退職から5年。元上司の「サボタージュ」被害を電源プラグ1本で解決した話

解雇された事務員が仕掛けた「破壊工作」は、コンセントを抜くことだった。5年前に辞めた開発者を夕方に呼び出した元上司が受け取ったのは、プロの請求書。

退職から5年。元上司の「サボタージュ」被害を電源プラグ1本で解決した話

解雇された事務員が仕掛けた「破壊工作」は、コンセントを抜くことだった。5年前に辞めた開発者を夕方に呼び出した元上司が受け取ったのは、プロの請求書。


5年ぶりの電話

退職から5年経った開発者のもとに、かつての上司から電話が入る。1990年、ある通販会社で起きた出来事だ。

Pickは、OSとデータベースが一体化したミニコンピュータ用の統合環境だ。1960年代に米陸軍のヘリコプター部品管理用として生まれ、1970年代以降はビジネス用途に広がった。いまの感覚で言えば、業務管理ソフトとOSがひとつの箱に入っているようなものだ。

The Registerの読者投稿コラム「On Call」に寄せられた今回のエピソードの主人公は、仮名「ウェイド」。ウェイドはこのPickマシンで通販会社の業務ソフトを開発し、やがて退職して別の道に進んだ。

それから5年後、1990年の初め。夕方、自宅の電話が鳴る。

相手は、かつての上司だった。

解雇、そして「サボタージュ」

上司が語った状況はこうだ。

ウェイドが書いたアプリケーションを使って日常業務をこなしていた事務員を、即日解雇した。受注入力、発注書の発行、出荷手配(その全てを1人で回していた担当者だ)。

「1時間以内に荷物をまとめて出ていけ」という解雇だったらしい。

ウェイドはこう書いている。

「それは賢くなかった」

解雇された事務員は、与えられた1時間を有効活用した。注文書を印刷しているPickマシンの電源ケーブルを引き抜いたのだ。彼女なりの「サボタージュ(破壊活動・妨害行為)」である。

印刷が止まり、マシンが落ちた。上司はパニックに陥り、5年前に辞めた開発者の電話番号を探し出した。

電源プラグと深夜料金

駆けつけたウェイドが最初にやったことは、Pickマシンの電源プラグをコンセントに差し直すことだった。

そこから数時間。起動を確認し、データの整合性をチェックし、止まっていた印刷ジョブを再開する。深夜に及ぶ作業だった。

「眠れなかった一晩は、私が請求した料金で十分に埋め合わせがついた」

元上司は大満足だったという。ウェイドも大満足だったに違いない。


本当の「サボタージュ」はどこにあったか

この話のおかしさは、破壊工作の手段がコンセントの引き抜きだった点だけじゃない。

システムの全業務知識がたった1人の事務員に集中していた構造そのものが、すでにリスクだった。その1人を即日解雇するという判断が、2つ目のリスクだ。

そして退職から5年経った外部の開発者しかシステムを触れない。3つ目のリスクだ。

事務員の行為は電源プラグ1本で済んだ。だが仮に彼女がデータベースのレコードを消していたら、あるいはパスワードを変更していたら、話はまるで違っていただろう。

Pickの統合環境はデータの操作に特別な権限を必要としない場合もあり、「サボタージュ」の手段はいくらでもあった。

コンセントを抜くだけで終わらせてくれたのは、事務員の良心だったのかもしれない。


36年前のレガシーが映すもの

The Registerの読者投稿コラム「On Call」には、こうした「退職後に呼び戻される」エピソードが定期的に寄せられる。特定の個人にしか扱えないシステムが、その人物の退職とともに時限爆弾に変わる。

Pickのようなレガシー環境に限った話じゃない。2026年のいま、社内ツールやスクリプトを「あの人にしか分からない」状態で運用している現場は少なくないはずだ。クラウドに移行しても、SaaSを導入しても、属人化の構造は生き延びる。

ウェイドは5年ぶりの呼び出しに応じ、電源プラグを差し、データを確認し、きっちり請求書を出した。

プロフェッショナルの仕事だ。ただ、それが必要になった時点で、組織としてはすでに負けている。

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