なフロンティアAIラボを取り込んだAI事前評価の枠組みが、拡張からわずか6日で公開記録から見えなくなった。AIの安全性を守るために設けられた仕組みが、政府内部の調整不足を理由に、説明なしに消える。透明性を高めるはずの政策が、透明性を損なう形で表に出てしまった。

・ ・ ・

CAISIとONCDのどちらがAI評価を主導するにしても、最終的に問われるのは「誰が独立して厳密に検査できるか」だ。組織間の主導権争いが、検査の中身を覆い隠す壁になってはならない。次に公開される情報が何で、何が公開されないのか。そこに、この政権のAIガバナンスの本気度が映る。


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