マイクロン、訴訟直後に2.5億ドルをトランプ・アカウントへ投資

マイクロン、訴訟直後に2.5億ドルをトランプ・アカウントへ投資

メモリ大手3社に対する反トラスト集団訴訟の提起から5日。被告の一角であるマイクロンが、トランプ政権の看板政策に同種で最大の企業投資を発表した。善意の社会貢献か、それとも計算された一手か。タイミングが語る文脈を、事実から読み解く。


2億5000万ドルの中身

マイクロンは現地時間6月30日、子ども向け投資口座「トランプ・アカウント」(530A口座)に2億5000万ドルを拠出すると発表した。対象は最大100万人の子どもとその家族で、マイクロンが拠点を置くアイダホ、ニューヨーク、バージニア、カリフォルニアなど7州が中心になる。

具体的な仕組みは二つある。一つは従業員向けのマッチング拠出で、18歳未満の子ども1人につき1000ドルまで会社が上乗せする。もう一つはコミュニティ向けの種子資金で、対象地域の子どもに一律250ドルを初期入金する。マイクロンはこれを「同種で最大の企業コミットメント」と位置づけた。

トランプ・アカウントは、2025年に成立した通称「One Big Beautiful Bill Act」で新設された税制優遇付きの子ども向け投資口座で、7月4日の米国独立250周年記念日から拠出が始まる。2025年から2028年に生まれた子どもには連邦政府から1000ドルの初期入金が行われ、18歳まで低コストの米国株インデックスファンドで運用される。

5日前に起きたこと

この発表の5日前、6月25日にカリフォルニア北部地区連邦地裁へ反トラスト集団訴訟が提起された。被告はサムスン電子、SKハイニックス、そしてマイクロン。個人消費者と小規模PC事業者17名が原告となり、3社がHBMへの生産転換を口実に汎用DRAMの供給を協調的に制限し、4年間で約700%の価格上昇を招いたと主張している。

そして発表の6日前、6月24日にはマイクロン自身が2026年度第3四半期決算を発表し、売上高414億6000万ドル、粗利益率約85%という過去最高の数字を叩き出している。5月に時価総額が初めて1兆ドルを突破し、6月末時点では約1兆3000億ドルに達した。マイクロンは今、創業以来最も高い場所にいる。

マイクロンの1週間
6月24日
過去最高益の決算発表
売上高414億ドル、粗利益率85%
6月25日
反トラスト集団訴訟の提起
サムスン・SKハイニックス・マイクロンの3社が被告
6月30日
トランプ・アカウントに2億5000万ドル投資
同種で最大の企業コミットメント
7月4日
トランプ・アカウント拠出開始
米国独立250周年記念日
マイクロン公式プレスリリースおよび裁判所記録に基づく

過去最高益、集団訴訟、そして政権への巨額拠出。三つが同じ週に重なった。

先例としてのApple

テクノロジー企業がトランプ政権との関係を大型投資で管理する手法には先例がある。Appleは2025年2月、米国内に4年間で5000億ドルを投じると発表した。対中関税でiPhoneの製造コストが跳ね上がるリスクを抱えていた時期であり、複数のアナリストは関税リスクの緩和策と分析した。実際にティム・クック(Tim Cook)氏はこの前後にトランプ大統領と面会しており、Appleはその後、一部製品について関税の猶予を受けている。

マイクロンのメロートラ氏も5月の中国公式訪問にトランプ大統領と同行しており、政権との距離は近い。2億5000万ドルという金額はAppleの5000億ドルには遠く及ばないが、トランプ・アカウントという政権の看板政策を選んだ点に意味がある。訴訟の行方に直接影響する額ではない。だが、政権にとって「味方」の顔を見せるには十分な規模であり、発表のタイミングが計算されていないと考えるほうが難しい。

メモリ価格が下がらない構造の上で

マイクロンがここまで築き上げたものを振り返れば、何を守りたいかは見える。

2023年、メモリの販売価格は当時の3分の1まで落ち込んだ。メロートラ氏はインタビューで「特定の顧客が価格を大幅に引き下げた」と述べ、名前は出さなかったものの業界ではAppleを指すと広く解釈されている。粗利益率はマイナス7.3%まで沈み、設備投資は前年の121億ドルから77億ドルへ縮小した。

マイクロン粗利益率の推移
FY2023はGAAP四半期最低値(FactSet引用、記事本文と一致)、FY2024・FY2025はGAAP年間粗利益率、FY2026 Q3はnon-GAAP四半期粗利益率(マイクロン決算報告に基づく)

それが今、粗利益率85%超の企業に変わった。マイクロンは16件の長期顧客契約で供給の過半を2030年まで高い価格水準に固定し、顧客からの前受金は220億ドルに達している。「待てば安くなる」部品がAIインフラを支える戦略資材になり、メーカーと顧客の力関係は逆転した。

集団訴訟はこの構造に切り込もうとしている。訴状は、3社がHBM生産への転換を「口実」に使い、汎用DRAMの供給を協調的に絞ったと主張する。3社は世界のDRAM供給の約90%を握る。2000年代に実際に価格カルテルで有罪判決を受けた前科があり、原告はその事実をもとに今回の協調行動の蓋然性を論じている。

訴訟が勝訴すれば、裁判所がDRAM供給の制限を差し止める可能性がある。価格が下がれば、マイクロンが築いた長期契約と高利益率の体制は根底から揺らぐ。2億5000万ドルのトランプ・アカウント投資を、政権との関係を維持するための支出と読む根拠はここにある。

事実が語ること

念のため整理しておく。マイクロンの投資が訴訟対策だという直接の証拠はない。トランプ・アカウントは多くの企業が参加する政策であり、マイケル・デル(Michael Dell)氏と妻は個人で62億5000万ドルを拠出すると表明している。マイクロンの2億5000万ドルは、その文脈では企業としての社会貢献という説明も成り立つ。

だが、タイミングを無視することもできない。過去最高益の決算発表から6日後、集団訴訟の提起から5日後、トランプ・アカウントの開始2日前。トランプ大統領はTruth Socialでこの投資を称賛し、マイクロンのメロートラ氏を名指しで称えた。政権との関係が良好であることを市場と法廷の両方に示す効果は、意図の有無にかかわらず発生する。

マイクロンにとって2億5000万ドルは、直近四半期の売上高414億ドルの0.6%に過ぎない。この企業が今守ろうとしているのは、年間売上1000億ドルを超える軌道と、粗利益率85%の利益体質と、メモリが「安くなる部品」に戻らない世界だ。その規模に対して2億5000万ドルは、安い投資と言えるかもしれない。

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