フォックスコン、北米工場サイバー攻撃を認める
ランサムウェアグループのナイトロジェンがフォックスコンから8TB・1100万件超のファイルを盗んだと主張している。同社は5月12日、北米の一部工場でサイバー攻撃を受けたと公式に認めた。
世界最大のEMSがまた狙われている
フォックスコン(Foxconn)の北米工場が、またサイバー攻撃を受けている。同社は5月12日、北米の一部工場でサイバー攻撃を受けたと公式に認めた。攻撃を主張しているのはランサムウェアグループのナイトロジェン(Nitrogen)で、8テラバイトのデータ、ファイル数にして1100万件以上を盗んだと主張している。
フォックスコンはApple、Google、NVIDIA、Dell、Intelなど、世界の名だたるハードウェア企業の製造を請け負う台湾の鴻海精密工業を中核とするEMS最大手だ。北米にはウィスコンシン、オハイオ、テキサス、バージニア、インディアナ、そしてメキシコ各地に工場を構えている。攻撃を認めた声明では「サイバーセキュリティチームが直ちに対応メカニズムを発動し、生産と納品の継続性を確保するため複数の運用措置を実施した。影響を受けた工場は現在、通常生産を再開しつつある」と述べている。
世界の主要テック企業のサプライチェーンが、また一つ揺さぶられた格好になる。
ウィスコンシン工場で何が起きていたのか
時系列を整理する。ウィスコンシン州マウントプリーザントにあるフォックスコンの工場では、5月1日未明から異変が始まっていた。第3シフトの作業員が生産を停止し、ネットワーク障害が発生。朝7時に出勤した第1シフトの作業員はWi-Fiが使えない状況に直面し、午前11時には管理職から帰宅を命じられたという。
その後、複数日にわたり生産が停止する。タイムカード端末は使えず、従業員は紙のタイムシートで勤務時間を記録する事態となった。5月5日には第1シフトの生産がキャンセルされ、5月8日にフォックスコンは「IT系統の技術的問題が業務に影響している」と認めた。ただし原因については沈黙を保ち続けた。
そして5月11日、ナイトロジェンがダークウェブのリークサイトにフォックスコンを掲載し、8TBのデータ窃取とサンプル画像を公開した。マウントプリーザント工場の作業員からは、ネットワーク完全停止の様子が伝わってきた。
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5月1日
未明 第3シフトで生産停止
ネットワーク障害が発生し、深夜帯の作業が止まる
5月1日
午前 Wi-Fi使用不可、作業員が帰宅
7時に出勤した第1シフトはネットワークに接続できず、11時に管理職が帰宅を指示
5月1〜4日
生産停止が複数日継続
タイムカード端末が使えず、従業員は紙のタイムシートで勤務時間を記録
5月5日
第1シフトの生産がキャンセル
障害は5日目に入っても解消せず
5月8日
「IT系統の技術的問題」を認める
原因については沈黙を保ったまま、業務影響のみ公表
5月11日
ナイトロジェンがダークウェブで公開
8TB・1100万件超のデータ窃取を主張、サンプル画像を公開
5月12日
フォックスコンが北米工場攻撃を認める
影響を受けた工場は通常生産を再開しつつあると公式声明
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コンピュータの電源を切り、いかなる状況でもログインし直すなと言われた。タイムカード端末は死んでいて、勤務時間を記録するために紙のタイムシートを書いていた。
匿名を条件に取材に応じた工場作業員の証言だ。情報システムの完全停止という事態は、表向きの「技術的問題」という言葉では到底覆い隠せない深刻さを物語る。
漏洩したとされるデータの中身
ナイトロジェンが公開したサンプルファイルを分析した複数のセキュリティ研究者によれば、流出が疑われるデータには相当な機密性を帯びたものが含まれていた可能性がある。組立指示書、ハードウェアの回路図、データセンターのネットワーク構成図。具体的にはGoogleとIntelのデータセンター向けトポロジー図、Apple、NVIDIA、Dell向けのコンポーネント設計図、Foxconnテキサス州ヒューストン工場の財務関連書類、温度センサーや集積回路、基板レイアウトに関する資料などが確認されているという。
ハードウェア設計図の漏洩は、競合他社による製品のリバースエンジニアリングを可能にするほか、攻撃者がコンポーネントの脆弱性を突くゼロデイ攻撃の手がかりを得る経路にもなりうる。
ただし、Apple製品については少し違う見立てがある。マウントプレザント工場はテレビとデータサーバーを主に生産する施設で、Apple製品の組立拠点ではない。サンプルファイルからもApple製品の設計図や品質管理データらしきものは見つかっていない、というのが今のところの分析だ。Apple自身の被害はおそらく軽微にとどまるとみられている。
