ロボットが愛想よくミスすると、脳が「裏切り」と判定する

ヒューマノイドロボットのミスに対する人の反応を脳・ホルモン・行動の3層で測定した研究が、表情豊かなロボットほど信頼を失いやすいという結果を示した。

ロボットが愛想よくミスすると、脳が「裏切り」と判定する

ヒューマノイドロボットのミスに対する人の反応を脳・ホルモン・行動の3層で測定した研究が、表情豊かなロボットほど信頼を失いやすいという結果を示した。


「愛着のホルモン」が警戒に変わる

ロボットにジェスチャーや視線を持たせれば、人はそのロボットをより信頼する。ロボット設計の世界で広く共有されてきたこの前提に、脳科学の実験データが疑問を突きつけた。

ドレクセル大学のハサン・アヤズ(Hasan Ayaz)氏らの研究チームが、学術誌Science Roboticsに論文を発表した。実験に使われたのは、ソフトバンクロボティクスの人型ロボット「ペッパー」。50人の被験者がペッパーと対面で会話し、共同で意思決定をする課題に取り組んだ。

実験の条件は4つに分かれる。ロボットが適切な助言をする場合とミスをする場合。そしてロボットが身振りやうなずきで感情を表現する場合と、静止したまま動かない場合。

研究チームはこの4条件を掛け合わせ、脳活動、唾液中のオキシトシン濃度、主観的な信頼度、そしてロボットの助言が実際の判断に与えた影響の4つを同時に測定した。

結果は直感に反する。

表情豊かなロボットがミスをしたとき、被験者のオキシトシン濃度が上昇した。オキシトシンは人と人の絆を強めるホルモンとして知られ、相手への好意や信頼が高まるときに分泌が増える。ところがこの実験では、オキシトシンが高いほど、被験者はロボットを信頼せず、助言に従わなかった。

ホルモンが追跡していたのは愛着ではなく、警戒だった。

脳が「相手の意図を読む」モードに入る

研究チームは脳の活動も測定した。従来のMRI(磁気共鳴画像装置)はスキャナーの中に横たわる必要があり、対面の会話中には使えない。今回はfNIRS(機能的近赤外分光法)という装置を使った。額に装着する携帯型のセンサーで、体を動かしながら脳の血流変化を記録できる。

観測の対象は前頭前皮質の2つの領域だった。ひとつは背外側前頭前皮質。不確実性を監視し、期待や規範が破られたときに反応する。もうひとつは内側前頭前皮質。相手が何を考えているかを推測する、いわゆるメンタライジング(心の理論)を担う領域だ。

表情豊かなロボットがミスをした瞬間、この2つの領域の活動が同時に高まり、互いの連動が強まった。この連動が強いほどオキシトシンが上昇し、オキシトシンが高いほど信頼が下がり、ロボットの助言に従わなくなる。脳の活動からホルモン、ホルモンから行動まで、一本の連鎖を研究チームは確認している。

静止したロボットがミスをした場合にも、信頼は下がった。だが脳の反応パターンは異なる。2つの領域の連動は起きなかった。ミスの結果は同じでも、脳がそのミスを処理する方法が変わった。

表情のないロボットがミスをしても、脳はそれを機械の不具合として処理する。表情豊かなロボットのミスは違う。人と人の間で起きる規範の逸脱と同じ回路が動く。ロボットに表情を与えた瞬間、脳はそのロボットを「意図を持つ相手」として扱い始める。

同じミスでも脳の反応が変わる
表情あり+ミス表情なし+ミス
脳の反応
2領域の連動強まった起きなかった
オキシトシン上昇
信頼・行動
信頼の変化低下低下
脳の処理社会的な違反機械の故障
※2領域=背外側前頭前皮質(規範の監視)と内側前頭前皮質(相手の意図の推測)。被験者50人・全員若年男性・ペッパー1機種での実験結果

ペッパーが示した設計の逆説

この研究結果は、ロボットの設計思想に直接響く。

ロボットが家庭や病院、店舗に入り始めた今、設計の主流は「表情や振る舞いを豊かにすれば信頼が深まる」という方向だった。表情を豊かにし、アイコンタクトを返し、声のトーンを変える。ソフトバンクロボティクスが2026年2月にレンタル専用で再投入した新モデルPepper+も(ペッパープラス)、生成AIによる感情認識と自然な会話を前面に出している。

だが今回の研究は、人間らしさが「信頼の保険」ではなく「信頼の負債」になりうることを示した。表情豊かなロボットは、順調に動いている間は親しみを生む。しかしミスが起きた瞬間、人間らしさが裏目に出る。脳は「この相手は何を考えているのか」と探り始め、オキシトシンは警戒の方向に振れる。

研究には限界がある。被験者50人は全員若い男性で、使われたロボットもペッパー1種類だった。同じ反応が女性や異なる文化圏、あるいは別のデザインのロボットでも再現されるかはまだわからない。fNIRSは前頭部しか測定できず、社会的認知に関わる脳の深部の活動は捉えられていない。

研究チームは次の段階として、ロボットがミスの後に謝罪したり、意図を説明したりすることで信頼を修復できるかを調べるとしている。

ロボットをより人間らしくする技術は進んでいる。しかし人間らしさが何をもたらすかは、まだ十分に理解されていない。ミスをしない完璧なロボットならこの問題は起きないが、ミスをしないロボットは存在しない。

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