FCC、中国製セルラーモジュールの禁輸を検討
トランプ大統領が習近平との北京会談に向かう直前、米国は中国製の「セルラーモジュール」全面禁輸を議論している。スマート家電からコネクテッドカーまで、影響範囲はあまりに広い。
トランプ大統領が習近平との北京会談に向かう直前、米国は中国製の「セルラーモジュール」全面禁輸を議論している。スマート家電からコネクテッドカーまで、影響範囲はあまりに広い。
北京会談の真上で動く規制議論
米連邦通信委員会(FCC)が、中国製セルラーモジュールを「Covered List(指定リスト)」に追加すべきか議論している。Financial Timesが独自に報じた内容を整理する。今週、トランプ大統領は北京で習近平国家主席と会談する予定で、その目玉は10月の釜山会談で結ばれた脆い休戦の維持と、貿易・技術摩擦の整理だ。
会談を直前に控えたこのタイミングで、FCCは中国製通信部品への締め付けを止めるどころか加速させている。他の政府機関が交渉を壊さないよう中国関連の動きを一時抑えていたという報道とは 対照的な動き だ。FCC内部だけで強硬路線が独走している、と言うべき状況になっている。
セルラーモジュールとは何か、なぜ厄介か
セルラーモジュールは、機器を4Gや5Gの携帯回線に直接つなぐ小さな埋め込み部品だ。Wi-Fiを使わずに通信したい場面で使う。スマート家電、産業センサー、ルーター、ドローン、医療機器、コネクテッドカー、物流追跡装置、工場設備。挙げていくと、現代の「ネットにつながるモノ」のほとんどに入っている。
FCCの懸念は、この部品が定期的にファームウェアやソフトウェアの 更新経路 を持つという点にある。更新経路は、見方を変えれば遠隔操作の経路でもある。米国側のセキュリティ専門家は、ここに遠隔アクセス・監視・改ざんの抜け道が生まれうると指摘している。
70%という支配率
中国企業、すなわちQuectel(クイクテル)、Fibocom、China Mobile、Sunsea、MeiGは、世界のセルラーモジュール市場の70%以上を握っている。
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Quectel
中国
Fibocom
中国
China Mobile
中国
Sunsea
中国
MeiG
中国
その他
欧米・日本ほか
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数字だけ眺めても響きにくいので、視点を変えてみる。米国のスマート家電メーカー、自動車メーカー、産業機器メーカーが今この瞬間に出荷している製品の多くは、中国企業が作った小さな基板を体内に抱えている。Covered List入りとなれば、これらが新規にFCC認証を取れなくなり、米国市場で売れなくなる。
代替先はあるのか。Sierra Wireless、Telit、u-bloxといった欧米系の老舗はある。だが世界市場の 残り30パーセント を分け合っているにすぎず、急に需要が3倍に膨らんだとき、設計検証・量産・サプライチェーン構築まで含めて間に合うのかは別の話だ。
カー委員長が作った国家安全保障会議
FCC委員長のブレンダン・カー(Brendan Carr)氏は、就任後の2025年3月に国家安全保障会議(Council on National Security)を委員会内に設置した。中国共産党を名指しした、明確に対中国を意図した組織だ。「最新の通信機器、つまりWi-FiやBluetoothを備えた消費者向け電子機器は、技術的にも地政学的にも攻撃面になっている」というFCC関係者の説明が報じられている。
去る10月にもFCCは動いている。米国向け電子機器の認証試験を担う中国国内の試験機関を、原則すべて締め出す方針で投票した。米国向け年間約4万件の認証のうち、約75%が中国の試験機関で行われていた現状からすれば、影響は試験機関の地理的な置き換えだけでは済まない。基本的なFCC認証試験のコストは、中国の試験機関で400〜1,300ドル、米国だと3,000〜4,000ドル。試験コストの段階で 2倍から10倍 の差がある。
静かに張られてきた包囲網
Covered Listに中国・ロシア企業を載せる動きは新しくない。Huawei、ZTE、Hytera、Hikvision、Dahuaは既に載っている。China TelecomとChina Mobileも2022年に追加された。
ただし、これまでのCovered Listは「特定産業向けの完成品・サービス」を対象にしていた色合いが強かった。これに対し今回検討されているのは、完成品の内部に組み込まれている 部品そのもの を対象にする話だ。性質が違う。完成品の禁輸は出荷の差し止めで済むが、部品禁輸は基板設計のやり直しを意味する。
| 企業名 | 業種 | 指定状況 | 動向 |
|---|---|---|---|
| Huawei | 通信機器 | 指定済み | 初期5社 |
| ZTE | 通信機器 | 指定済み | 初期5社 |
| Hytera | 業務用無線 | 指定済み | 初期5社 |
| Hikvision | 監視カメラ | 指定済み | 初期5社 |
| Dahua | 監視カメラ | 指定済み | 初期5社 |
| China Telecom | 通信キャリア | 指定済み | 2022年追加 |
| China Mobile | 通信キャリア | 指定済み | 2022年追加 |
| Quectel | セルラーモジュール | 議論中 | 今回検討 |
| Fibocom | セルラーモジュール | 議論中 | 今回検討 |
| Sunsea | セルラーモジュール | 議論中 | 今回検討 |
| MeiG | セルラーモジュール | 議論中 | 今回検討 |
QuectelとFibocomについては、2023年の段階で当時のローゼンウォーセル前委員長が既にFBI・司法省・国家安全保障局・国防総省などに対し、Covered List入りの検討を要請していた。当時のFCCは「単独で追加する権限はない」としつつも検討を促した経緯がある。3年越しの議論が、トランプ政権下で結論に近づきつつある。
セルラーIoTモジュールは、機器とインターネットをつなぐ「橋」として機能する。中国側がこの橋を握れば、データを抜くこともでき、機器を停止させることもできる。
米下院中国特別委員会が2023年に出した懸念文書の主旨はこのとおりだ。3年経って、技術環境は変わっていない。むしろ家電からクルマまでセルラー通信が広がり、リスク表面積は拡大した。
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米国の家庭と工場、そして高い代償
Covered Listに追加された場合、米国のIoT産業はサプライチェーンの再構築を迫られる。短期的には部品調達コストが上がり、製品価格に転嫁される。
Rip and Replace(剥がして交換)と呼ばれる撤去プログラムは、HuaweiとZTE関連だけで議会から計50億ドル規模の予算が必要だと算定された経緯がある。
今回のスケールはそれを上回る可能性が高い。
中国側の反応も読みやすい。報復関税、レアアース輸出制限の再強化、米国製機器への規制強化、いずれも過去に使った手札だ。10月のAPECで合意したばかりの 休戦の枠組み が、北京会談の前にFCC独自の動きで揺さぶられている。
セキュリティ懸念と経済合理性が衝突する局面で、今回ほど純粋な事例は珍しい。70パーセントのシェアを握る相手を排除する判断には、価格・供給・代替先の整備までを含めた長い時間軸が要る。
トランプ大統領が北京から帰国した後の数週間。そこが最初の節目になる。
参照元
他参照