ナイトロジェンとは何者か
ナイトロジェンは2023年から活動しているランサムウェアグループだ。研究者の見方では、リークされたContiランサムウェアのビルダーをベースにマルウェアを構築した派生グループの一つとされている。Barracuda Networksは「高度かつ金銭目的の脅威グループ」と評価している。
ここで気になるのは、ナイトロジェンのESXi向け暗号化マルウェアにはプログラミング上の欠陥があり、身代金を支払っても復号できない可能性があると指摘されている点だ。2026年2月にCovewareの研究者が警告している。被害企業からすれば交渉のテーブルにつくこと自体が無意味になりかねない。これは一見、攻撃者側の弱点に見えるが、実際には別の意味を持つ。データ窃取による恐喝、つまりリークサイトでの暴露こそが、このグループの本当の武器だということになる。
運営母体については東欧のオペレーター集団との関連が指摘されており、一部は悪名高いBlackHat/ALPHVランサムウェアカルテルとつながっている可能性もあるという。
繰り返される被害
今回が初めての話ではない。フォックスコンと関連企業の被害履歴を並べると、何度も同じことが起きていることが分かる。
2020年11月、フォックスコンのメキシコ・シウダー・フアレス工場がDoppelPaymerランサムウェアの攻撃を受けた。1200〜1400台のサーバーが暗号化され、20〜30TBのバックアップが破壊され、攻撃者は1804ビットコイン、当時のレートで約3468万ドル(現レートで約54億円)の身代金を要求した。フォックスコンはこの要求に応じず、データの一部がリークサイトで公開される結果となった。
2022年、メキシコ・ティフアナのバハ・カリフォルニア工場がLockBitの攻撃を受け、生産に影響が出た。
2024年1月には、フォックスコン傘下の半導体製造装置メーカーFoxsemicon Integrated Technologyが、これもLockBitの被害に遭った。攻撃者は5TBのデータ窃取を主張し、企業サイトを改ざんしている。
そして2026年5月、北米工場が再び攻撃を受けたことを認めた。
6年で複数のランサムウェア事件。世界最大の電子機器受託製造業者であっても、製造業のサイバーセキュリティはエンタープライズITのセキュリティ水準に追いついていないとみる向きが強い。
| 発生時期 | 対象拠点 | 攻撃グループ | 被害規模 | 身代金 |
|---|---|---|---|---|
| 2020年 11月 |
シウダー・ フアレス工場 (メキシコ) |
Doppel- Paymer |
1200〜1400台暗号化、 20〜30TBバックアップ破壊 |
3468万 ドル要求 |
| 2022年 | バハ・ カリフォルニア 工場(メキシコ) |
LockBit | 生産影響 | 非公開 |
| 2024年 1月 |
Foxsemicon (台湾子会社) |
LockBit | 5TB窃取主張、 サイト改ざん |
非公開 |
| 2026年 5月 |
北米工場 (マウントプリーザント等) |
Nitrogen | 8TB・1100万 件超を主張 |
非公開 |
製造現場のネットワークセグメンテーション、産業制御システムの保護、ベンダーアクセス管理。どれも対策の重要性は10年以上前から指摘されてきたものだが、最大手ですらこの状況にある。EMSという業態の性質上、複数の顧客企業の機密情報が一つの工場のネットワークに集約される。攻撃者から見れば、これほど効率の良いターゲットはない。
ハードウェア企業にとっての本当のリスク
今回のフォックスコン被害は、フォックスコン一社の問題で終わらない。むしろ厄介なのは、被害が下流のクライアント企業に波及する可能性のほうだ。
データセンターのネットワークトポロジー図が漏洩したとすれば、GoogleやIntelの物理・デジタル両面からの侵入計画が立てやすくなる。回路図やコンポーネント仕様が外部に出れば、世界中の模倣品製造業者を活気づかせる材料になる。サプライチェーンの末端にある工場の防御が崩れただけで、頂点にいる顧客企業まで影響が及ぶ。
セキュアだと信じていた相手は、実際にはそうではなかった。世界で最も価値のあるデータを保管する立場は、世界で最も狙われる立場と背中合わせだ。永遠に安全な状態は、どこにも存在しない。
参照元
- The Register - Foxconn confirms cyberattack after ransomware crew claims it stole confidential Apple, Nvidia files
- The Record - Foxconn confirms cyberattack impacting North American factories
他参照