Polymarket「大勝ち動画」は全部ヤラセだった

Polymarket「大勝ち動画」は全部ヤラセだった

10万ドル勝った。次の動画では6万ドル。Polymarketで儲けている若者たちの映像が拡散し、予測市場ブームを支えてきた。だがその賭けは、一度も成立していなかった。


ダミーサイト、偽の取引、報酬つきの台本

ある大学生が1月に投稿した動画がある。トランプ大統領がその月に「McDonald's」と発言するかどうかに10万ドルを賭けて的中させたように見える。この大学生の動画は145件にのぼり、賭け金の合計は41万ドル近くに達する。

だが、賭けは一つも本物ではなかった。

調査報道によると、この大学生はPolymarketが報酬を払って雇った数十人のクリエイターの一人だった。大半は大学生世代で、Polymarketから指示書つきの台本を受け取り、偽の取引を撮影していた。「勝った」ように見えなければ撮り直し。月額の報酬は2,000ドルから3,000ドル(約32万〜48万円)で、Polymarketとの関係は一切伏せるよう求められていたという。

ここまでなら、よくあるステルスマーケティングの話に見える。だが手口はもっと巧妙だった。

Polymarketは自社サイトのほぼ完全なコピーを複数構築し、クリエイターにはそのダミーサイト上で架空の取引を行わせていた。調査は12か所以上の相違点を突き止めている。たとえばダミーサイトの一つはURLが「poIymarket.com」で、大文字のIと小文字のlが区別できない。ボタンの表示も本物とは微妙に異なっていた。ダミーサイトの制作にPolymarketが直接関与していたと、事情を知る関係者は証言している。

実際のPolymarket上で同じ「McDonald's」の賭けを確認すると、50以上のアカウントが賭けに参加し、全員が負けていた。

1,100本超の動画、1億4,000万回の再生

この仕組みは個人の小遣い稼ぎではない。Polymarketが組織的に設計し、運用していたマーケティング装置だ。

調査では、Polymarketに雇われた10人のクリエイターが投稿した全1,133本の動画が分析された。1,105本がPolymarketの宣伝を含み、778本に賭けを行うシーンがあった。そのすべてでダミーサイトが使われていた。149本は実際のニュース映像や記事を流用し、うち128本が賭けの結果を偽って伝えていた。公開データで実際の結果を検証したところ、「勝った」とされた賭けのうち少なくとも69件が、本来は負けだったことも判明している。

WSJ動画分析の内訳(1,133本)
カテゴリ本数全体比
宣伝を含む1,105本97%
賭けシーンあり778本69%
ニュース映像の流用149本13%
虚偽の結果を提示128本11%
※ 各カテゴリは排他的ではなく重複あり。賭けシーンのある778本は全てダミーサイト上の架空取引。「勝ち」とされた賭けのうち少なくとも69件が実際には負けだった

動画の拡散にもPolymarketは直接関与していた。マーケティング会社Viralityと契約し、「クリッパー」と呼ばれる切り抜き・転載部隊を組織。アジアの10代が中心で、クリエイターの動画をコピーしてTikTok、YouTube、Instagramに大量投稿させていた。Viralityはクリッパーに対し、投稿が「自然発生的に見える」ことを求め、アカウント名にPolymarketの名前を含めないよう指示していた。

こうして積み上げられた再生回数は、1億4,000万回を超える。

動画には共通のパターンがあった。約4分の1が「free」(無料)という言葉を使い、「free bread」「free money」といったフレーズで視聴者の注意を引いていた。

ターゲットは米国ユーザー

Polymarketがこれほどの労力を注いだ理由は、米国市場への再参入にある。

Polymarketは2022年、無登録のデリバティブ取引所を運営したとしてCFTCから140万ドル(約2億2,500万円)の制裁金を科された。米国ユーザーのアクセスを遮断する和解にも応じている。2024年11月にはFBIが創業者シェイン・コプラン(Shayne Coplan)氏の自宅を捜索した。

その後トランプ政権下で規制環境が緩和され、Polymarketは2025年にCFTC認可の取引所QCEXを約1億1,200万ドル(約180億円)で買収。同年12月から米国版の限定運用を開始した。ニューヨーク証券取引所の親会社インターコンチネンタル・エクスチェンジ(ICE)が最大20億ドルの出資を表明し、2026年3月には150億ドル(約2兆4,000億円)の評価額で追加資金調達を実施している。

