NVIDIAがロボット安全基盤を発表。自動運転の技術をヒューマノイドへ転用

NVIDIAがロボット安全基盤を発表。自動運転の技術をヒューマノイドへ転用
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ヒューマノイドロボットが倉庫で人間の隣に立ち始めた。だが「隣に立てる」ことと「隣に立っていい」ことの間には、まだ何も敷かれていない。NVIDIAが現地時間6月22日に発表した「Halos for Robotics」は、その空白を埋めようとする試みだ。


自動運転で作った安全の骨格を、ロボットに移す

Halosという名前に聞き覚えがあるなら、それは正しい。NVIDIAが2025年3月に発表した自動運転車向けのフルスタック安全システムがHalosだ。ハードウェアからOS、AIの挙動制限、第三者認証まで、すべてを一本の設計思想で貫く。Mercedes-Benzの新型CLAへの搭載をはじめ、自動車産業での実装が進んでいた。

今回の発表は、その安全設計をロボティクス領域に拡張するものだ。構成は3層。ハードウェア層にあたるNVIDIA IGX Thorとセンサ接続モジュールのHoloscan Sensor Bridge、ソフトウェア層にあたるHalos OS(安全関連の動作機能と安全アプリケーションを担うソフトウェアスタック)、そして認証準備を支援するHalos AI Systems Inspection Lab。NVIDIAのロボティクス・エッジAI担当バイスプレジデント、ディープゥ・タラ(Deepu Talla)氏は「フィジカルAIが工場や倉庫、物流のあり方を変えつつある。自律システムをこうした環境にスケールさせるには、統一された安全アーキテクチャが必要だ」と述べている。

Halos for Robotics フルスタック構成
IGX Thor + Holoscan Sensor Bridge産業グレードAI演算 + センサ接続Halos OS / Halos Core安全関連の動作機能・安全アプリケーションOutside-In Safety Blueprint施設カメラ+AIエージェントで外部監視Halos AI Systems Inspection LabANAB認定・6認証機関との連携で第三者検証
※ NVIDIA公式発表に基づく構成。各層はNVIDIA IGXプラットフォーム上で統合動作する

自動運転向けのHalosとロボティクス向けのHalosは同じ名前を冠しているが、対象が違えば安全の意味も変わる。車には道路交通法があり、衝突安全の基準がある。ロボットにはまだ、それがない。

最初のパートナーがAgility、そして「Digit」

NVIDIAが最初のパートナーに選んだのはAgility Roboticsだ。同社のヒューマノイドロボット「Digit」は、二足歩行ロボットとして唯一、商業顧客から対価を得て稼働している。GXO Logisticsのジョージア州の倉庫では10万個以上のトートを運搬した実績があり、Amazon、Schaeffler、Toyota Motor Manufacturing Canadaの現場でも稼働中だ。

AgilityはHalos for Roboticsの要素を自社のシステムに統合する。IGX Thorで産業グレードのAI演算と安全機能を確保し、Halos Coreがソフトウェア層の安全動作を支える。さらにHalos AI Systems Inspection Labを使って、Digitの安全関連ソフトウェア、AIコンポーネント、サイバーセキュリティ防御がIEC 61508、ISO 13849、ISO/IEC TR 5469といった産業安全規格を満たすことを検証し、第三者認証に備える。

ペギー・ジョンソン(Peggy Johnson)CEOはこう述べている。「ヒューマノイドが大規模に価値を届けるためには、安全がロボットに組み込まれ、システム全体で検証されていなければならない。NVIDIAとの連携でHalos for Roboticsの実装と最適化を進めることで、私たちは責任ある自動化のリーダーシップを広げる」。Microsoft、Magic Leapの経営を経て2024年3月にAgility CEOに就任したジョンソン氏は、テクノロジーのスケーリングにおいて「安全が交渉不可能な前提条件だ」と繰り返し述べてきた。

外からロボットを見張るAI

Halos for Roboticsのなかで注目すべきアプローチが「Outside-In Safety Blueprint」だ。ロボット自身のセンサだけに頼らず、施設内に設置されたカメラやセンサのデータをAIエージェントが統合し、ロボットの行動を外側から動的に制御する。

