米空母の電磁カタパルト、蒸気式に逆戻り。トランプ氏が覚書に署名
1万2200回の発艦をこなした技術が、9年前の一言で退場を迫られている。
1万2200回の発艦をこなした技術が、9年前の一言で退場を迫られている。
「蒸気に戻せ」──9年越しの大統領令
米海軍の次期空母から、電磁カタパルトが消える。
トランプ大統領は現地時間8月13日、海軍の造船体制を見直す大統領覚書に署名した。覚書の柱のひとつが、フォード級空母4番艦USSドリス・ミラー(CVN-81)に搭載予定のEMALS(電磁式航空機発艦システム)を、旧来の蒸気式カタパルトに置き換える計画の策定だ。同時に、電磁式の先進兵器エレベーターも油圧式に戻すよう指示している。
国防長官には60日以内に、タイムラインとコストを含む具体的な計画を提出するよう求めた。
トランプ氏とEMALSの因縁は長い。2017年、Time誌のインタビューで空母フォードの新型カタパルトを批判し、海軍に「goddamn steam」(蒸気に戻せ)と言い放った。2019年には横須賀基地を訪問した際にも蒸気式を支持する姿勢を崩さず、2025年10月のアジア訪問でも重ねて主張している。
9年間、持論を曲げなかった。そしてついに、覚書という形で実行に移した。
2017年5月 「蒸気に戻せ」発言 Time誌インタビューでEMALSを批判。海軍に蒸気式カタパルトへの回帰を要求 2017年7月 USSフォード就役 EMALS初搭載のフォード級1番艦。初期の信頼性は設計目標を大きく下回る 2019年5月 横須賀で蒸気式を再主張 横須賀基地訪問時にEMALSの信頼性を批判し蒸気式への支持を繰り返す 2025年11月 コンステレーション級中止 設計変更の繰り返しで元設計との共通性が15%に低下。計画を打ち切り 2026年5月 フォード326日展開から帰還 EMALSで1万2200回以上の発艦を達成。ベトナム戦争以来最長の展開記録 2026年8月 大統領覚書に署名 CVN-81のEMALSを蒸気式に変更する計画の策定を指示。60日以内に提出 |
EMALSとは何か
EMALSは、空母の甲板から航空機を射出するシステムだ。従来の蒸気式カタパルトが高圧蒸気でピストンを押し出すのに対し、EMALSはリニアインダクションモーターで機体を加速する。
蒸気式カタパルトは1950年代から米空母の標準装備だった。EMALSはその約70年ぶりの世代交代として開発された。
蒸気式との違いは明確だ。蒸気を貯める必要がないため射出間隔が短く、電磁制御で射出力を細かく調整できる。重い戦闘機から軽量の無人機まで、機種ごとに最適なエネルギーで発艦させられる。理論上は、空母の出撃回数を大幅に引き上げる技術だった。
開発元はGeneral Atomics。USSジェラルド・R・フォード(CVN-78)が、この技術を初めて搭載したフォード級のネームシップとして2017年に就役した。建造費は130億ドル(約2兆円)を超え、世界で最も高価な軍艦でもある。
技術は「成熟した」。しかし大統領は聞かない
EMALSが批判されるだけの理由はあった。
初期の信頼性は惨憺たるものだった。設計目標では故障までの平均発艦回数が4166回とされていたが、実際には数百回で故障が発生した。先進兵器エレベーターも同様に問題を抱え、フォードは一時、航空機の発艦すらできない状態に陥った。
ところが、その技術は時間とともに改善されている。
2026年5月、フォードはノーフォーク海軍基地に帰還した。ベトナム戦争以来最長となる326日間の展開を終えてのことだ。この間、第8空母航空団はEMALSを使って1万2200回以上の発艦と5760時間以上の飛行を記録した。地中海、カリブ海、紅海と4つの艦隊管轄海域をまたいだ、過酷な実戦展開だった。
トランプ氏が2017年に「蒸気に戻せ」と言った時点では、EMALSの信頼性に対する批判には技術的な根拠があった。だが2026年の実績は、その根拠の大部分を無効にしている。
英国の軍事専門サイトNavy Lookoutは、蒸気式への回帰論は「10年遅れ」だと指摘している。EMALSの問題は、新技術を同時に大量導入した初期の混乱であり、技術そのものの限界ではなかった、という見方だ。
差し替えは「カタパルトだけ」では済まない
フォード級は、最初から大規模な電化を前提に設計されている。EMALSは48の船体建造ゾーンにまたがっており、カタパルトだけを蒸気式に差し替える、という単純な工事ではない。機関室から居住区、飛行甲板に至るまで、艦全体の設計変更が必要になる。