だが米国版プラットフォームの取引量は、海外版に遠く及ばない。最近はKalshiに月間取引量で逆転されてもいる。そこでPolymarketは米国在住のクリエイターを使い、VPN経由で海外版にアクセスする前提の動画を大量投稿させた。本来アクセスできないはずの米国ユーザーを、海外版に誘導する狙いだ。クリッパー部隊に対しても、視聴者の60%以上が米国在住であることが条件として課されていた。

規制の制約を、マーケティングで迂回しようとしていた。

Polymarket 規制経緯と今回の報道
2022年1月
CFTC制裁金140万ドル
米国ユーザーのアクセスを遮断
2024年11月
FBI、創業者の自宅を捜索
2025年7月
CFTC認可取引所を買収
約1億1,200万ドルでQCEXを取得
2025年12月
米国版の限定運用を開始
2026年3月
評価額150億ドルで資金調達
ICEが最大20億ドルの出資を表明
2026年6月
インフルエンサーへの未開示報酬
CMOが個人PayPalで35万ドル以上を支払い
2026年6月
虚偽動画の組織的制作が判明
ダミーサイト・台本・報酬で1,100本超

インサイダー取引の宣伝まで

問題は虚偽動画だけにとどまらない。

Polymarketと契約する人気ストリーマーのアディン・ロス(Adin Ross)氏は、数百万ドル規模の契約で週に30分、ライブ配信中にPolymarketをスクロールしながらコメントしていた。少なくとも5本の動画で、ロス氏はプラットフォーム上でインサイダー情報を使った取引が可能であることを示唆している。ある動画では、知人のヒップホップアーティストのアルバムリリース日を事前に知っている立場から、それを賭けに使えると発言した。

内部資料によると、PolymarketとViralityはインサイダー取引の容易さを宣伝する動画を少なくとも19本、クリッパーに有料で拡散させていた。

CMOのマシュー・モダバー(Matthew Modabber)氏をめぐっては、6月初めに別の調査報道も出ている。個人のPayPalアカウントから20人以上のインフルエンサーに少なくとも35万ドル(約5,600万円)を支払い、その事実を開示させていなかった。モダバー氏はコプラン氏の高校時代からの親友で、PayPalアカウントは自身が共同設立したサラダ店のメールアドレスで登録されていた。

規制と政治の距離

Polymarketは声明で「正確で公正かつ透明な市場の維持に取り組んでいる」とし、プロモーション活動の包括的な監査を実施すると発表した。だが調査の中心的な疑惑に対しては、具体的な反論をしていない。

米国の広告法は、報酬を受けて製品を推奨する場合にその関係を開示することを義務づけている。予測市場を管轄する商品取引法も、欺瞞的な慣行を禁じている。連邦取引委員会(FTC)の報道官は調査結果についてコメントを拒否し、「進行中の可能性がある調査についてはコメントしない」とだけ述べた。

だが規制の議論は単純ではない。トランプ大統領は予測市場を支持する立場を繰り返し表明しており、CFTCの連邦専管権の維持を訴えている。大統領の息子ドナルド・トランプ・ジュニア氏はPolymarketの投資家であり、競合Kalshiの有給アドバイザーでもある。CFTCは6月に予測市場の新規則案を公表し、45日間のパブリックコメント期間に入ったばかりだ。

複数の州がPolymarketやKalshiを違法なスポーツ賭博として提訴し、ミネソタ州は5月に予測市場の運営を重罪とする法律を制定した。連邦と州の管轄権争いは、最終的に最高裁まで持ち込まれるとの見方が強い。

市場の信頼は自分では作れない

Polymarketが売っているのは「群衆の知恵」だ。大勢の人が自分のカネを賭けることで、世論調査より正確な予測が生まれる。2024年の米大統領選でトランプ氏の勝利を早期に織り込んだことで、その主張は一定の信頼を得た。

だが今回明らかになったのは、その「群衆」の入り口が操作されていたことだ。ダミーサイトで撮影された偽の勝利動画がバイラルになり、それを見た新規ユーザーが流入する。プラットフォームの成長を支えていたのは群衆の知恵ではなく、組織的に演出された成功譚だった。

予測市場の価値は情報の正確さにある。その価値を、運営自身が偽造していた。


参照元

他参照

関連記事

この記事を共有する