倉庫の現場を想像するとわかりやすい。棚の陰から人が出てきたとき、ロボット自身のカメラでは死角になることがある。天井のカメラがその人を捉え、AIエージェントが「保護エリアに人が侵入した」と判断すれば、ロボットを減速または停止させる。逆に、ゾーン内に人がいないことが確認できればロボットの速度を上げ、スループットを維持する。

FORT Robotics、Inventec、KION Group、Lyte AI、Neurealmの5社がこのOutside-In Safety Blueprintを使った機能安全エージェントの開発に着手している。ロボット単体の安全からフリート全体の安全へ、視野が広がりつつある。

認証がなければ、ロボットは「使っていいもの」にならない

安全技術がどれだけ優れていても、第三者が「安全だ」と証明しなければ、産業顧客はロボットを大規模に導入できない。Halos AI Systems Inspection LabはANSI National Accreditation Board(ANAB)から認定を受けた、フィジカルAIの機能安全とAI安全に関する世界初のプログラムだ。もともとは自動運転車を対象に設立され、今回ロボティクスにも対象を広げた。

TÜV Rheinland、UL Solutions、TÜV SÜD、exida、SGS、CertXの6つの認証機関がこのラボを自社の認証プロセスの一部として認めている。40社以上のメーカー・認証機関・安全ベンダーが参加し、設計から実環境への展開までの安全を担保するエコシステムが形成されつつある。TÜV RheinlandはIGX Thor、Halos OS、Holoscan Sensor Bridgeの機能安全認証準備のための検査を担当している。

ANSIのローリー・ロカシオ(Laurie E. Locascio)会長兼CEOは「AIを搭載したロボティクスが産業環境に入るなかで、業界には標準化された国際的なフレームワークが必要だ」「ANABがNVIDIA Halos AI Systems Inspection Labを認定したことで、このプログラムがロボットAIシステムを認められた安全要件に基づいて評価する能力と公平性を備えていることが確認された」としている。

なぜNVIDIAがこれをやるのか

NVIDIAがチップの会社であることは誰もが知っている。IGX Thorを売りたいだけではないか、と疑う読者がいるのは自然だ。実際、IGX Thorの販売拡大がNVIDIAの利益に直結することは否定しようがない。

だが、もう一段引いて見ると景色が変わる。ヒューマノイドロボット産業は今、「動くデモ」から「現場で稼ぐ機械」への移行期にある。Agilityだけでなく、Boston Dynamics、Figure、Tesla、Unitreeと、ヒューマノイドを開発する企業は世界中にある。どの企業も共通して突き当たるのが「安全をどう証明するか」だ。IEC 61508やISO 13849に準拠していることを第三者に認めてもらうプロセスは長く、費用がかかり、しかも前例がほとんどない。

NVIDIAはこの認証インフラを自前で用意し、オープンに提供する道を選んだ。NVIDIAプラットフォーム上で安全認証を取得するルートが確立されれば、ロボットメーカーにとってのNVIDIA離れは困難になる。安全の標準を押さえた者が、産業のプラットフォーマーになる。GPUを売るだけではなく、「GPUの上で動く安全な世界」そのものを売る。

自動運転で同じことをやった結果がどうなったかは、Mercedes-Benzとの関係が示している。

ロボットが人の隣に立つための「通行証」

Halos Coreは現在、NVIDIA IGX向けの早期アクセスで登録開発者に提供されている。LinuxおよびLinux + QNX OS for Safety 8.0の構成に対応する。

ヒューマノイドロボットの安全基準策定はIEEE、ASTM、ISOが並行して進めているが、基準が固まるより先にロボットは現場に出始めている。NVIDIAのアプローチは、基準を待つのではなく、既存の産業安全規格(IEC 61508、ISO 13849)をロボットに適用するための技術基盤と認証経路を先に整えてしまうことだ。

基準がない世界でロボットを動かすのはリスクだ。だがNVIDIAは「基準がないから動かせない」を「基準を満たせる仕組みを先に作る」に変えようとしている。ヒューマノイドが人の隣で働くための通行証を、チップの会社が発行しようとしている。

参照元:NVIDIA Announces Halos for Robotics, the Industry's First Full-Stack Safety System for Physical AI

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