ウォール・ストリート・ジャーナルは、シンクタンクの試算として設計変更に数十億ドル規模のコストがかかると伝えている。蒸気式カタパルトの運用には、より多くの乗組員も必要になる。
蒸気式カタパルトを搭載した最後の米空母は、2009年就役のUSSジョージ・H・W・ブッシュだ。製造ラインはすでに閉じている。「蒸気に戻す」には、消えたサプライチェーンを一から再構築しなければならない。
コンステレーション級の教訓──繰り返される「改変の罠」
覚書には、もうひとつ注目すべき一節がある。
「海軍は上記プログラム内の成熟した親設計に対し、反復的な設計変更を加えてはならない」
設計変更の禁止。これは、コンステレーション級フリゲートの失敗を直接的に踏まえた文言だ。
コンステレーション級は、イタリアのFREMM設計をベースに「低リスクで迅速に」建造する計画だった。ところが米海軍が設計変更を重ねた結果、元のイタリア艦との共通性はわずか15%にまで低下。コストは10億ドル以上膨らみ、スケジュールは3年以上遅延した。2025年11月、フェラン海軍長官(当時)が計画の中止を発表している。
この教訓から、覚書は「成熟した設計を弄るな」と釘を刺している。
だが、皮肉にもその覚書が命じているのは、フォード級の根幹をなすEMALSを別の技術に置き換える大規模な設計変更だ。「設計変更をするな」と言いながら、最大の設計変更を命じている。この矛盾に、覚書自身は答えていない。
造船改革の全体像。第5海軍工廠と外国企業の参入
覚書の射程は、カタパルト問題にとどまらない。
米海軍の造船能力そのものを立て直す方針が打ち出されている。具体的には、潜水艦と空母の修理能力を増強するための第5海軍工廠の設立だ。現在の4工廠体制では、拡大する潜水艦艦隊の整備需要に対応しきれないという判断がある。120日以内に候補地を含む計画が提出される。
もうひとつの柱は、外国企業の米海軍艦艇建造への参入を認めたことだ。2025年にフィンランドと砕氷船建造で結んだMoU(了解覚書)をモデルに、対潜水艦戦や船団護衛任務を担う水上戦闘艦、補給タンカー、車両輸送船の最大3艦級について、外国サプライヤーの参加を認める。
条件は厳しい。外国企業は米国内に新たな造船所を建設するか、既存の造船所の過半数の持ち分を取得しなければならない。最初の2隻を除き、すべての艦船は米国の造船所で建造する。つまり、外国の技術を導入するが、生産は米国内に固定する方針だ。
対象はCVN-81だけか
覚書がEMALSの撤去を明記しているのは、ドリス・ミラー(CVN-81)のみだ。
すでにEMALSを搭載しているフォード(CVN-78)、建造中のケネディ(CVN-79)とエンタープライズ(CVN-80)はそのまま残る。ホワイトハウスに問い合わせたThe Registerに対し、報道官は覚書の内容を参照するよう回答するにとどめたという。
ただ、覚書が出される前の段階で、海軍はすでにフォード級の設計見直しを進めていた。フェラン前海軍長官は今年初め、CVN-82とCVN-83について「コスト、設計、搭載システムが妥当かどうか検討している」と述べていた。フェラン氏はその後、4月にヘグセス国防長官との対立を理由に事実上解任されている。
| 艦名 | 状況 | カタパルト |
|---|---|---|
| EMALS維持 | ||
| フォード(CVN-78) | 就役中(修理中) | EMALS |
| ケネディ(CVN-79) | 建造中 | EMALS |
| エンタープライズ(CVN-80) | 建造中 | EMALS |
| 蒸気式への変更指示 | ||
| ドリス・ミラー(CVN-81) | 建造初期段階 | 蒸気式に変更 |
| 未定 | ||
| CVN-82 | 未契約 | 検討中 |
| CVN-83 | 未契約 | 検討中 |
CVN-82以降がどうなるかは、まだ分からない。
9年前の「一言」が決めた技術の運命
蒸気式カタパルトは、70年にわたって米海軍の空母を支えた。その信頼性は疑いようがない。
だがEMALSは、326日間の実戦展開で1万回以上の発艦をこなし、技術としての成熟を示した。中国の空母「福建」も電磁カタパルトを採用しており、世界の空母技術は電磁式の方向に動いている。
その流れに逆行する決定が、技術的な分析ではなく、9年前の水兵との会話に端を発している。コンステレーション級の失敗を教訓にしながら、その教訓と矛盾する指示を出す覚書。造船基盤の再建という正論の中に、蒸気式回帰という異質な指示が混じっている。
ドリス・ミラーの就役予定は2034年。それまでに、この決定が見直される可能性もゼロではない。海軍と産業界の抵抗が、9年前に一度そうしたように。