Canonical幹部が明かす。WSL上のUbuntuがネイティブを超える
Windowsの中でLinuxを使う開発者が、LinuxマシンでLinuxを使う開発者より速く増えている。Ubuntuの開発元がそう認めた。数か月以内に逆転する見込みだという。
Windowsの中でLinuxを使う開発者が、LinuxマシンでLinuxを使う開発者より速く増えている。Ubuntuの開発元がそう認めた。数か月以内に逆転する見込みだという。
「数か月以内に逆転する」
Canonical(Ubuntuの開発元)でエンジニアリング担当副社長を務めるジョン・シーガー(Jon Seager)氏が、現地時間4月28日に公開されたインタビューで語った内容が波紋を広げている。聞き手はエンジニアリングニュースレターThe Pragmatic Engineer(実践的エンジニア)のゲルゲイ・オロス(Gergely Orosz)氏。
WSLのユーザー数の伸びは、デスクトップの伸びを大幅に上回っている。数か月以内に、WSLのUbuntuユーザーがネイティブのUbuntuユーザーを超えると予想している
WSL(Windows Subsystem for Linux)はMicrosoftがWindows上でLinuxを動かすために開発した機能だ。仮想マシンやデュアルブートは不要で、ターミナルを開けばそこにUbuntuがある。ホームディレクトリはUbuntuのものがマウントされ、ウィンドウをデスクトップに引き出すこともできる。
ネイティブのUbuntuユーザーより、WSLのUbuntuユーザーが多くなる。開発元自身がそう予測している事実は、WindowsとLinuxの関係を根本から捉え直すきっかけになる。
誤解のないよう補足すると、これは「Windows全体のLinuxユーザーがLinux全体のユーザーを超える」という話じゃない。あくまでUbuntuのWSL利用とUbuntuのネイティブデスクトップ利用の比較だ。それでも、Ubuntuの開発元が「自社OSをネイティブで使う人より、Windowsの中で使う人が多くなる」と公言する意味は大きい。
なぜ開発者はWindowsの中でLinuxを使うのか
シーガー氏はインタビューで、その背景にも触れている。企業から支給されたWindowsマシンでAIや機械学習の仕事をする開発者から、頻繁に声が届いているという。
Linux環境が必要な仕事に就いても、会社のハードウェアポリシーを覆すのは容易じゃない。デュアルブートの許可が下りることも稀だ。WSLなら、IT部門と戦わずにLinux環境が手に入る。Windowsはそのまま残り、管理ツールもセキュリティソフトもそのまま動く。開発者だけがターミナルの向こうにUbuntuを持っている。
AI・機械学習のツールチェーンがLinuxを前提に構築されている現実も大きい。PyTorch、TensorFlow、CUDAの動作検証はLinuxが基準だ。WSLはそのギャップを、OSの入れ替えという代償なしに埋める。
Microsoftが自らWSLを強化し続ける理由
2026年に入り、MicrosoftはWSLを「開発者にとってWindowsを使い続ける理由」として明確に位置づけ始めた。ファイルアクセスの高速化、ネットワーク改善、セットアップの簡略化を進めている。
そして6月末、Build 2026で発表されたWSL Containersがパブリックプレビューとして公開された。Docker Desktopなしで、Windows上にLinuxコンテナをビルド・実行できる機能だ。wslcというDocker風のCLIツールが同梱され、GPUパススルーにも対応している。CUDAベースのPyTorchモデルをコンテナ内で直接実行できることが、公式デモで示された。
ファイルシステムにはvirtiofs(仮想化向けの高速ファイル共有機構)が採用され、Windowsからのファイルアクセス速度が2倍に改善。一般提供は2026年秋を予定している。
Microsoftにとって、開発者がLinuxに移行するのは最悪のシナリオだ。だがLinuxを「Windowsの中」に封じ込めれば、デスクトップの支配権は手放さずに済む。エンタープライズの管理ツール、セキュリティ基盤、ライセンス収入はそのまま維持される。開発者がLinux環境を手にし、Microsoftがデスクトップを失わない。WSLはその均衡点だ。
Canonicalが見ているのはAI PCの時代
シーガー氏のインタビューでは、Canonical自身のハードウェア戦略にも時間が割かれている。
GPU、NPU、DPUへの対応を「OSが最もやるべきこと」と位置づけ、NVIDIA、AMD、Intel、Qualcomm、MediaTekとの提携を通じてドライバ対応を進めている。
NVIDIAは自社のAIワークステーションDGX Sparkを素のUbuntuで出荷しており、かつて独自にカスタマイズしていたDGX OSの廃止に踏み切った。CES 2026ではCanonicalがNVIDIA Vera Rubin NVL72のUbuntu対応を発表している。
Ubuntu 26.04 LTSはNVIDIA CUDA、AMD ROCm、IntelのOpenVINOという3大GPU環境をすべて同梱した初のメジャーディストリビューションになる。
ローカル推論にも賭けている。ハードウェアを自動検出して最適なモデルと量子化を選ぶ「inference snaps」(推論用パッケージ)を整備し、OSレベルでのエージェント型ワークフロー対応も初期検討段階にある。
Canonicalにとって、WSLの成長は脅威じゃない。むしろ好都合だ。ネイティブでUbuntuをインストールしなかった開発者が、WSLを通じてUbuntuに触れている。その開発者がクラウドにデプロイするとき、選ぶのも多くの場合Ubuntuだ。入口がWindowsでも、行き先はUbuntuのまま変わらない。
25年で変わったこと、変わらないこと
2001年、当時MicrosoftのCEOだったスティーブ・バルマー(Steve Ballmer)氏はLinuxを「知的財産に取り付く癌」と呼んだ。
25年後、MicrosoftはAzure Linuxという自前のディストリビューションを維持し、WindowsにLinuxカーネルを同梱し、開発者向けの最も重要な機能の一つとしてWSLを強化し続けている。バルマー氏自身も2016年、Linuxの脅威は「バックミラーの中にある」と態度を改めた。
2001年 バルマーCEO「Linuxは癌」 GPLライセンスを知的財産への脅威と断じた 2016年 WSL初版リリース・態度軟化 バルマー氏がLinuxの脅威を「バックミラーの中」と表現 2019年 WSL 2で本物のLinuxカーネル同梱 互換レイヤーから仮想マシンベースに移行 2025年 WSLをオープンソース化 Build 2025で発表。Ubuntu Pro for WSLも提供開始 2026年4月 WSLのUbuntuがネイティブを超える予測 Canonical副社長が数か月以内の逆転を予想 2026年6月 WSL Containers公開 Docker不要でLinuxコンテナを実行。GPUパススルー対応 |
ただし、WSLはネイティブLinuxデスクトップの代替じゃない。ハードウェアの完全な制御が必要な場面、企業の管理ツールが介在しない環境が欲しい場面では、今もネイティブインストールに分がある。WSLのネットワーク周りにはまだ課題が残っており、Docker Composeとの互換性もWSL Containersの時点では検証途上だ。
それでも、WindowsマシンでUbuntuを起動し、Linuxコンテナを走らせ、GPUワークロードを処理し、完成したコードをLinuxサーバーにデプロイする。そのすべてが1台のPCで完結する世界は、もう実験ではなく日常になりつつある。
Windowsを選ぶか、Linuxを選ぶか。その二択が消えたとき、残るのはOSの名前じゃない。開発者が何を作れるか、それに尽きる。