サムスン重工業、米テキサスで浮体式データセンターの設計契約を締結

データセンターが、陸から水の上に逃げ出そうとしている。土地がない。電力が足りない。住民が怒っている。だが水上に浮かんでも、電力という綱は陸につながったままだ。

サムスン重工業、米テキサスで浮体式データセンターの設計契約を締結
Samsung Heavy Industries

データセンターが、陸から水の上に逃げ出そうとしている。土地がない。電力が足りない。住民が怒っている。だが水上に浮かんでも、電力という綱は陸につながったままだ。


造船所がサーバーを積む時代

サムスン重工業と米テキサス州ダラスの新興企業Mousterian Corporation(ムステリアン、以下M3)が、浮体式データセンターのエンジニアリング契約を締結した。署名式は現地時間7月22日に行われ、8月3日に発表された。

契約の対象は、係留型浮体式データセンターの基本設計・詳細エンジニアリング・生産設計だ。各施設は50MWのIT容量を持ち、テキサスをはじめとする米国市場への配備を想定している。今回の設計作業を経て、最終的なEPC(設計・調達・建設)契約へ移行する計画で、米国船級協会ABS(American Bureau of Shipping)が施設の船級認証を担う。

M3は2026年4月にサムスン重工業と戦略協力のMOU(基本合意書)を締結しており、今回の契約はその枠組みを「構想から実行」に進める第一歩にあたる。M3はサイトの選定・テナント誘致・資金調達を主導し、サムスン重工業が設計・建造・納入を担う。

M3のミン・スー(Min Suh)CEOは、造船所での建造が従来の陸上建設と根本的に異なる点を強調している。工場製造と現地工事が並行して進むため、陸上方式では実現できないスケジュールの圧縮が可能だという。

なぜ船の上にサーバーを置くのか

浮体式データセンターが注目を集めている背景には、陸上でのデータセンター建設が直面する三重の制約がある。

まず土地。大都市近郊では、数十メガワット級の施設を収容できる用地の確保が年々困難になっている。次に電力。送電網への接続待ち行列が膨れ上がり、数年単位の遅延が常態化している。そして住民の反対。全米で反対運動が拡大し、複数の州でモラトリアム(一時停止措置)が発動されている。

水上に浮かべる方式は、これらの制約を迂回する。港湾や河川に係留すれば広大な土地は不要で、周囲の水を冷却に使えるため、飲料水を消費する蒸発冷却も不要になる。M3の設計は飲料水の消費ゼロ、水路への排水ゼロを掲げ、空冷チラーやファンを排除することで騒音も低減するとしている。

M3の試験拠点はヒューストン近郊にある既存のCCGT(コンバインドサイクルガスタービン)発電所に隣接する計画だ。送電網を経由せず、発電所の余剰容量を直接引き込む。陸上のデータセンターでは使えない電力を確保できる点が、浮体式の最大の売りになっている。

造船業界が「新しい客」を見つけた

サムスン重工業は1974年設立の韓国の大手造船企業で、LNG運搬船や浮体式生産貯蔵設備(FPSO)の建造実績を持つ。チェ・ソンアン(Sung-an Choi)副会長兼CEOは、50年にわたり海洋分野で培った品質とスケジュール確実性を浮体式データセンターにそのまま適用する方針を示している。

2026年に入り、サムスン重工業はこの事業で矢継ぎ早に動いている。4月にはABSとロイド船級協会の両方から50MW級浮体式データセンターの設計原則承認(AiP)を取得。6月のポシドニア海事展示会(アテネ)では、ギリシャの船主Capital Clean Energy Carriersおよびロイド船級協会と3者契約を結び、商業化に向けた投資と規制対応の体制を整えた。同時期にサーバー大手のスーパーマイクロとも共同開発契約を締結し、海洋環境でAIサーバーが安定稼働できるかの検証を開始している。

さらに2025年10月、サムスンはOpenAIと意向表明書を交わし、浮体式データセンターの共同開発を含む戦略的提携を表明した。サムスン物産とサムスン重工業が、Stargateプロジェクトに関連するデータセンターの設計・開発・運営で協力するという内容だ。

M3の共同創設者チェイス・オットウィック(Chase Ott-Wick)氏は、カリフォルニア州ストックトン港で2021年から稼働している世界初の浮体式データセンター「Nautilus Data Technologies Stockton 1」のプロトタイプ開発に携わった人物だ。Nautilus Stockton 1は6.5MWと小規模だが、浮体式データセンターが商用レベルで稼働できることを実証した唯一の先行事例にあたる。

水の上にも、競争がある

浮体式データセンターに参入する動きはサムスン重工業だけではない。

日本では商船三井が日立製作所・日立システムズと2026年3月にMOUを締結した。こちらは新造ではなく中古船を改造する方式で、改造工事は約1年、陸上の新築に比べて開発期間を最大3年短縮できるとしている。2027年以降の稼働を目指し、日本・マレーシア・米国で需要検証を進めている。

さらに異なるアプローチを取るのが、米ワシントン州のPanthalassa(パンタラッサ)だ。同社が開発する「Ocean-3」は外洋で波力発電を行い、処理結果を衛星で地上に送るという、陸とのケーブル接続を一切持たない完全自律型の構想だ。2027年の商用運転開始を目指している。

中国では上海沖の24MW海底データセンターが稼働を開始しており、浮体式(水上)・海底型・外洋型と、データセンターの水上進出は複数の形態で同時に進行している。

テキサスの壁

だが、サムスン重工業とM3にとって喫緊の懸念がある。テキサス州知事のグレッグ・アボット(Greg Abbott)氏が、現地時間8月3日にデータセンターのERCOT(テキサス州電力信頼性協議会)送電網への接続承認を一時停止した。エンジニアリング契約の発表と同じ日だ。

ERCOTが抱える新規接続要請は474GW超。テキサス州のピーク電力需要の5倍以上にあたり、そのうち90%がデータセンターだ。待ち行列には約1800件のプロジェクトが並んでいる。アボット知事はPUCT(テキサス州公益事業委員会)とERCOTに対し、各プロジェクトが自家発電を持つのか送電網に依存するのか、水の消費量はどれだけか、税優遇をどれだけ受けているのかを開示させるよう指示した。要件を満たさないプロジェクトは接続を拒否される。

これは全米で広がるデータセンター規制の流れの一つだ。7月にはニューヨーク州のキャシー・ホークル知事が大規模データセンターの建設を1年間停止する措置を発令し、テキサス州内でも複数の郡や市がモラトリアムを可決・検討してきた。1年前にテキサスをAI開発の「震源地」と呼んだアボット知事自身がブレーキを踏んだ形になる。

M3の設計は、この規制と正面からぶつかるようにも、すり抜けるようにも見える。浮体式データセンターが既存の発電所から直接電力を調達し、送電網を経由しない「メーターの裏側」で運用されるなら、ERCOTの接続待ち行列には並ばなくて済む。M3自身も「電力料金の負担者に影響を与えない」設計だと主張している。

だがモラトリアムの対象範囲はまだ流動的で、水消費量や地域への影響に関する情報開示の要求は送電網の接続方式に関わらず課される可能性がある。浮体式だからといって、規制の網の外にいられる保証はない。

浮体式データセンターの主な動き
2021年
Nautilus Stockton 1稼働開始
世界初の浮体式データセンター。
6.5MW、カリフォルニア州ストックトン港
2025年10月
サムスンがOpenAIと意向表明書を締結
浮体式DC共同開発を含む戦略的提携
2026年3月
商船三井×日立がFDC共同開発のMOUを締結
中古船改造方式。2027年以降の稼働を目指す
2026年4月
SHIがAiPを取得、M3とMOU締結
ABSとロイド船級協会から50MW級FDCの設計認証
2026年6月
ポシドニアで商業化パートナー3社と契約
Capital・ロイド船級協会・スーパーマイクロ
2026年7月
SHI×M3がエンジニアリング契約を締結
テキサス配備の第1号案件。50MW級
2026年8月
テキサス州知事がDCモラトリアムを発令
ERCOT接続待ち474GW、90%がデータセンター

電力の綱

データセンターを水の上に浮かべれば、土地の問題は消える。冷却水も無尽蔵に近い。それでも、サーバーを動かす電力は陸から引くしかない。係留ケーブルの先には、住民が暮らす送電網がある。

浮体式データセンターが「新しい解決策」になるのか、それとも同じ問題を水面の上に移しただけなのか。その答えは、海ではなく陸の上で決まる。

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